Short
彼氏が婚約式を葬式に…今更、後悔しても遅い

彼氏が婚約式を葬式に…今更、後悔しても遅い

Por:  時ノ木Completado
Idioma: Japanese
goodnovel4goodnovel
10Capítulos
24vistas
Leer
Agregar a biblioteca

Compartir:  

Reportar
Resumen
Catálogo
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP

婚約披露パーティーの席だというのに、ある後輩から供花が贈られてきた。私が受け取らなかったことを理由に、高田正人(たかだ まさと)は会場を丸ごと葬儀場のような設えに変えてしまった。 喪服に着替えた正人は、小川柚(おがわ ゆず)に線香が詰まった籠を手渡しながら、私に聞こえるよう悪意たっぷりに言う。「柚の言う通りだ。結婚は愛の墓場……まさに、今のこの状況はぴったりだよな」 そして、正人が柚に線香を渡そうとしたその瞬間、手元が狂ったのか、籠が床に落ちてしまった。床に散らばった線香とともに、私たちの10年にわたる恋も、まるで葬られてしまったかのようだった。 それなのに、結婚式の新郎が自分ではないと知った途端、立ち去る私に正人は泣きながら縋り付いてきた。 しかし、私は笑いながら言い返す。「今更泣きついてくるなんて、遅すぎると思わない?」

Ver más

Capítulo 1

第1話

婚約披露パーティーの席だというのに、ある後輩から供花が贈られてきた。私は当然それを断ったのだが、私が受け取らなかったことを理由に、高田正人(たかだ まさと)は会場を丸ごと葬儀場のような設えに変えてしまった。

喪服に着替えた正人は、小川柚(おがわ ゆず)に線香が詰まった籠を手渡しながら、私に聞こえるよう悪意たっぷりに言う。「柚の言う通りだ。結婚は愛の墓場……まさに、今のこの状況はぴったりだよな」

そして、正人が柚に線香を渡そうとしたその瞬間、手元が狂ったのか、籠が床に落ちてしまった。床に散らばった線香とともに、私たちの10年にわたる恋も、まるで葬られてしまったかのようだった。

それなのに、結婚式の新郎が自分ではないと知った途端、立ち去る私に正人は泣きながら縋り付いてきた。

しかし、私は笑いながら言い返す。「今更泣きついてくるなんて、遅すぎると思わない?」

……

バシンッ。怒りで顔を真っ赤にした正人の父親、高田剛(たかだ つよし)が、生まれて初めて正人を殴った。「何考えてるんだ!今すぐこいつらを叩き出して、恵美(えみ)に謝れ!」

正人は顔を背けた。殴られた頬は赤く腫れあがっているが、なぜだか口元には笑みが浮かべ、すごく機嫌が良さそうだった。

「謝る?なんで?これは俺と恵美の婚約披露パーティーだ。それに、当の恵美だって何も言ってないんだから、余計な口出しはしないでくれよな」正人はぐいっと私の肩を引き寄せ、耳元で熱い息を吹きかける。「なあ、恵美?」

しかし、私は生まれて初めて正人を無視して、ただ静かに、彼の足元に散らばっているバラの花びらを見つめた。

この時期にバラを手配するのはかなり大変だったから、一生懸命探したのにな……

「自分が何をしてるか、分かってる?」私は静かに尋ねた。

正人の笑顔が凍りつき、自信に溢れていた目からは光が消え、私の肩を掴んでいた手からも力が抜けていく。私が正人の味方をしないことが、信じられないようだ。

「分かってるよ。けど、たかが婚約披露パーティーだろ?それに言われた通り、ちゃんとおとなしく来てやったのに」正人の顔からは表情が消えた。彼は近くにあったトレイから無造作に指輪を一つ取る。「輪っかをはめるだけなのに、何をそんなにピリピリしてるんだ?」

そして、正人は手を伸ばし、柚の左手を取って指輪をはめた。

「どうかな?」

柚は嬉しさの中にも、少し恥じらいを見せ正人の腕に抱きついた。「うん、すっごく!でも、恵美さんが……」

「恵美のことなんか気にするな。誰がつけたって同じなんだから」そう言う正人は、私を今にも殺しそうな目つきで睨んでいた。正人は昔から父親の剛を憎んでいて、少しのことでもよく突っかかっている。だから、さっき私が正人の味方をせず剛の味方をした、仕返しのつもりなのだろう。

私は笑みを浮かべ、代々受け継がれてきた結婚相手に渡すネックレスをそっと箱に戻す。

「そうだよね。誰につけても同じこと」

正人の言葉をそのまま返したからか、正人は表情をさらに厳しいものにし、私の耳元に口を寄せた。

「お前、今日はなんでも俺に逆らう気なのか?何か文句があるなら、家に帰ってから言えよな!」

正人が怒りで唇を震わせているのを見て、私の心にも憎しみが芽生えた。

正人と父親の折り合いが悪いのは、今に始まったことではない。これまでに長い時間があり、他にもいくらでも機会があったはずなのに……よりにもよって、私との婚約披露パーティーの日に、しかもこんなやり方で親に反抗するなんて。

私が口を開くより先に、正人の継母の高田智子(たかだ ともこ)が慌てて仲裁に入ってきた。

「恵美、正人はそんなつもりじゃ……あなたたち、もう何年も一緒にいるんだから、正人のこと分かってくれてるでしょ?だから、許してあげてくれないかしら?私たちはずっと、あなただけがうちのお嫁さんだと思ってるから。あ、それに、この指輪は汚れちゃったから、新しいのを買いに行かなきゃね」

正人はふっと鼻で笑い、心底馬鹿にしたように言う。「馬鹿馬鹿しい。ちょっと触っただけで汚れただって?じゃあ、俺に上から下までべたべた触られてる恵美はもっと汚いはずだけど?」

私は身体が固まった。後ろにいる両親の方を振り向けない。

これが雪の中で一晩中頭を下げ続けて、やっとのことで許してもらった婚約だと思うとなんだか情けなくなった。

すると、隣で柚が声を上げて笑い始めた。

「恵美さんって純情なのかと思ってたけど、結局はベッドで媚びるだけの女だったのね。ねぇ先輩、恵美さんがベッドでどんな風に乱れるか教えてよ」

「黙れ!」剛が怒鳴り、酒のボトルを掴んで投げつけようとするのを、私は慌てて止める。

しかし、正人は得意満面の笑みで、柚の言葉に乗っかった。

「お前は知らないだろうけど、ベットでの恵美は最高なん……」なんの躊躇いもなく話を続けた正人だったが、急に言葉を途中で止め、私の顔を見つめたまま、一言も話さなくなった。

そして、媚びるように続きを促している柚を荒々しく突き飛ばし、消え入りそうな声で私の名前を呼ぶ。

「恵美……」
Expandir
Siguiente capítulo
Descargar

Último capítulo

Más capítulos
Sin comentarios
10 Capítulos
第1話
婚約披露パーティーの席だというのに、ある後輩から供花が贈られてきた。私は当然それを断ったのだが、私が受け取らなかったことを理由に、高田正人(たかだ まさと)は会場を丸ごと葬儀場のような設えに変えてしまった。喪服に着替えた正人は、小川柚(おがわ ゆず)に線香が詰まった籠を手渡しながら、私に聞こえるよう悪意たっぷりに言う。「柚の言う通りだ。結婚は愛の墓場……まさに、今のこの状況はぴったりだよな」そして、正人が柚に線香を渡そうとしたその瞬間、手元が狂ったのか、籠が床に落ちてしまった。床に散らばった線香とともに、私たちの10年にわたる恋も、まるで葬られてしまったかのようだった。それなのに、結婚式の新郎が自分ではないと知った途端、立ち去る私に正人は泣きながら縋り付いてきた。しかし、私は笑いながら言い返す。「今更泣きついてくるなんて、遅すぎると思わない?」……バシンッ。怒りで顔を真っ赤にした正人の父親、高田剛(たかだ つよし)が、生まれて初めて正人を殴った。「何考えてるんだ!今すぐこいつらを叩き出して、恵美(えみ)に謝れ!」正人は顔を背けた。殴られた頬は赤く腫れあがっているが、なぜだか口元には笑みが浮かべ、すごく機嫌が良さそうだった。「謝る?なんで?これは俺と恵美の婚約披露パーティーだ。それに、当の恵美だって何も言ってないんだから、余計な口出しはしないでくれよな」正人はぐいっと私の肩を引き寄せ、耳元で熱い息を吹きかける。「なあ、恵美?」しかし、私は生まれて初めて正人を無視して、ただ静かに、彼の足元に散らばっているバラの花びらを見つめた。この時期にバラを手配するのはかなり大変だったから、一生懸命探したのにな……「自分が何をしてるか、分かってる?」私は静かに尋ねた。正人の笑顔が凍りつき、自信に溢れていた目からは光が消え、私の肩を掴んでいた手からも力が抜けていく。私が正人の味方をしないことが、信じられないようだ。「分かってるよ。けど、たかが婚約披露パーティーだろ?それに言われた通り、ちゃんとおとなしく来てやったのに」正人の顔からは表情が消えた。彼は近くにあったトレイから無造作に指輪を一つ取る。「輪っかをはめるだけなのに、何をそんなにピリピリしてるんだ?」そして、正人は手を伸ばし、柚の左手を取って指輪をはめた。「どうかな?」
Leer más
第2話
結局、婚約披露パーティーはぎこちない雰囲気のまま幕を閉じた。あれから、正人はそれ以上ひどいことを言うことは無かったが、私が指輪を受け取ることはなかった。私はソファに座りながら、母から送られてきたラインに目を通す。それは、正人とは別れ、大人しくお見合いをしろ、と説得するものだった。でも、まだ諦めきれない。それに、正人が戻ってきて、10年間の恋にちゃんとけじめをつけてくれるかもしれない、そんなわずかな可能性を捨てられずにいた。パーンッ。顔を上げると、夜空いっぱいに花火が広がっている。そしてそこには、【高田正人と小川柚、永遠の愛を】と言う文字が……正人、あなたって本当にサプライズが上手いんだね。私は、思わずふっと笑ってしまった。でも、自然と涙が溢れ、スマホの画面にぽつりと落ちる。そしてその画面には、今日が正人との10年目の記念日だという通知が表示されていた。10年という月日。学校で孤立していた私の手を、正人が初めて引いてくれたあの日から、もうそんなに経つのか……しかし、正人は昔のまま、何も変わっていない。情熱的で、向こう見ずで、子供っぽいまま。そんな時、正人のインスタが更新された。それは正人と柚が手を繋いで歩く後ろ姿の写真。【親が決めた相手と結婚なんて、何時代の話なんだよ?恋愛なんて自由にするのが当たり前!】そして私は、柚の指に光る小さな輝きから目が離せなかった。私の親は正人と一緒になることに反対していた。だから、その指輪は親の決めた縁談に逆らうための、唯一の支えだったのに。今では、写真を見ているだけで、金属のひんやりとした感触が指に伝わってくる。私はきゅっと唇をきつく結び、顔の涙を拭うと、正人の投稿に「いいね」をつけた。そしてインスタを閉じ、母にお見合いに行くというメッセージを送る。【お母さん、日程を調整してくれる?その日は空けるようにするから】加えて、もう別れると決めた以上、同棲を続けるわけにはいかない。そう思いながら、翌日、会社から帰ってくると、寝室は見知らぬ物で埋め尽くされていた。「あ、恵美。ちょうど良かった。柚がしばらくここに泊まるから、言っておこうと思って。昨日の夜、少し体を冷やしたみたいで風邪気味なんだよ。家にいてもらえれば、医者もいるし看病もしやすいからさ」と、ダイニングテーブルに座っていた正
Leer más
第3話
これ以上、どう味方をしろというのだろうか?この10年、正人が剛に反抗して無茶な行動をするたび、いつも後始末をしてきてあげたというのに。それに私が二宮(にのみや)家の娘だから、剛は私にいい顔をしてくれるが、そのせいで正人から数えきれないほどのひどい扱いを受けてきた。私はただ、普通で幸せな結婚がしたかっただけ。でも正人にとっては、私たちの婚約披露パーティーを台無しにした柚のほうが大切だったようだ。「お前、会社に入ってから本当に父さんそっくりになってきたよな。自分のことばかりで、俺の気持ちなんてまったく考えない。大体この結婚だって、一度でも反対したことあったか?父さんがお前を気に入ってるのを知ってて、それに乗っかっただけだろ!」正人はそう言い募るうちに、次第に感情を高ぶらせ、声には悔しさと不満、そしてどこか拗ねたような響きまで滲み始めていた。どうやら私の間違いだったようだ。両親に無理を言ってまでこの結婚を認めてもらうべきじゃなかった。10年も追いかけてきたこの恋に、素敵な結末が待っているなんて夢見た私が馬鹿だったのだ。「じゃ、お二人とも末永くお幸せにね」もうなんの感情も感じなかった私は、ただ正人を見つめてそう言った。欲しいものは、もう正人には与えられない。そう思いながら、入れ忘れた物はないかと辺りを見回していると、ベッドサイドテーブルが空っぽなのに気づいて、思わず声が漏れた。「あの木の人形は?」「なんだって?」興奮がまだ収まっていない正人は、私が何を言っているのか分かっていないようだ。すると、そばにいた使用人がおどおどと口を開く。「あのお人形でしたら、小川様が誤って壊してしまいまして……旦那様から、捨てるようにと」あの人形は、正人が18歳の誕生日に、私のために彫ってくれたプレゼントだった。どこへ引っ越すときも、必ず持って行っていた。もう10年以上も、ずっと一緒だったのに。「もう出ていくくせに、人形なんか持って行ってどうするんだよ。それに、あれは俺が作ったんだから、俺の味方をする人間にしかやらない」正人は腹立ちまぎれに、そう吐き捨てた。たしかに、その通りだ。別れるというのに、元カレのプレゼントを持っていくなんておかしいことだ。「そうね。じゃあ、私たちの関係はここまでね。今までありがとう」私はそう言い残し、家を後にした。
Leer más
第4話
「まだ芝居を続ける気なのか?恵美にいくらもらったんだ?わざわざ俺が食事に来る場所を選んで、見せつけるように演じるなんて、ご苦労なことだな」正人の軽蔑した眼差しに、私は言葉を失った。正人は、前からこんなにも頭が悪かっただろうか?要に、自分が10年も付き合ってきた男がこんな馬鹿だと知られたらと思うと、顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。これは彼ひとりの醜態なんかではなく、私の男を見る目まで否定されている気分になる。「彼は安藤要。安藤グループの名前ぐらいは、さすがに聞いたことあるでしょ?」私はちゃんと説明しようとしたのだが、正人はもう自分の世界に浸りきっていて、私の言うことなんて全然耳に入っていなかった。「こんなやつが安藤家の人間を名乗るなんてな。安藤要なんて名前、聞いたこともないぞ」忘れていた。数いる財閥の後継者の中で、正人だけが家業に興味を持たず、家と張り合うことしか頭になかったのだ。話が通じないと分かった私は、要に向き直って腕を引くとその場を離れた。どうせ結婚式当日になれば、正人にも分かることだから。正人がまだ追いかけようとしてきたけど、柚が止めてくれて助かった。「先輩、今日は妹さんの誕生日パーティーに行くんでしょ?そろそろ行かないと終わっちゃうよ」結局、正人は追いかけてはこなかった。そして、残された私と要は、顔を見合わせるしかなかった。「ごめんな。レストランを決める時に、ちゃんと下調べしておけばよかった」要は笑った。「こんな風に疑われたのは初めてだよ。いい経験になったから、次からは君との関係を証明できるものや会社の社員証はなんかを、必ず持ち歩くようにするよ」「それと、DNA鑑定書もね」私は静かに付け加える。私たちは顔を見合わせ、お互い吹き出した。結婚式の準備は順調に進み、予約していたウェディングドレスも今日届いた。試着しながらも、感覚はまだ少し夢見心地だった。まさか、私と一緒にバージンロードを歩くのが正人ではなく、要になるなんて、昔は考えもしなかった。しかし、鏡に映る私は、喜びに満ちた穏やかな表情をしている。もう、前の婚約披露パーティーの時みたいな不安はどこにもない。要と一緒に選んだウェディングドレスはものすごく綺麗で、想像していた以上に輝いて見えた。要は用事があって少し遅れて来ることになっていたので、
Leer más
第5話
パシン。私は正人の頬を思いっきりひっぱたいた。「言葉遣いには気をつけなさい。要は私の婚約者で、これから入籍するの。後輩とぐだぐだやってるだけの元カレのあなたが、私にあれこれ言う資格なんてないから!」「あいつのために、俺をぶったのか!?」正人は頬を押さえ、絶望したような顔で私を見つめた。「やっぱり、そいつのことが好きになったんだな。俺が柚と一緒にいたのは、父さんへの当てつけのためだけだったから、柚に特別な感情なんてこれっぽっちもない。それなのに、お前は……安藤ってやつのために俺と別れるって言うんだな!」「そのほうがあなたにとっては好都合なんじゃないの?あなたのお父さんは私とあなたが結婚することを望んでるけど、もう私たちは元に戻れない。だから、お父さんに逆らえて嬉しいくらいでしょ?!」正人は呆気に取られた。そして、何度か荒い息をつくと、なんとか落ち着きを取り戻した。「なら、俺と一緒に行こう。駆け落ちだ!名前を捨てて二人で暮らすんだ。そうすれば、誰にも見つからないだろ!」駆け落ち?冗談もいい加減にしてほしい。この人は私に家族も、これまで築き上げてきたものも、全部捨てろというのか?ただ、正人の父親への当てつけに付き合うためだけに?そんなこと、できるわけないに決まってる!「ありえない!あなたと行くくらいなら、死んだ方がマシよ」私はきっぱりと言い放った。「昔、周りから孤立しても、熱が出るまで勉強して、夜中に泣いていた時でも、跡継ぎの座を諦めようなんて一度も思ったことなんてない。なのに今、それを全部捨ててあなたと一緒に行けって?寝言は寝てから言ってよね!」正人は力なく笑った。「いろいろ言ってるけど、結局は安藤を手放したくないだけなんだろ?お前はもう安藤を好きになって、俺のことは完全に忘れたんだ」話が全く通じない。私はもうどうでもよくなった。「ええ、そうよ。要のことが好き。それが何か?独り身の私が誰と付き合おうと、あなたには関係ないことでしょ?」その瞬間、正人は私のウェディングドレスを掴み、ビリッと大きく引き裂いた。「俺と結婚しないなら、誰とも結婚なんかさせない!」引き裂かれたドレスを見て、私は怒りで我を忘れそうになった。正人の手には、引き裂かれたままのドレスの切れ端がまだ残っている。ため息にも、狂気にも聞こえる声音で、彼
Leer más
第6話
正人は信じられないという顔で私を見つめ、震える声で言った。「なんで、そんな冷たいんだ」この10年、正人が何度も感情的に暴走するたびに、私の忍耐と愛情は少しずつすり減っていった。そして今になって初めて、彼の尻拭いをしなくて済むことが、こんなにも気が楽だということを知った。それは、要が隣にいてくれるからか、それとも、あの10年という時間から本当に抜け出せたと自覚したからか。理由は定かではないが、不満と悲しみを浮かべた瞳の正人を見ても、落ち着いて事務的に対応することができた。「ただ事実として説明しただけ。それに賠償金を求めるなら、むしろこっちの方に正当性があるはず。だって、私のウェディングドレスを破ったのはあなたなんだから」しかし、突然響いた「きゃあ!」という甲高い悲鳴が、その場にいた全員の視線を奪う。柚だった。彼女は正人に駆け寄ると、心配そうに彼の顔を両手で包み込む。そして私に気づいた途端、その目は憎しみに満ちた鋭いものに変わった。「あなたって人は!もうすぐ結婚するくせに、まだ正人さんに付きまとっているなんて!なんて恥知らずなの?今すぐ警察を呼んで、連れてってもらうから!」柚はそう言いながら、スマホを取り出して番号を押し始めた。だが、正人は柚を乱暴に突き放す。「誰が警察を呼べなんて言った?お前は引っ込んでろ!」正人に怒鳴られたのは初めてだったのか、柚は完全に固まってしまっている。そして、呆然と正人を見つめながら言った。「わ、私は先輩が心配だから。こんなにひどい目に遭わされたのに、どうしてまだ恵美さんをかばうの?この女が先輩を都合よく扱ってるだけって、分からないの!?」私は大きく裂けたウェディングドレスに視線を落とし、それから店内を見回す。どう考えても、私の方から正人に喧嘩を売ったようには見えないはずなのだが。「先に着替えておいで。家まで送っていくよ」耳元で要の声がしたので振り向くと、要がじっと私を見つめていた。それにいつの間にか、彼のジャケットが私の肩にかけられている。「俺は、恵美に都合よく扱われたっていいんだ。お前には関係ないだろ!」正人と柚はまだ口論を続けていた。それに、柚がいたからか、正人もそれ以上感傷に浸るのをやめたようで、殴られた腹部を押さえながら、一人で立ち上がった。手を貸そうとした柚は、またも振り払われ、
Leer más
第7話
私たちが去ると、正人は隣にいた柚に目をやった。「どうして俺がここにいるって分かったんだ?もしかして、GPSでも付けてたのか?」柚はしどろもどろに口を開く。「友達から聞いたの。あなたがここら辺にいるって。だから、探してみようかなって……」正人は、柚を鋭い目つきで見つめた。「その友達って、うちの父さんのことじゃないだろうな?」柚は素早く首を横に振った。しばらく柚に詰め寄っていた正人だったが、めちゃくちゃになった床を見つめ何かを考え始めた。だから、柚がこっそり安堵のため息をついたことに、正人は気づかなかった。一方、私は複雑な気持ちで要の車に乗っていた。私たちのが政略結婚なのは事実だし、正人のように無頓着な人でもない限り、この業界ではみんな、私が正人との婚約に失敗したことを知っている。しかし、いざその話題を自分から切り出すとなると、なんだか言い出しにくかった。「どうして黙ってるんだ?さっき高田が言ってたこと、聞いてたのか?」赤信号で車が止まったので、要はちらりと私を見た。その目はなんだか自信に満ち溢れている。「君は俺を好きになるから。もし好きになれなくても、君が俺を好きになるまで、俺は頑張るからさ」なんと言ったらいいのか分からなかった私だったが、しばらくしてやっと口を開いた。「結婚式、延期したほうがいいかな?今から新しいドレスを探すのも難しいし、お直しが間に合うかどうかも……」でも、このまま延期したら、やっぱりちょっと後悔するかな?そんなことを考えていると、要が少しためらいながら言った。「実は、もう一つ案があるんだ。ただ、君が気に入るかどうか……」要がちらりと私を見る。なぜだか、彼は少し緊張しているようだった。「実は、もう一着ウェディングドレスを用意してあるんだ」「え?」信号が青に変わる否や、要は車を再び走らせ私をある場所まで連れて行くという。そして、ある建物に着くと私の手を引き要は中へと入っていった。そこでは、スポットライトがショーケースの中のウェディングドレスを神々しく照らしていた。裾の部分にあしらわれた白鳥の群れの刺繍はキラキラと輝き、今にでも空へ飛び立ちそうだった。このドレスに比べると、正人に破られてしまったドレスはまるで間に合わせで作ったもののようだった。「前に趣味でデザインしてみたやつなんだ。まさか
Leer más
第8話
「もしこれを知って君が気味悪がって、俺との婚約を破棄するとか言い出したら……さすがに俺も結構ショックだから、今までずっと言えずにいたんだ」会社のデスクに座っている私の頭の中では、要に言われた言葉がぐるぐるしていた。要はああ言ってくれたけど……考えれば考えるほど、なんだか彼に申し訳ない気がしてくる。そんなことを考え、ため息をつくとノックの音がして秘書が入ってきた。正人から何か届いたらしい。「捨てておいて。これから正人からの届け物は全部受け取り拒否でお願い」この前、あれだけはっきり言ったのに、正人はまだ諦めていないようだ。「それと、高田グループの方がお会いしたいとのことですが……」ウェディングドレスを破られてから、私は高田グループとの契約をやめ、代わりにもっと条件の良い取引を探していた。また、元々高田グループは二宮グループに及ばなかった。だから、婚約破棄が原因で決まっていたプロジェクトも流れてしまった今、まさに泣きっ面に蜂という状態なのだろう。「会わないよ。あ、それについでだからこの書類、高田グループの社長に渡してきて」中身は、正人がドレス試着の際にしたことの証拠だった。「高田グループの将来が不安だから、長期的な提携は見送る、とそう伝えて」正人があんな風に好き勝手できたのは、私がいつも尻拭いをしていたからだけじゃない。彼が剛の一人息子だったことも大きい。どんなことをしても、剛が本気で正人を見捨てることはなかったから。しかし、それにも限度というものがあるので、正人も会社に影響が出るような真似はしなかった。婚約式で騒ぎは起こしても、出席しないなんてことはできなかったように。夜、私は海外へ立つ友人の送別会に行ったのだが、そこには正人もいて、私が部屋に入った瞬間から、彼はじっと私を見つめてきた。友人は気まずそうに私に耳打ちする。「私は呼んでないんだけど……高田さんが勝手に来ちゃって。だから、追い返すわけにもいかなくてさ」私はため息をついて、とりあえず席についた。友人とは仲が良いし、彼女が国を出る前に関係を気まずくする理由もない。正人はひどく落ち込んでいる様子だった。生気のない顔で私の隣に座る正人からは、ふわりとお酒の匂いがする。「なんで俺からの贈り物、受け取ってくれないんだよ?気に入らなかったのか?たとえ他に好きなやつができたとし
Leer más
第9話
もうどうでもいいと思ってたが、いざ口に出してみるとやはり腹が立つ。この男は私の10年をなんだと思っていたのだろうか?時間も気持ちも、全部無駄にされた……正人が何か言おうと口を開いたが、私はそれを手で制した。「まさか『親なんて関係ない』とか言うつもり?でも、それはあなたにとってであって、私は違うの。あなたとの10年という月日は長いけれども、私が両親からもらった28年という時間にはかなわないの。それに、私が10数年かけて積み上げてきた努力や成果も両親との時間に比べたらなんてこともない。だから今のあなたなんて、要がくれた花束一本にも満たない存在なのよ」気持ちがなくなったら、10年の価値なんてこんなにも簡単になくなってしまうものなのか。「安藤との結婚なんて……政略結婚のくせに。俺にだってまだチャンスはあるんだ。どうにだってできる……」と、正人は私にというより、自分に言い聞かせるように呟いている。「俺だって社長になれる。高田グループに戻りさえすれば……」私は鼻で笑った。この人はまだ知らないのだ。婚約がダメになった後、剛が正人の継母の娘を正式な会社の後継者にしたということを。もう、正人が戻りたいと思っても戻れる場所じゃないのだ。だが、そんなこといちいち教えてあげる気もない。だって、面倒なことに巻き込まれるのはごめんだから。話し終えた後、正人は誰とも話さず、隅っこでずっとお酒を飲んでいた。そして吐くまで飲み、最後には上の階の部屋に運ばれていった。すると、厚かましい友人が一人、私に話しかけてきた。「正人、最近ずっと飲んでばっかりでさ。このままだとあいつ、おかしくなっちゃうんじゃないかって心配なんだよ。だってお前、別れてからあいつのこと何にも構ってやってないだろ?でもさ、今日くらいは、飲み過ぎるなよってぐらい言ってやってくれないかな?」私は、大袈裟に呆れた顔をしてやった。「へぇ、私たちが別れたこと、知ってたんだ。てっきり、知らないからそんなことが言えるんだと思ってたよ。まあ、ただのお馬鹿さんってことだったのね」私はにこりと笑う。「じゃあ、分かりやすく言ってあげる。行かないから」そう言い捨てて、海外へと行ってしまう友人に別れを告げる。個室を出ようとした時、慌ててやってきた柚とばったり会った。柚は私を見るなり、途端に険しい目つきにな
Leer más
第10話
結婚式の前夜、知らない電話がかかってきた。「恵美、助けてくれ!みんな、おかしいんだよ!俺を海外に追いやろうとしてくるんだ!」電話の相手は正人だった。私は特に動じることもなく、親切心からアドバイスをしてあげた。「警察に言ってみたら?私に言ったって、どうにもならないよ」正人は電話の向こうでしばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。「本当に助けに来てくれないのか?もう二度と会えなくなるかもしれないんだぞ」「いいことじゃない?だって、私はあなたに会いたくないし、海外に行けばご両親にも会わなくて済むんだから。全てがうまく収まるでしょ?」正人が泣きそうな声で呟く。「行きたくないんだよ……」「だから、警察に言ったら?」私はまるで駄々をこねる子供をなだめるように静かに言った。「あなた、もう子供がいるんでしょ?だったら少しは大人になりなさいよ。私に助けを求めてこないで」そう言って電話を切り、すぐに着信拒否設定にした。正人に子供ができたことは、私も風の噂で聞いていた。正人のそばにいつもいた若い女が妊娠したらしい。でも正人は認知しようとしなくて、かなりひどい騒ぎになったんだって。考えなくてもわかる、柚が仕組んだことだ。この一件で、高田家もついに正人を海外へ送る決心をしたようだ。こうなった今、一生国内には戻ってこれないだろう。これらの噂は、真偽がどうであれ都合がよかった。二宮家と安藤家からの圧力をきれいに切り離し、私は当事者ではなく、ただの噂を聞く者として身を置くことができたから。結婚してから、要との関係は日を追うごとに深まっていった。彼はなんでも完璧で、私が心配することは何もない。要が隣にいてくれるだけで、私は大きな安心感に包まれるのだ。大学の創立記念パーティーの日、柚にばったり会った。柚は私に気づくと、さっと目をそらして足早に去っていった。知らないふりをするつもりなのがあからさまだ。「小川さんって、海外に行ったんじゃなかったっけ?」近くにいた同級生が言った。「何年か前に、移住するって聞いたけど。一時帰国してるのかな?」「まさか」別の人が、馬鹿にしたよう言う。「聞いた話だと、どっかの金持ちの子を妊娠したらしいよ。それで、子供を盾にのし上がろうとしたんだけど、結局は相手に堕ろせって言われたんだって。それより、高田さんが来てない
Leer más
Explora y lee buenas novelas gratis
Acceso gratuito a una gran cantidad de buenas novelas en la app GoodNovel. Descarga los libros que te gusten y léelos donde y cuando quieras.
Lee libros gratis en la app
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status