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第2話

Author: 時ノ木
結局、婚約披露パーティーはぎこちない雰囲気のまま幕を閉じた。あれから、正人はそれ以上ひどいことを言うことは無かったが、私が指輪を受け取ることはなかった。

私はソファに座りながら、母から送られてきたラインに目を通す。それは、正人とは別れ、大人しくお見合いをしろ、と説得するものだった。

でも、まだ諦めきれない。それに、正人が戻ってきて、10年間の恋にちゃんとけじめをつけてくれるかもしれない、そんなわずかな可能性を捨てられずにいた。

パーンッ。

顔を上げると、夜空いっぱいに花火が広がっている。そしてそこには、【高田正人と小川柚、永遠の愛を】と言う文字が……

正人、あなたって本当にサプライズが上手いんだね。

私は、思わずふっと笑ってしまった。でも、自然と涙が溢れ、スマホの画面にぽつりと落ちる。そしてその画面には、今日が正人との10年目の記念日だという通知が表示されていた。

10年という月日。学校で孤立していた私の手を、正人が初めて引いてくれたあの日から、もうそんなに経つのか……しかし、正人は昔のまま、何も変わっていない。情熱的で、向こう見ずで、子供っぽいまま。

そんな時、正人のインスタが更新された。それは正人と柚が手を繋いで歩く後ろ姿の写真。

【親が決めた相手と結婚なんて、何時代の話なんだよ?恋愛なんて自由にするのが当たり前!】

そして私は、柚の指に光る小さな輝きから目が離せなかった。

私の親は正人と一緒になることに反対していた。だから、その指輪は親の決めた縁談に逆らうための、唯一の支えだったのに。今では、写真を見ているだけで、金属のひんやりとした感触が指に伝わってくる。

私はきゅっと唇をきつく結び、顔の涙を拭うと、正人の投稿に「いいね」をつけた。

そしてインスタを閉じ、母にお見合いに行くというメッセージを送る。

【お母さん、日程を調整してくれる?その日は空けるようにするから】

加えて、もう別れると決めた以上、同棲を続けるわけにはいかない。そう思いながら、翌日、会社から帰ってくると、寝室は見知らぬ物で埋め尽くされていた。

「あ、恵美。ちょうど良かった。柚がしばらくここに泊まるから、言っておこうと思って。昨日の夜、少し体を冷やしたみたいで風邪気味なんだよ。家にいてもらえれば、医者もいるし看病もしやすいからさ」と、ダイニングテーブルに座っていた正人が悪びれる様子もなく言ってきた。

家に常駐してくれている医者は、もともと私の慢性胃炎のために正人が手配してくれていたもの。しかし、今では柚がそのお世話になっているらしい。

そこへ、柚がパンケーキを手にキッチンから出てきた。「真ん中のお部屋が広かったから、お医者さんが来やすいかと思って、勝手に使わせてもらっちゃった。恵美さん、大丈夫だよね?」

私が答えようとしたら、正人が口を挟んできた。

「こいつは柚みたいにヤワじゃないから大丈夫だ。好きなように使ってくれ」そう言って、正人はやっと視線を向けた。「柚が料理上手だなんて知らなかった。ほら、お前も温かいうちに食え。けど、お前が帰ってくるのが遅かったから、俺がほとんど食べちまったけどな」

「先輩の口に合ったみたいで良かった。先輩のために、一生懸命練習したんだからね」柚はいつも私が座る場所に腰を下ろし、挑発するように私を見つめてきた。そして、さりげなく指輪を見せびらかす。「まあ、恵美さんの料理が、私の料理より先輩の舌に合ってるのかは、分からないけど、ね?」

二人の息は妙にぴったりで、私が口を挟む隙なんて最初からどこにもなかった。私は寝室のドアの前に立ち、乾いた笑いを漏らす。

「そんなことどうだっていいわ。だって、私は料理なんてできないし、する必要もないから。それに、シェフを雇うお金くらい、私にだってあるもの」

柚が顔を強張らせる。正人も眉をひそめ、一瞬動きを止めた。

「怒ったのか?そんな意地悪いこと言うなよ」

「別に怒ってないし、今日は荷物をまとめて、ここから出ていくために帰ってきただけだから」

すると正人が、ガタンッと音を立てて勢いよく立ち上がった。椅子が床に擦れて、耳障りな音が響く。

「恵美、いい加減にしろよな!俺が父さんをどれだけ憎んでるか、お前も知ってるはずだろ?あいつが母さんを死に追いやったあの日から、俺はあいつに死んでほしいとさえ思ってる。それなのに、なんで今になって父さんの味方なんかするんだよ!なんで俺に逆らうんだ?どうして、柚みたいに俺の側にいてくれないんだよ」
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