INICIAR SESIÓN婚約披露パーティーの席だというのに、ある後輩から供花が贈られてきた。私が受け取らなかったことを理由に、高田正人(たかだ まさと)は会場を丸ごと葬儀場のような設えに変えてしまった。 喪服に着替えた正人は、小川柚(おがわ ゆず)に線香が詰まった籠を手渡しながら、私に聞こえるよう悪意たっぷりに言う。「柚の言う通りだ。結婚は愛の墓場……まさに、今のこの状況はぴったりだよな」 そして、正人が柚に線香を渡そうとしたその瞬間、手元が狂ったのか、籠が床に落ちてしまった。床に散らばった線香とともに、私たちの10年にわたる恋も、まるで葬られてしまったかのようだった。 それなのに、結婚式の新郎が自分ではないと知った途端、立ち去る私に正人は泣きながら縋り付いてきた。 しかし、私は笑いながら言い返す。「今更泣きついてくるなんて、遅すぎると思わない?」
Ver más結婚式の前夜、知らない電話がかかってきた。「恵美、助けてくれ!みんな、おかしいんだよ!俺を海外に追いやろうとしてくるんだ!」電話の相手は正人だった。私は特に動じることもなく、親切心からアドバイスをしてあげた。「警察に言ってみたら?私に言ったって、どうにもならないよ」正人は電話の向こうでしばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。「本当に助けに来てくれないのか?もう二度と会えなくなるかもしれないんだぞ」「いいことじゃない?だって、私はあなたに会いたくないし、海外に行けばご両親にも会わなくて済むんだから。全てがうまく収まるでしょ?」正人が泣きそうな声で呟く。「行きたくないんだよ……」「だから、警察に言ったら?」私はまるで駄々をこねる子供をなだめるように静かに言った。「あなた、もう子供がいるんでしょ?だったら少しは大人になりなさいよ。私に助けを求めてこないで」そう言って電話を切り、すぐに着信拒否設定にした。正人に子供ができたことは、私も風の噂で聞いていた。正人のそばにいつもいた若い女が妊娠したらしい。でも正人は認知しようとしなくて、かなりひどい騒ぎになったんだって。考えなくてもわかる、柚が仕組んだことだ。この一件で、高田家もついに正人を海外へ送る決心をしたようだ。こうなった今、一生国内には戻ってこれないだろう。これらの噂は、真偽がどうであれ都合がよかった。二宮家と安藤家からの圧力をきれいに切り離し、私は当事者ではなく、ただの噂を聞く者として身を置くことができたから。結婚してから、要との関係は日を追うごとに深まっていった。彼はなんでも完璧で、私が心配することは何もない。要が隣にいてくれるだけで、私は大きな安心感に包まれるのだ。大学の創立記念パーティーの日、柚にばったり会った。柚は私に気づくと、さっと目をそらして足早に去っていった。知らないふりをするつもりなのがあからさまだ。「小川さんって、海外に行ったんじゃなかったっけ?」近くにいた同級生が言った。「何年か前に、移住するって聞いたけど。一時帰国してるのかな?」「まさか」別の人が、馬鹿にしたよう言う。「聞いた話だと、どっかの金持ちの子を妊娠したらしいよ。それで、子供を盾にのし上がろうとしたんだけど、結局は相手に堕ろせって言われたんだって。それより、高田さんが来てない
もうどうでもいいと思ってたが、いざ口に出してみるとやはり腹が立つ。この男は私の10年をなんだと思っていたのだろうか?時間も気持ちも、全部無駄にされた……正人が何か言おうと口を開いたが、私はそれを手で制した。「まさか『親なんて関係ない』とか言うつもり?でも、それはあなたにとってであって、私は違うの。あなたとの10年という月日は長いけれども、私が両親からもらった28年という時間にはかなわないの。それに、私が10数年かけて積み上げてきた努力や成果も両親との時間に比べたらなんてこともない。だから今のあなたなんて、要がくれた花束一本にも満たない存在なのよ」気持ちがなくなったら、10年の価値なんてこんなにも簡単になくなってしまうものなのか。「安藤との結婚なんて……政略結婚のくせに。俺にだってまだチャンスはあるんだ。どうにだってできる……」と、正人は私にというより、自分に言い聞かせるように呟いている。「俺だって社長になれる。高田グループに戻りさえすれば……」私は鼻で笑った。この人はまだ知らないのだ。婚約がダメになった後、剛が正人の継母の娘を正式な会社の後継者にしたということを。もう、正人が戻りたいと思っても戻れる場所じゃないのだ。だが、そんなこといちいち教えてあげる気もない。だって、面倒なことに巻き込まれるのはごめんだから。話し終えた後、正人は誰とも話さず、隅っこでずっとお酒を飲んでいた。そして吐くまで飲み、最後には上の階の部屋に運ばれていった。すると、厚かましい友人が一人、私に話しかけてきた。「正人、最近ずっと飲んでばっかりでさ。このままだとあいつ、おかしくなっちゃうんじゃないかって心配なんだよ。だってお前、別れてからあいつのこと何にも構ってやってないだろ?でもさ、今日くらいは、飲み過ぎるなよってぐらい言ってやってくれないかな?」私は、大袈裟に呆れた顔をしてやった。「へぇ、私たちが別れたこと、知ってたんだ。てっきり、知らないからそんなことが言えるんだと思ってたよ。まあ、ただのお馬鹿さんってことだったのね」私はにこりと笑う。「じゃあ、分かりやすく言ってあげる。行かないから」そう言い捨てて、海外へと行ってしまう友人に別れを告げる。個室を出ようとした時、慌ててやってきた柚とばったり会った。柚は私を見るなり、途端に険しい目つきにな
「もしこれを知って君が気味悪がって、俺との婚約を破棄するとか言い出したら……さすがに俺も結構ショックだから、今までずっと言えずにいたんだ」会社のデスクに座っている私の頭の中では、要に言われた言葉がぐるぐるしていた。要はああ言ってくれたけど……考えれば考えるほど、なんだか彼に申し訳ない気がしてくる。そんなことを考え、ため息をつくとノックの音がして秘書が入ってきた。正人から何か届いたらしい。「捨てておいて。これから正人からの届け物は全部受け取り拒否でお願い」この前、あれだけはっきり言ったのに、正人はまだ諦めていないようだ。「それと、高田グループの方がお会いしたいとのことですが……」ウェディングドレスを破られてから、私は高田グループとの契約をやめ、代わりにもっと条件の良い取引を探していた。また、元々高田グループは二宮グループに及ばなかった。だから、婚約破棄が原因で決まっていたプロジェクトも流れてしまった今、まさに泣きっ面に蜂という状態なのだろう。「会わないよ。あ、それについでだからこの書類、高田グループの社長に渡してきて」中身は、正人がドレス試着の際にしたことの証拠だった。「高田グループの将来が不安だから、長期的な提携は見送る、とそう伝えて」正人があんな風に好き勝手できたのは、私がいつも尻拭いをしていたからだけじゃない。彼が剛の一人息子だったことも大きい。どんなことをしても、剛が本気で正人を見捨てることはなかったから。しかし、それにも限度というものがあるので、正人も会社に影響が出るような真似はしなかった。婚約式で騒ぎは起こしても、出席しないなんてことはできなかったように。夜、私は海外へ立つ友人の送別会に行ったのだが、そこには正人もいて、私が部屋に入った瞬間から、彼はじっと私を見つめてきた。友人は気まずそうに私に耳打ちする。「私は呼んでないんだけど……高田さんが勝手に来ちゃって。だから、追い返すわけにもいかなくてさ」私はため息をついて、とりあえず席についた。友人とは仲が良いし、彼女が国を出る前に関係を気まずくする理由もない。正人はひどく落ち込んでいる様子だった。生気のない顔で私の隣に座る正人からは、ふわりとお酒の匂いがする。「なんで俺からの贈り物、受け取ってくれないんだよ?気に入らなかったのか?たとえ他に好きなやつができたとし
私たちが去ると、正人は隣にいた柚に目をやった。「どうして俺がここにいるって分かったんだ?もしかして、GPSでも付けてたのか?」柚はしどろもどろに口を開く。「友達から聞いたの。あなたがここら辺にいるって。だから、探してみようかなって……」正人は、柚を鋭い目つきで見つめた。「その友達って、うちの父さんのことじゃないだろうな?」柚は素早く首を横に振った。しばらく柚に詰め寄っていた正人だったが、めちゃくちゃになった床を見つめ何かを考え始めた。だから、柚がこっそり安堵のため息をついたことに、正人は気づかなかった。一方、私は複雑な気持ちで要の車に乗っていた。私たちのが政略結婚なのは事実だし、正人のように無頓着な人でもない限り、この業界ではみんな、私が正人との婚約に失敗したことを知っている。しかし、いざその話題を自分から切り出すとなると、なんだか言い出しにくかった。「どうして黙ってるんだ?さっき高田が言ってたこと、聞いてたのか?」赤信号で車が止まったので、要はちらりと私を見た。その目はなんだか自信に満ち溢れている。「君は俺を好きになるから。もし好きになれなくても、君が俺を好きになるまで、俺は頑張るからさ」なんと言ったらいいのか分からなかった私だったが、しばらくしてやっと口を開いた。「結婚式、延期したほうがいいかな?今から新しいドレスを探すのも難しいし、お直しが間に合うかどうかも……」でも、このまま延期したら、やっぱりちょっと後悔するかな?そんなことを考えていると、要が少しためらいながら言った。「実は、もう一つ案があるんだ。ただ、君が気に入るかどうか……」要がちらりと私を見る。なぜだか、彼は少し緊張しているようだった。「実は、もう一着ウェディングドレスを用意してあるんだ」「え?」信号が青に変わる否や、要は車を再び走らせ私をある場所まで連れて行くという。そして、ある建物に着くと私の手を引き要は中へと入っていった。そこでは、スポットライトがショーケースの中のウェディングドレスを神々しく照らしていた。裾の部分にあしらわれた白鳥の群れの刺繍はキラキラと輝き、今にでも空へ飛び立ちそうだった。このドレスに比べると、正人に破られてしまったドレスはまるで間に合わせで作ったもののようだった。「前に趣味でデザインしてみたやつなんだ。まさか