夜の王都――すべての灯が消えた広場には、静寂が支配していた。 そこに残されていたのは、粉々に砕けた巨大な石像の残骸。 それはつい数時間前まで、《第一聖堂》の正面広場にそびえ立っていた――『黒衣の勇者』ノワール・ヴァレリアンの像だった。 剣を掲げ、神性の加護を象徴する翼を背負ったその像は、民衆の期待と恐れを一身に受けて建てられたものだった。 しかし今、それは瓦礫と化し、無残に月光を反射している。 破壊の痕跡は、どこにもなかった。 爆破された形跡も、魔術の焼け焦げもない。 ただ、胸部を中心に黒い焼け跡が残り、像全体が内側から崩れ落ちていた。 それはまるで、『意志』だけで砕かれたようだった。 そこに、ひとりの男の影があった。 漆黒の外套に身を包み、夜に溶け込むように歩く男――ノワール・ヴァレリアン。 かつて神々を斬り伏せ、王国を救い、そしてすべての権威を拒絶した存在。 彼の一歩ごとに、瓦礫がかすかに音を立てる。 けれどその足音はあまりに静かで、まるで世界が彼に気づくことを拒んでいるかのようだった。 月の光が彼の肩を照らし、砕かれた像の破片に長い影を落とす。 やがて、その足音に導かれるように、カローラ・エヴァレットが姿を現した。 白い外套の裾が風に揺れ、その表情には、今なお消えぬ戸惑いと、押し殺された決意が宿っていた。「……来てくれたのか」 ノワールが振り返り、低く呟いた。 その声は静かだったが、夜の広場に、鋭く切り込むように響いた。 カローラは頷き、数歩彼に近づいた。 砕けた石の上を踏む音が、妙に遠く感じられる。 彼女の視線が足元の破片を捉える。 像の顔の一部が転がり、無表情のまま彼女を見上げていた。「……これはあなたが?」 問いかける声は、責めでも恐れでもなく、ただ確かめるような色を帯びていた。 ノワールは答えず、足元の石片を一つ、無造作に蹴った。 軽い音が響き、それはカローラの足元へと転がっていく。「俺は、誰かに崇められるために生きてきたわけじゃない」 その言葉には、静かな拒絶があった。 怒りでも抗議でもない。ただ――絶対的な否定。「神の名のもとに俺を祀るだと?この世界は、相変わらずだ。人を都合よく形にして、偶像にして、飾って、跪かせる」 彼の声には、感情の起伏がなかった。 しかし、その冷たさの奥に
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