結婚七周年目の記念日。SNSで話題の動画が目に飛び込んできた。コンサート会場の客席で、男が片膝をつき、白いワンピースの女性にプロポーズする。一目見た瞬間、全身の血が凍りついた。男が着ている白いシャツは、今朝、私・水瀬雫(みなせ しずく)が夫である西園寺律(さいおんじ りつ)のためにアイロンをかけたものだ。胸元には、私のイニシャルの刺繍が入っている。三時間前、律は申し訳なさそうに私の額にキスをしたばかりだった。「急に海外と会議することになっちゃって。ごめん、雫、約束してたコンサート、行けなくなった」なるほど、会議ではなく、他の女と一緒にコンサートに行ったのだ。インターホンが鳴り、アシスタントが朝露に濡れた白い薔薇の花束を抱えて立っていた。「社長はどうしても抜け出せないそうで、奥様へのお詫びの品です」息が止まりそうだった。私は白い薔薇が大嫌いだ。「もし愛がなくなったら、別れの合図として白い薔薇を贈って」と冗談めかして言ったことさえある。花束を受け取り、テーブルの上の無駄になったコンサートチケットと一緒にゴミ箱へ投げ捨てた。スマホを取り出し、弁護士に離婚協議書の作成を依頼した。……署名を終え、ソファに座って壁掛け時計の針が進むのを眺めていた。あの動画はさらに拡散されている。コメント欄には羨望の声が溢れていた。【素敵!コンサートでプロポーズなんてロマンチックすぎる!】【彼女、幸せそう。嬉し涙に濡れた顔もキュート】私は動画の中の女性を見つめた。知っている顔だ。星野愛莉(ほしの あいり)、私の異父妹だ。なんて滑稽な話だろう。動画の中の律は赤い薔薇を捧げ、震える声で言っていた。「愛莉、出会うのは遅かったけれど、これからの人生、君と一緒にいたい」その深い愛情に、私の目頭が熱くなる。七年前の蒸し暑い午後、律が私に告白した時の初々しい姿を思い出す。少年の瞳は、夏の太陽よりも熱く輝いていた。「雫、愛するのが怖いのは分かってる。大丈夫、お前が俺を愛してくれるようになるまで、ずっと待ってるから」ドアノブが回り、外の冷気をまとって、律が入ってきた。「まだ起きてたのか?」薄暗がりに座る私を見て一瞬驚いたようだが、すぐに何事もなかったかのように靴を履き替え、ネクタ
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