蒔田秀夫(まきた ひでお)を攻略して六年目。彼は私と離婚すると言い出し、がんを患った初恋相手と、人生の最後の時間を共に過ごすつもりだと言った。私は同意しなかった。離婚するなら、私は彼を完全に忘れる、と告げた。すると秀夫は、離婚届を無言で突きつけ、露骨な嫌悪を浮かべて言った。「もうすぐ死ぬ人間なんだぞ。そんなに自己中心的になるなよ。嘘ばっかり並べて」――その後、彼の初恋相手は誤診だったと判明する。けれど私は、どうしても彼のことを思い出せなくなっていた。……結婚記念日当日。夫の秀夫が私に用意した「プレゼント」は、離婚だった。「時間あるときでいいから、離婚の手続き、済ませよう。依子は胃がんの末期だ。もう時間がない。俺は、彼女のそばにいなきゃいけない」テーブルの上には、すっかり冷めた料理。心を込めて準備したキャンドルディナーは、この瞬間、ただの笑い話になった。正直、こうなることは予想していた。彼の心が離れている兆しは、ずっと前からあった。彼の初恋相手の田中依子(たなか よりこ)が帰国してから、彼は帰宅が遅くなり、出張も増えた。私たちの会話は減り、私は関係を取り戻そうと、彼が興味を持ちそうな話題を探した。けれど彼は、いつも苛立った様子で話を遮り、私を煩わしそうに扱った。そして迎えた、今日という結婚記念日。少しでも彼を喜ばせたくて、私は準備を重ねた。だが、食事に手をつける前に、帰宅した彼は迷いなく離婚を切り出した。――わかっている。彼の心は、もう私のものではない。拳を握り、何度か深呼吸をしてから、ようやく言葉を絞り出す。「秀夫。離婚したら、私はあなたを忘れる」それは、システムが最初から定めた初期設定。誰にも変えられない。その言葉を聞いた瞬間、彼の表情が一変した。穏やかだった顔つきが、一気に冷え切る。「朱宮光悦(あけみや みつえ)、いい加減にしろ!俺を馬鹿にしてるのか?離婚したら記憶喪失?どうせなら、死ぬって言えばいいだろ」口を開こうとした、その時。彼は疲れ切ったように目を閉じた。「もう、限界なんだ。感情のない相手と、これ以上一緒にいるつもりはない」――結婚して、これだけの年月を重ねてきたのに。彼は、私に「何の感情もない」と言った。理解できなかった。胸の奥が底へ沈む。
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