「今度の休み、よかったら出かけませんか?」 水曜日の夜、奏からそう誘われた。 涼介は一瞬、自分の耳を疑った。出かける。二人で。それはつまり、デートということではないのか。「どこに行くんですか?」「映画と、ランチと……あとは、散歩でもしようかなって。黒川さんの行きたいところ、どこでもいいよ」 奏は微笑んでいた。その笑顔には、期待と緊張が入り混じっているように見えた。「喜んで」 涼介は即答した。断る理由など、どこにもなかった。 * 土曜日。 涼介は朝から緊張していた。何を着ていくか、三十分以上悩んだ。小さなウォークインクローゼットの中を何度も行き来し、何着も試しては脱ぎ捨てた。結局、白いシャツにベージュのチノパンという、いつもより少しだけカジュアルな格好を選んだ。 鏡の前で髪を整えながら、涼介は自分を笑った。こんなに念入りに身支度をするのは、いつ以来だろう。デートだ。奏とのデート。その事実だけで、涼介の心は浮き立っていた。 約束の十時、マンションのエントランスで奏と待ち合わせた。 奏は淡いブルーのカットソーに細身の黒いパンツを合わせ、焦げ茶の髪を後ろで緩く束ねていた。その姿は、涼介の心臓を掴んで離さなかった。細い首筋、華奢な肩、すらりと伸びた足。どこを見ても、涼介の目は釘付けになった。「おはよう、黒川さん」「おはようございます」 二人は電車に乗り、都心へ向かった。 車内は混んでいて、吊り革につかまって立つしかなかった。人混みの中、奏の体が涼介に押し付けられる形になった。「ごめん、狭くて」「いえ、大丈夫です」 大丈夫ではなかった。奏の体温が涼介の体に伝わってくる。シャンプーの香りが鼻をくすぐる。心臓がバクバクいって、きっと奏にも聞こえているのではないかと思った。電車の揺れに合わせて奏の体が涼介に当たる。そのたびに、涼介の全身に電流が走った。 目的地の渋谷で降り、まず映画館へ向かった。 観
Dernière mise à jour : 2026-01-07 Read More