壁越しの溺愛ボイス

壁越しの溺愛ボイス

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-04
Oleh:  海野雫Baru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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「君の声で、何度もイッてしまった」──そんな秘密、言えるわけがない。 深夜、壁越しに聞こえる甘い囁き。ASMR配信者の声に溺れる夜を重ねていた涼介は、ある日、声の主と出会ってしまう。 白石奏。中性的な美貌と、耳を蕩かす声の持ち主。 だが奏は、すべてを知っていた。壁の向こうで乱れる涼介の息遣いも、自分の声に堕ちていることも。 「僕の声、好き? ……君だけに届けてたんだよ」 穏やかな笑顔に隠された独占欲。逃がすつもりなんて、最初からない。 声で繋がり、声で溺れる。壁一枚から始まる、執着溺愛ラブ。

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8 Bab
プロローグ 壁の向こうの声
 深夜零時を過ぎていた。 黒川涼介は、マンションのエントランスで鍵を取り出しながら、重い息を吐いた。肩が鉛のように重い。目の奥がじんじんと痛む。今日も終電ギリギリだった。 誰のために。何のために。 そんな問いが浮かぶたびに、涼介は意識的にそれを押し殺してきた。考えても仕方がない。自分で選んだ道だ。総合商社の海外事業部。入社六年目。周囲からはエリートコースだと言われる。だが、涼介自身はその言葉を素直に受け取れたことがなかった。 エレベーターのボタンを押す。四階。築十五年の中規模マンション。新入社員時代に借りて以来、六年間ずっとここに住んでいる。 都心から電車で四十分。同僚たちの多くは会社近くの高級マンションを選ぶ。だが、涼介にはこの距離が必要だった。仕事とプライベートを切り離すため、そして誰にも詮索されないためだ。 自分の私生活を、誰にも覗かれたくない。 自分が何者であるかを、誰にも知られたくない。 エレベーターが四階に着く。長い廊下を歩きながら、涼介は無意識に隣の部屋――四〇三号室のドアに目をやった。 一か月ほど前、あの部屋に誰かが越してきた。引っ越し業者のトラックを見かけたし、何度か廊下で物音を聞いた。だが、顔を合わせたことは一度もない。それでいいと、涼介は思っていた。隣人と親しくなる必要などない。 四〇二号室の扉を開ける。真っ暗な部屋。電気をつける気力もなく、涼介は靴を脱いだ。 1LDKの部屋。一人暮らしには十分な広さだが、最低限の家具しかない。ここは寝に帰るだけの場所だ。六年間住んでいるのに、愛着らしい愛着もない。 スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩める。鏡の前に立つと、疲れ切った自分の顔が映っていた。 整った顔立ちだと言われる。長身で、黒髪短髪で、精悍な印象だ。だが、涼介自身はその評価に違和感を覚えていた。外見が整っていることと、人生がうまくいくことは、まったく別の話だ。 今日のプレゼン資料も、そうだった。 シンガポールの新規プロジェクトに関するプレゼン資料を、涼介は一週間かけて作り上げた。市場
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-01
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第一章 声に堕ちる
1-1 息が詰まる日常 月曜日の朝は、いつも憂鬱だった。 黒川涼介は、混雑する通勤電車の中で吊り革につかまりながら、窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めていた。郊外のマンションから都心のオフィスまでは片道四十分で、その通勤時間だけが、涼介にとって唯一の「無」になれる時間だった。 車窓の向こうでは、住宅街が途切れ、高層ビルが増え始めている。灰色のコンクリートと、朝日を反射するガラスの壁。東京という街は、どこまでも無機質で、どこまでも他人に無関心だ。それが涼介には心地よかった。誰も涼介のことを見ていない。誰も涼介のことを気にしていない。大勢の中に紛れて、透明人間のように生きていられる。 イヤホンからは、ジャズのボーカル曲が流れている。低く、甘い女性の声。ビリー・ホリデイの古いレコードをデジタル化したものだ。涼介はこの曲を、もう何百回聴いたか分からないほどだ。歌詞の意味など、とうに忘れてしまった。ただ、この声の響きだけが、涼介の心を静めてくれる。 音楽を聴いている時だけ、涼介は「自分」でいられた。 声というものには、不思議な力がある。言葉の意味を超えて、直接心に染み込んでくる何か。涼介はその「何か」に、物心ついた頃から惹かれ続けてきた。母親の子守唄、ラジオから流れるDJの声、映画の中の俳優の台詞。涼介の記憶は、いつも「声」と結びついている。 電車が駅に着くたびに、人が乗り降りする。スーツ姿のサラリーマン、制服を着た学生、買い物袋を持った主婦。誰もが自分の世界に閉じこもり、他人に関心を持たない。スマートフォンの画面を見つめる人、目を閉じて眠る人、ぼんやりと宙を見つめる人。 それでいい、と涼介は思う。 誰にも注目されず、誰にも干渉されない。それが、涼介にとって最も心地よい状態だった。 都心のターミナル駅で電車を降り、オフィスビルに向かう。涼介が勤める総合商社は、駅から徒歩五分の高層ビルに入っている。朝の八時半、出勤ラッシュの人波に紛れながら、涼介は無表情で歩を進めた。 エントランスを抜け、エレベーターに乗り、十二階のフロアに降りる。自動ドアが開いた瞬間、オフィス特有の空気が涼介を包み込んだ。空調の音、コピー機の稼働音、そして無数の人の声。「おはようございます」 受付の女性に軽く会釈をして、自分のデスクに向かう。 海外事業部のフロアは、すでに活気に満
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-01
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1-1-2
 昼休み、涼介は一人でビルの屋上に出た。 ここは涼介の秘密の場所だった。社員のほとんどは社員食堂やコンビニで昼食を済ませるので、屋上に来る人間はほとんどいない。風が強い日は特に誰も来ない。今日は曇り空で、冷たい風が吹いていた。 涼介はベンチに座り、イヤホンを耳に押し込んだ。音楽が流れ始める。低く、甘い、囁くような声。 この声を聴いている時だけ、涼介は「自分」でいられる。 オフィスで被っている仮面を外し、誰にも見せない本当の自分に戻れる。感情を持ち、傷つき、求めている自分。誰かに認められたいと願い、誰かに優しくされたいと渇望している自分。 涼介には、もう一つの秘密があった。 ゲイであること。 それは、この会社で生きていく上で、絶対に知られてはいけないことだった。 総合商社という男社会で、ゲイであることがバレたらどうなるか。涼介は、想像するだけで背筋が凍る思いだった。陰で何を言われるか分からない。出世に響くかもしれない。最悪の場合、居場所を失うかもしれない。 時代は変わりつつある、と人は言う。LGBTQへの理解が進み、多様性を認める社会になりつつある、と。だが、涼介が生きているのは「理想の社会」ではなく、「現実の職場」だ。飲み会での下ネタ、「彼女いないの?」という何気ない質問、「男なんだから」という無意識の偏見。それらが日常的に飛び交う環境で、カミングアウトする勇気など、涼介にはなかった。 だから涼介は、完璧に「普通の男」を演じてきた。 合コンに誘われれば営業スマイルで参加し、「いい人いないの?」と聞かれれば「仕事が忙しくて」と笑ってごまかす。女性と付き合ったことがないのは「奥手だから」で通してきた。飲み会では適度に相槌を打ち、下ネタには曖昧に笑い、誰とも深い関係を築かないようにしてきた。 誰も疑わない。涼介は完璧に「普通の男」を演じていた。 でも、それは演技だ。 本当の自分は、誰にも見せられない。「お、黒川。ここにいたのか」 声がして、涼介は顔を上げた。山下が屋上のドアから出てくるところだった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-02
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1-2 声の虜囚
 また、だ。 あの夜から一週間が経っていた。毎晩のように、壁の向こうから声が聞こえてくる。一か月前に越してきた隣人の存在を意識し始めたのは、つい最近のことだった。 涼介は息を殺し、耳を澄ませた。「……今夜も、聴いてくれてありがとう」 低く、甘い、囁くような声。 息を含んだ、柔らかな響き。 涼介の全身に鳥肌が立った。普通の人なら絶対に聞き取れないほどの微かな音だ。このマンションはコンクリート造りで、通常の生活音はほとんど聞こえない。なのに、涼介の耳にはすべてが克明に届いてしまう。呼吸のリズム、唇が動く気配、声帯が震える振動までも。「疲れてる? 大丈夫……僕がそばにいるから」 心臓が跳ね上がる。 その声を聴くたびに、涼介の体は正直に反応した。背筋がぞわりと震え、指先が痺れ、下腹部に熱が溜まっていく。声のトーン、息遣い、言葉の間。すべてが涼介の神経を刺激する。 ――まずい。 自分でも分かっていた。これは、まともな状態じゃない。見知らぬ隣人の声に、こんなにも支配されるなんて。普通じゃない。異常だ。 でも、やめられなかった。「目を閉じて。深呼吸して。今日も一日、頑張ったね」 声が、耳の奥に染み込んでくる。まるで蜂蜜のように甘く、羽毛のように柔らかく。涼介の全身を包み込み、疲れ切った心を優しく撫でていく。 まるで自分に向けて語りかけられているような錯覚に陥る。涼介の呼吸が浅くなる。下腹部に熱が溜まっていくのを感じて、涼介は唇を噛んだ。シーツを握りしめる手に、力が入る。「おやすみ……また明日ね」 声が途切れた。 静寂が戻る。 涼介は呆然と天井を見つめていた。心臓がまだ激しく脈打っている。額に汗が滲み、シーツを握りしめた指が震えていた。 たった数十秒の声だった。それだけで、涼介の体は限界まで熱を持っていた。「……くそ」 
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-02
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1-3 気づかれている
 ――白石奏は、配信を終えた後、静かに壁に手を当てた。 コンクリートの冷たさが、掌に伝わる。 この壁の向こうに、「あの人」がいる。 奏は目を閉じ、壁の向こうの気配を感じ取ろうとした。 かすかな息遣い。シーツが擦れる音。そして、押し殺した嗚咽。 ――泣いている。 奏は、その音を聞くたびに、胸が締め付けられる思いがした。 同時に、言いようのない高揚感も覚えていた。  自分の声が、誰かを泣かせている。自分の言葉が、誰かの心を動かしている。  奏が四〇三号室に引っ越してきたのは、一か月前のことだった。 声優の夢を諦め、ナレーターとして再出発を図った奏にとって、東京都内の家賃は高すぎた。仕事は不安定で、収入もままならない。そこで、少しでも家賃を抑えるために郊外のこのマンションを選んだのだ。 築十五年、駅から徒歩七分の1LDKの部屋。家賃八万円。 フリーランスのナレーターにとっては、それでも大きな負担だった。企業向けのナレーション案件は、月によって収入が大きく変動する。今月は三十万円稼げても、来月は五万円かもしれない。そのように不安定な生活の中で、八万円の家賃は決して安くはなかった。 引っ越してきた当初、奏は隣人の存在をほとんど意識していなかった。 四〇二号室の住人は、深夜に帰宅し、早朝に出勤する。生活時間が完全にずれていて、顔を合わせる機会はなかった。 足音から推測するに、男性だろう。背が高く、体重はそれほど重くない。歩き方は規則正しく、几帳面な性格が窺える。革靴の音がするから、おそらく会社員なのだろう。毎日深夜に帰ってくるということは、かなり忙しい仕事に就いているはずだ。 奏は、音から人を読み取ることに長けていた。 声優養成所で鍛えた耳は、かすかな音の変化も聞き分ける。足音、ドアの開閉音、シャワーの音。それらから、隣人の生活パターンを把握することは難しくなかった。 毎日深夜に帰宅し、シャワーを浴び、すぐに寝る。週末も変わらない生活
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-03
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1-4 運命の誤配達
 土曜日の昼過ぎ。 珍しく休日出勤がなかった涼介は、惰眠を貪っていた。 平日の疲れが溜まりに溜まって、目覚まし時計が鳴っても起き上がれない。ようやくベッドから這い出したのは、正午を過ぎた頃になってからだった。 カーテンの隙間から、眩しい光が差し込んでいる。涼介は目を細めながら、キッチンに向かった。 冷蔵庫を開けると、中はほとんど空っぽだった。牛乳のパック、卵が二個、萎びた野菜が少々。賞味期限を過ぎたヨーグルトが、奥の方で忘れ去られている。 買い物に行かなければ。 そう思いながらも、体が動かない。休日くらい、何もしたくなかった。 コンビニでいいか。 涼介はそう結論づけて、着替えを始めた。スウェットパンツに、洗いざらしのTシャツ。休日の涼介は、平日のスーツ姿とは別人のようにだらしない。髪も寝癖のままで、髭も剃っていない。会社の同僚が見たら、目を疑うだろう。 インターホンが鳴ったのはその時だった。「宅配便でーす」 涼介は寝ぼけたままオートロックの解除ボタンを押す。 しばらくすると玄関のチャイムが鳴ったので、涼介は玄関に向かった。 ドアを開けると、配達員が段ボール箱を持って立っていた。汗を拭きながら、伝票を差し出す。「黒川さんですか?」「はい」「お届け物です。サインお願いします」 涼介は言われるままにサインをし、荷物を受け取った。特に何も頼んだ記憶はないが、会社関連の資料かもしれない。 ドアを閉めてから、ふと伝票を見た。「……白石奏様?」 宛名が違う。 住所を見ると、四〇三号室と書いてある。隣の部屋だ。 誤配達か。 涼介は溜息をついた。 本来なら配達員に返すべきだったが、すでにドアは閉まっている。今さら追いかけるのも面倒だ。 隣に届けるしかないだろう。 涼介は荷物を持って、四〇三号室の前に立った。 インターホンを押す。 数秒の沈
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-03
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第二章 境界線を越えて
2-1 偶然という名の必然 土曜の誤配達から三日が経った。 その間、涼介は一度も奏と顔を合わせていない。それにもかかわらず、隣室の存在は以前より遥かに重く、涼介の意識を占めるようになっていた。 廊下を歩くたびに四〇三号室のドアを見てしまう。エレベーターが開くたびに、中に誰がいるのか確認してしまう。自分の部屋にいても、壁の向こうから物音がするたびに耳を傾けてしまう。まるで思春期の少年のようだと、涼介は自嘲した。二十八にもなって、隣人の気配一つに心を乱されている。 あの日、奏の部屋でお茶を飲みながら話した時間が、涼介の頭から離れなかった。配信ブースを見せてもらい、「KANA」という配信者名を教えてもらった。奏の声を、壁越しではなく直接聴いた。その声は、配信で聴くよりもずっと近くて、ずっと甘かった。耳のすぐそばで囁かれているような錯覚を覚える。鼓膜を震わせるだけでなく、胸の奥まで染み込んでくるような響きだった。 あの声の持ち主が、壁一枚向こうに住んでいる。その事実だけで、涼介の心は落ち着かなかった。 水曜日の朝だった。 出勤前、ゴミを持って部屋を出た涼介は、廊下の先に見覚えのある後ろ姿を見つけて足を止めた。 焦げ茶のセミロングが揺れている。奏だ。同じようにゴミ袋を手にしている。 涼介の心臓が跳ねた。声をかけるべきか。いや、不自然だ。同じマンションに住んでいるだけの隣人に、わざわざ声をかける必要はない。そう思いながらも、足は自然と奏の方へ向かっていた。「おはようございます」 声をかけたのは奏の方だった。振り返った顔に、穏やかな笑みが浮かんでいる。その声は、朝の静けさの中で透き通るように響いた。低すぎず、高すぎず、どこか心地よい周波数。聴覚の鋭い涼介には、その声の輪郭がはっきりと感じ取れた。「あ……おはようございます」 涼介は慌てて頭を下げた。会いたいと思っていたくせに、いざ目の前にすると緊張で言葉が出てこない。「ゴミ出しですか?」「ええ、まあ」 当たり前の
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-04
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2-2 雨の夜の傘
 梅雨入りが発表されてから、一週間が経った。 六月の東京は、どんよりとした雲に覆われる日が多くなった。朝起きた時は晴れていても、夕方には雨が降り出す。そんな不安定な天気が続いていた。 涼介と奏は、あれから何度か食事を共にしていた。奏の部屋で夕食を食べることもあれば、近くのファミレスで一緒にランチをすることもある。ごく自然に、二人の距離は縮まっていった。 しかし涼介は、それ以上踏み込めずにいた。 奏は優しい。いつも笑顔で、涼介の話に耳を傾けてくれる。一緒にいると心地よくて、時間があっという間に過ぎる。 けれど、それだけだ。涼介は自分の感情を押し殺し、ただの「隣人」以上の関係になることを恐れていた。 誤配達の日、初めて奏と顔を合わせた瞬間、涼介は恋に落ちた。一目惚れだった。声だけを知っていた時からひかれていたが、あの中性的で繊細な美貌を見た瞬間、涼介の心は完全に奪われた。整った顔立ち、細い体、柔らかな物腰。そして何より、あの声。すべてが、涼介の理想そのものだった。 だが、その想いを口にすることはできなかった。 ゲイであることを隠して生きてきた涼介は、誰かに本気で恋をすることが怖かった。好きになれば傷つき、期待すれば裏切られる。そう自分に言い聞かせてきた。これまでも何度か、男性にひかれたことはあった。けれど、その度に自分の感情を押し殺してきた。相手が同じ気持ちである保証はない。むしろ、嫌悪される可能性の方が高い。 それに、奏が自分をどう思っているのかも分からない。配信では「大切な人」と言っていたけれど、それが恋愛感情なのか、ただの友情なのか、涼介には判断がつかなかった。奏はナレーターとして、配信者として、言葉を巧みに操る人だ。その言葉をそのまま受け取っていいのか、涼介には分からなかった。 もし告白して、拒絶されたら? 今のこの心地よい関係が、壊れてしまったら? その恐怖が、涼介の足を止めていた。    * その日は、木曜日だった。 朝から雨が降っていて、涼介は折り畳み傘を鞄に入れて家を出た。しかし午後になって雨は止み、夕方には薄日さえ差していた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-04
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