婚約披露パーティーの席だというのに、ある後輩から供花が贈られてきた。私は当然それを断ったのだが、私が受け取らなかったことを理由に、高田正人(たかだ まさと)は会場を丸ごと葬儀場のような設えに変えてしまった。喪服に着替えた正人は、小川柚(おがわ ゆず)に線香が詰まった籠を手渡しながら、私に聞こえるよう悪意たっぷりに言う。「柚の言う通りだ。結婚は愛の墓場……まさに、今のこの状況はぴったりだよな」そして、正人が柚に線香を渡そうとしたその瞬間、手元が狂ったのか、籠が床に落ちてしまった。床に散らばった線香とともに、私たちの10年にわたる恋も、まるで葬られてしまったかのようだった。それなのに、結婚式の新郎が自分ではないと知った途端、立ち去る私に正人は泣きながら縋り付いてきた。しかし、私は笑いながら言い返す。「今更泣きついてくるなんて、遅すぎると思わない?」……バシンッ。怒りで顔を真っ赤にした正人の父親、高田剛(たかだ つよし)が、生まれて初めて正人を殴った。「何考えてるんだ!今すぐこいつらを叩き出して、恵美(えみ)に謝れ!」正人は顔を背けた。殴られた頬は赤く腫れあがっているが、なぜだか口元には笑みが浮かべ、すごく機嫌が良さそうだった。「謝る?なんで?これは俺と恵美の婚約披露パーティーだ。それに、当の恵美だって何も言ってないんだから、余計な口出しはしないでくれよな」正人はぐいっと私の肩を引き寄せ、耳元で熱い息を吹きかける。「なあ、恵美?」しかし、私は生まれて初めて正人を無視して、ただ静かに、彼の足元に散らばっているバラの花びらを見つめた。この時期にバラを手配するのはかなり大変だったから、一生懸命探したのにな……「自分が何をしてるか、分かってる?」私は静かに尋ねた。正人の笑顔が凍りつき、自信に溢れていた目からは光が消え、私の肩を掴んでいた手からも力が抜けていく。私が正人の味方をしないことが、信じられないようだ。「分かってるよ。けど、たかが婚約披露パーティーだろ?それに言われた通り、ちゃんとおとなしく来てやったのに」正人の顔からは表情が消えた。彼は近くにあったトレイから無造作に指輪を一つ取る。「輪っかをはめるだけなのに、何をそんなにピリピリしてるんだ?」そして、正人は手を伸ばし、柚の左手を取って指輪をはめた。「どうかな?」
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