喧嘩をしてから、三日が経った。 その間、奏からの連絡は一切なかった。涼介がメッセージを送っても既読がつくだけで、返信はない。インターホンを押しても応答がない。完全に拒絶されていた。 涼介は地獄のような三日間を過ごした。 仕事は相変わらず忙しかったが、頭の中は奏のことでいっぱいだった。会議中も資料作成中も、奏の泣き顔が浮かんで消えない。「帰って」と言われた時の奏の声が、耳にこびりついている。あの冷たい声が、何度も涼介の頭の中で再生される。 眠れない夜が続いた。ベッドに横たわっても、壁の向こうの静寂が涼介を責め立てるようだった。奏の配信の声が聞こえないことが、これほど辛いとは思わなかった。奏の声がない夜は、静かすぎて、寂しすぎて、涼介は自分の呼吸の音すら煩わしく感じた。 涼介は何度も、スマートフォンに保存した奏の配信を再生した。録音された奏の声は、涼介の渇きを一時的に癒やしてくれる。けれど、それは本物ではない。奏の声が聴きたい。生のリアルタイムで、涼介だけに向けられた奏の声が。 同僚の山下が、涼介の様子の変化に気づいた。「黒川、大丈夫か? 顔色悪いぞ」「大丈夫だ」「大丈夫には見えないけどな。彼女とでも喧嘩したか?」 山下の言葉に、涼介はぎくりとした。彼女ではないが、恋人とは喧嘩している。それを山下に言えるはずもなかった。「別に」「そうか。まあ、何かあったら言えよ。俺でよければ聞くから」 山下が涼介の肩を軽く叩いて、自分のデスクに戻った。涼介はその背中を見送りながら、複雑な気持ちになった。 山下は気のいい同僚だ。要領がよく、時には涼介の手柄を横取りすることもあるが、根は悪い人間ではない。けれど、涼介は山下に本当のことを言えない。自分がゲイであること、恋人がいること、その恋人と喧嘩したこと。全部、隠さなければならない。 隠し事ばかりの人生だ。 職場では本当の自分を出せない。プライベートでも、奏以外には本当の自分を見せられない。唯一、全てを曝け出せる相手が奏だった。そんな奏との関係が、今、危機に瀕している。
Dernière mise à jour : 2026-01-17 Read More