All Chapters of いつかの一枚のために: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話 他人のような自分 3

ここまで聞いても私の記憶は全く戻る気配がなかった。ただ他人の人生の一部を物語として聞いているような感じしかしなかった。が、ふと思った。「どうして私は妊娠なんてしていたの?」途端に発見された時の自分の姿が甦り、身体が震えてくるのを感じた。「まさか、まさか私…。」どんどん思考が悪い方向に進んでいく。まさか、見ず知らずの男に乱暴されて?だったらあの子たちの父親は?と、その時『まずいぞ。何処かに隠さなきゃ。』『まだ依頼された情報が掴めていない。』『だが、この状況がバレたらまずい!』頭の奥で焦ったような男たちの声が響く。動悸が激しくなり、顔色は一瞬にして青ざめ身体の震えが強まってきた。私の異変にいち早く気付いた母がすぐに私を抱きしめてくれた。「大丈夫よ、大丈夫!あなたの考えているようなことはなかったわ。ちゃんとあなたを助けてくださったお医者様にも確認したわ。」「そうだよ。あの子たちの父親は今日はっきりしたよ。」「えっ?」最悪の想像は否定され少し落ち着いた気がしたが、また緊張が高まってきた。「今、頭の中で男の人の声で情報がなんとかって聞こえた気がしたの。」「やっぱり。当時、お前がいなくなった可能性の一つに、プロジェクトの情報を得ようとした何らかの勢力によるものではないかという声もあったんだ。これからはその線を中心に情報を探そう。」「また一つ手がかりが掴めた。」兄たちの発言に割り込むように父が話を戻した。「ところで、陽亮と夏蓮の父親なのだが」そうだった。今は大事な話の途中だった。父に注目すると、私の反応を探るように見ながら父が続けた。「江崎隼翔くんだ。先日会った江崎のおじさんの長男だよ。お前には黙っていて悪かったが、親子鑑定をしてもらったんだ。夕方に届いた書類はその結果だったんだよ。」みんなの視線を浴びながら、私は思いもしなかった話に呆然としてしまう。特に記憶が甦る気配がないと確認した兄たちは少し安心したような残念なような複雑な表情になったが、面白そうに話始めた。「おじさんの予感は当たっていたんだ。すごいよな。当の隼翔くんだって信じなかったのに。孫への執念?みたいな。」颯太兄さんが言う。「その割には、涼禾や陽亮に会ったのに気づかなかったけどね。誰かが見たって言っていたのは多分陽佑じゃないかな。涼禾の子供の頃を知っていた誰かが偶然何
last updateLast Updated : 2026-02-02
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第12話 私の居場所

「そしてまだ大きな問題がある。それは、涼禾がどうしてあんな目に遭ったのかがわかっていない。誰かが不慮の事故を隠すためだったのか、もしくは、涼禾を妬んだ誰かの仕業か。いずれにしても、今はそんな危険なところに返す気はない。」 きっぱりと言い切った父と大きく頷く母と兄たちを見て、少し落ち着いたものの、今度は安心と嬉しさで涙が溢れてくる。母は私を優しく抱きしめ続けてくれた。「これからのことなのだが涼禾はどうしたい?」ようやく落ち着いた頃、父が問いかけた。「どう、とは?」「やっと本来の自分が分かったんだ。やはり、」「私!私は安藤涼禾です!子供たちは安藤陽亮と安藤夏蓮です。それは変わりたくありません!………。ご迷惑でなければ…。」勢い込んで言い始めたものの、自分のわがままのような気がして後が続けられない。そんな涼禾を見て母が「迷惑なものですか!もちろんよ、あなたたち3人は紛れもなく安藤家の子よ。私たちが聞いているのはそんなことではなくて、子どもたちの父親のことよ。」「そうだよ、涼禾。父親にあの子たちのことを知らせるかどうか。幸い彼はまだ独身だ。お前のことを探しているようだし、できることなら彼と家庭を持って子供達に父親を与えたいとか、そういう気持ちがあるかどうかと言う意味だよ。」颯太兄さんに続いて健人兄さんも言う。「今すぐと言うわけじゃない。いずれはと言うことだよ。それならそのつもりで周囲を調べなくてはいけないだろう。その気がないなら彼らに気づかれないように気をつけなくてはいけないし。」「急に言われても困るわよね。ただ、できるだけ早く考えてみて欲しいの。江崎さんの勢いだとうっかり知られてしまいそうで。涼禾にその気がないなら、知られないように準備が必要だし。」「それともう一つ。お前が香子さんだとしたら、とても素晴らしい才能をもっている。それを埋もれさせてしまうのは惜しいんじゃないかな。もしやってみたいという希望があるなら、また挑戦してみてもいいんじゃないかなと思っている。」父の思いがけない提案に涼禾は少し考えた後、迷いながらもしっかり答えた。「父親については、正直分からないの。あの子たちがどう思っているのか聞いたことなくて。どんな人だったのかも覚えていないし、どんな反応されるか怖い気もするの。」「そうよね」「でも、デザインについては少し興味がある
last updateLast Updated : 2026-02-06
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第13話 私の居場所

「それって、しきさいって言うのと関係あるの?」「そうだよ。しきさいっていうのはね、季節の四季に彩りで四季彩。四季彩シリーズって言うのは当時江崎グループが立ち上げようとしていたブランドのプロジェクト名さ。香子さんはその中心デザイナーで、彼女の感性を主軸に各季節の趣を表現したトータルファッションを提供しようとする試みだった。これは彼女が学生の頃から計画が始まっていて、既に冬についてはかなり具体的なところまで進んでいたんだ。」「うちも早い段階で協力要請を受けていてね。素材提供の面でかかわっていたんだよ。」颯太兄さんに次いで健人兄さんも説明してくれた。「そんな時、香子さんが消えてしまった。何とかプロジェクトの継続を試みたが、香子さん発見の見込みがほとんど望めなくなった地点で中断されてしまったんだ。」「で、メインデザイナーを当時サポートデザイナーだった人に変更し、メインコンセプトも季節から花に変えてできたのが今人気の魅華シリーズなんだ。」「うちはコンセプトの変更時に共感が持てなくて手を引かせてもらったけどね。」「四季彩にはこの国の文化や歴史、人々の感性を表現した魅力的な世界観があった。それに比べるとね…。」「当時、私たちも随分心配していたのよ。香子さんには会ったことがなかったのだけれど、見せてもらったデザインはとても素晴らしくてご本人もきっと素敵な人に違いないって思っていたから。」気づいたら、母が笑顔で私を見つめていた。「その評価は大正解だったね。」同じく優しい笑顔で父も頷いた。私は何だか気恥ずかしくなってきて、俯いてしまった。「だから、さ。」「ね?」「どう?。」「興味が出てきたら挑戦してみないか?どんな形にできるか分からないけれどみんなで応援するよ。」「ありがとう。子供たちにも相談してみる。あとね、もう一つ気になることがあるの。」「もしかして、弟さんのこと?」「そうなの。申し訳ないけど、今のところ全く思い出せないんだけど。でも、もしかしたら何か困っていないかとか気になって。」「残念ながら、彼については私たちも今のところよく分からないんだ。7歳下だったから今ちょうど20歳くらいかな。お前がいなくなった時はまだ高校1年生だったからまた叔父さんに引き取られたのだと思うけど。」「また追加でいろいろ調べてみるよ。」「ありがとう。よろしくお願
last updateLast Updated : 2026-02-06
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第14話 双子のパパ偵察大作戦

「パパがどう思うか?」「うん、うれしいっておもってくれるかな。いらないっておもうかな。」「ぼくはどうでもいい。」「わたしはうれしいっておもってくれたらうれしい。」「ママは?」「ううん、パパは知らない方が幸せかも。」そんなとりとめのない話にとどまった。夜になり、双子が眠ったようなので涼禾は部屋を出ていった。足音が聞こえなくなるのを待って、陽亮が夏蓮に声をかけた。「ママのおはなし、かれんはほんとうはどうおもった?」「ほんとうは?ん〜。ほんとうはパパにあってみたい。でもママがこまったりかなしんだりするならいらない。」「ぼくもいっしょ。ママがいやなことはぼくもいや。でも、どんな人なのかきになる。だからさ、ぼくたちだけでみにいかない?」「そんなことできるの?」「ぼくたちのパパって、大きなかいしゃのしゃちょうさんだっていってた。ネットでしらべてみたらみにいけるかも。」大人たちは気づいていないが、陽亮は既にSNSを使って簡単な情報収集くらいはできる。外国語の子供向け教材を見ることができるようにと与えられているパソコンを使って様々な知識を身につけてしまったのだ。早速江崎グループ社長江崎隼翔について調べてみた。すると、彼は社会貢献にも積極的で色んなイベントに参加していることが分かった。更に調べてみると、来月隣の街で開かれる音楽イベントに協賛者の一人として参加予定らしい。隣街くらいならママに連れて行ってもらって偶然を装って見るくらいはできるかもしれない。「でもパパがママをみつけちゃったらこまるよ。」「ママはちかづけないようにすればだいじょうぶだよ。」二人はこっそり計画し、何かと理由をつけて当日涼禾と一緒にイベントの見物に行くことに成功した。チャリティを目的としたこのイベントは、野外ステージに子供たちからプロのアーティストまで様々な出演者が登場し、大変な盛り上がりようだった。音楽教室で事前に手に入れた入場券は、後ろの方の自由席だ。ママを来賓席から隠す為には都合がいいと思った。が、いざ来てみると人の出入りが多く、席の確保すら一苦労だ。中村さんとママの頑張りでようやく四人分の席を確保できた。暫くはおやつを食べたりステージを楽しんだりして過ごしていた。その間に来賓席に目を向けそれらしい人物を見つけるつもりだった。しかし、しっかりしているようだがまだ3歳の二
last updateLast Updated : 2026-02-06
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15話 双子のパパ偵察大作戦 2

お互い思わず数秒間見つめ合ってしまったが、中村さんの「坊っちゃんどうしました?」という声にハッとして我に返った。「だいじょうぶ。」と、慌てて彼から目を反らし、前を向いて走り抜けようとしたが、「君、ちょっと待って。」彼に呼び止められてしまった。しまった、と思ったが悟られてはいけないと思い無邪気を装い「なあに?」と振り返った。男性は思わず呼び止めたものの、何をいうべきか一瞬戸惑い「ごめん、探している人に似ている気がして。」とっさに正直に言ってしまった。陽亮はドキッとしたが、好奇心に逆らえず彼に聞いてみた。「だれのこと?ぼくと同じくらいの子?」「いや、おじさんの大切な人。大人の女の人。」「ふうん、へんなの。なんでおとなのおんなの人をさがしているのに、ぼく?」「そうなんだけど、もしかしたらって…。」「もしかしたらおじさんのこどもかもって?」隼翔は思いもかけないひと言に呆然としてしまった。陽亮もとっさに言ってしまった自分の言葉に戸惑ってしまった。妙な雰囲気に不穏なものを感じた中村さんが、間に入り、「どなたか存じませんが、子供の言うことですからお気になさらずに。同行の者が待っていますので失礼します。」と、陽亮を連れてその場を去って行った。暫く呆然とし、我に返った時には既に二人の姿は見当たらなかった。隼翔は少し前からずっと心に引っかかっていた。ここの隣町で香子の子どもの頃に似た男の子を見たと言う情報。最初に思ったのは、それが何の関係があるのだということ。それから、まさか香子が既に誰かと結婚し、子どもをもうけているのか、ということ。更には、香子が自分の子を産みこの地で生活しているのかもしれない、ということ。いずれにしても彼にとっては辛い事実となる。だから、何となく深く考えることを避けていた。が、やはり気になっており、偶然招待されていたこのイベントへの参加を決めた。そこで見かけた男の子に不思議と心惹かれ魅入ってしまった上に、その子にズバリと指摘されてしまった。自分は三つの可能性の内どれを一番期待しているのか、ということを。陽亮は中村さんと一緒に涼禾たちと合流した後、暫くはぼうっとしてしまった。心配した涼禾の判断で四人はすぐに帰途についた。近くで待機してもらっていた運転手さんに迎えに来てもらい、自宅に着いた頃には珍しく夏蓮よりも陽亮の方
last updateLast Updated : 2026-02-06
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第16話 会いたい!

隼翔は、後悔していた。先日イベントで会った子どものことが頭から離れない。どうしてもう少し詳しく話さなかったのか。せめて名前だけでも聞けばよかった。できれば、母親の名前も聞いてみたかった。でも、もし本当にあの子が香子と自分の子だとしたら、何故彼女は僕に知らせてくれないのか。もともとプロジェクトが軌道に乗ったら婚約をして二人の関係を周囲に公表するつもりだった。先に子供を授かったって何の問題もなかったはずだ。だけど彼女はそれを望まなかったのか。それとも僕が信用できなかった?彼女にはいつだって精一杯気持ちを伝えてきたつもりだった。彼女も受け入れてくれていたはずだ。なのに、どうして。結局最後はこうだ。何故?どうして?あぁ香子に会いたい。もし本当にいるのならば、子供にも会いたい。会ってこの腕で抱きしめたい。ようやく得た手がかりだったのに。何も掴めないまま手放してしまった。一方、陽亮と夏蓮もあの日以来浮かない顔をしていた。気になって、涼禾がそれとなく聞いてみても、二人は大丈夫だ、元気だとしか答えない。自分には言いにくいことなのかと迷った末に、子供たちと特に仲のいい健人兄さんにそれとなく聞いてもらうことにした。健人は日曜日に二人を遊園地に誘った。ママはその日は用事があるので三人で出かけようと言っても、双子は全く気にせず喜んで出かけていった。むしろ二人はこの状況を歓迎した。賢い二人は何となく察していた。最近自分たちが何かに悩んでいそうな様子に気付いた大人たちがチャンスをくれたのだと。ミニ木馬やチビッコゴーカートなど幼児でも遊べる遊具でひとしきり楽しんだ後、昼食のためレストランに行くと、健人が予約を入れてくれていた個室に案内された。「楽しかった?」「うん、すっごくたのしい!」「けんじおじさん、ありがとう!」「よかった。さぁお腹空いただろう。好きなもの注文しよう。」それぞれの好きなものをしっかり食べた後、双子は顔を見合わせて頷いた。「おじさん、ぼくたちおはなしがあるの。」どう話をきりだそうかと考えていた健人は不意を突かれて驚いた。が、薄々この双子たちの並々ならぬ賢さに気づいていた彼は、好都合とばかりに話を聞くことにした。「何かな?ママには内緒の話かな?」「どうかな。おはなしをきいてからおじさんもかんがえて。」「?わかった。じゃあ、お話聞かせて。」「うん
last updateLast Updated : 2026-02-06
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第17話 会いたい! 2

「その人がパパだってどうしてわかったの?」「ネットでしらべて、あいにいったの。」初めはあまりのことに驚いてタジタジだった健人だったが、話が進むにつれ改めて二人の賢さに感心した。同時に二人の気持ちを思うと何とかしてあげたいという気持ちが強くなっていった。「正直に言って、おじさんたちもまだ君たちのパパが今どう思っているかわからないんだ。だからね、もう少し待っててほしいんだ。まずはその辺りから調べてみるよ。ただね、ママに怖いことが起こらないように気をつけなくてはいけないのは分かってくれるかな。」「なんできおくがなくなったかがわからないから?」「ママのことみつけたわるいひとが、またこわいことしてくるかもしれないから。」「そうなんだ。二人とも偉いね。だから気をつけながら急いでみるよ。何か分かったら二人にもちゃんと教えるからね。だからこれからは自分たちだけで動くのは止めようね。君たちに何かあったらママがとっても悲しむよ。おじさんたちやおじいさんおばあさんもだよ。だから約束してね。」「わかった。おじさん、おねがいします。」「いいこでまてるよ。おねがいします。」健人はその夜早速大人たちに報告した。そして、まずは年の近い颯太がさりげなく隼翔に会ってみることにした。数日後、仕事のついでを装い、都内のレストランで夕食の約束を取り付けることができた。「久しぶりですね、隼翔さん。」「ほんとに久しぶり、颯太くん。この間、父が突然家族団欒のお邪魔をしたとか。申し訳なかったね。」「いえいえ、みんなお会いできて喜んでいましたよ。で、懐かしくなってこちらに来たついでに声をかけさせて貰いました。お忙しいだろうにすみません。」「いや、かまわない。むしろ好都合だった。実は近いうちに僕の方から会いに行くつもりだったんだよ。」「?と、いうと?」「話すと長くなるんだけど、大丈夫かな。」「ええ、今日は時間の余裕はありますよ。」「実は…。」隼翔は正直に香子とのことを話し始めた。この話は、秘書の斉藤とその他ごく近しい者にしかしていない。立場上、周りに弱みを見せるわけにはいかない。その上、今のところ誰がどんな形で関わっているかもわからない。慎重に目立たない様に進めてきたのだ。だが、ここにきてひとつの手掛かりを得た。何とか事態を進めるためには新たな協力者が必要だった。そこで候補に挙が
last updateLast Updated : 2026-02-06
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第18話 会いたい 3

颯太は迷っていた。家族会議では、まずは隼翔に会ってみて現状を探ってみるだけのつもりだった。が、場合によっては彼の一存で話を進める可能性もありとされていた。今日の場合はどうすれば…。隼翔の様子を見ると、早く知らせてやりたくなる。でも、この勢いはちょっと不安だ。涼禾に不利益がもたらされたら嫌だ。それに、双子を突然連れ去られるのも嫌だ。少し考え込んでしまった颯太を見て、自分のあまりの勢いに引かれてしまったと思った隼翔はちょっと反省した。「すまない颯太くん。今までずっと一人で考え込んでいたから、聞いてもらっているうちに熱くなってしまった。」「いや、いいですよ。同じ男として共感できる部分もありますしね。ただ、今までせっかく慎重にしてきたんでしょう。不安要素のあるうちは気をつけなくてはね。」「それは心得ている。同じ失敗は決してしない。」落ち着きを取り戻した隼翔は、イメージ通りのクールで頼りがいのある彼に戻っていた。涼禾に初めて出会った頃は、どんなにつらい思いをして来たのかとこちらまで苦しくなったものだが、愛されていたんだなぁと思うと、幾分温かい気持ちになった。彼なら大丈夫だろう。「実は、あなただけに伝えたい大事な話があります。」今日一番の深刻な表情で少し小声で話し始めた颯太に、警戒の色を見せながら、同じく深刻な顔で答える。「何だい、改まって。」「落ち着いて聞いてください。多分間違いないと思いますが、あなたの想像どおり、あなたには既に子供がいます。この夏で四歳になる男の子と女の子の双子です。」「………。」「ちょっと、大丈夫ですか?」「すまない。もう一度言ってくれないか。」「ええ、あなたには男女の双子の子供がいます。」「本当…なの…か?僕を気遣っての慰めとかではなく?」「ほぼ間違いのない事実です。」「では、香子は?彼女は無事なのか?」「ええ、無事です。今ではほぼ健康体です。」「今では?ほぼ?」「出会った時はかなりボロボロでした。今でも以前の記憶がありません。」「記憶がない?では何故香子だと分かったんだ?いつ気付いた?っていうか、彼女は今何処にいるんだ!」殴りかからんばかりの勢いで、次々と質問を重ねてくる隼翔を両手で押し返しながら「落ち着いて!落ち着いてくださいってば!まだ人に気づかれたくないんです!」「落ち着けってか。無理に決まっている
last updateLast Updated : 2026-02-06
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第19話 会いたい 4

「度々すまない。この間からずっと考え込んでいたものだから。自分でも上手く制御できない。でも僕がしっかりしなくてはならないのは分かっている。うん。大丈夫だ。お願いだ。続きを、もっと詳しい話を聞かせてほしい。」ようやく落ち着きを取り戻した隼翔に、颯太は今までにわかったことや今の三人の様子を伝えていった。「そうか。まさかこんな近くにいたなんて。やはり彼女は大変な目に遭っていたのか。でも無事でいてくれて本当に嬉しい。ありがとう。僕を覚えていないのは寂しいけど、そんなことは何とでもしてみせる。僕としては今からすぐにでも会いに行きたいところだが、ご家族たちは何と?」「さすがに今からはちょっとね。あなたの反応は予想を超えていて僕一人じゃ判断できません。申し訳ないけどやはり少し待ってもらいたいです。一番配慮すべきは三人の安全ですよ。」「そうだな。なぁ、せめて写真とか見せてもらえないか?今の香子と子供たちの姿が見たい。」「ああ、いいですよ。この間の花見の時の写真がいいかな。可愛いですよ。」颯太の携帯の写真を見るなり、「ああ、香子だ。間違いない。随分大人っぽくなったな。少し痩せたかな。ん?この子も、間違いない。この間会った子だ。あれからずっと思っていたんだ。あんな子が自分の子だったらどんなに幸せだろうって。まさか本当に我が子だったとは。しかもこんなに可愛い娘まで。」隼翔は目元を赤くしながら食い入る様に写真を見ている。「なぁ、やっぱり我慢できそうにないよ。明日にでも会いに行ってはだめだろうか。ご家族に相談してみてくれないか。それからこの写真全部僕の携帯に送ってほしい。」なかなかの親ばかっぷりを見せる隼翔に思わず笑ってしまう。でも、颯太も何だか長年の悩みが一つ解決したようで嬉しい気持ちでいっぱいだった。「わかりましたよ。今夜はこの近くのホテルに泊まりますから電話で相談してみます。そちらはまだあなた一人で留めて置いてほしいです。信じていないわけじゃないですけど、おじさんやおばさんには準備不足の今の状態ではまだ話せません。今日だってここまで話すつもりはなかったんですからね。」「ありがとう。君の決断に感謝してるよ。三人を大切にしてくれていることも。」その夜、颯太はホテルに戻るなりすぐに父に連絡し、今日のことを報告した。いろいろ相談の結果、隼翔が周囲に違和感なくこちらに来
last updateLast Updated : 2026-02-06
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第20話 再会と出会い

安藤家の面々は、みんな朝から何となくソワソワしていた。昨日の夜遅くに長男の颯太から連絡があり、今日の午後隼翔が家に来たがっているいうのだ。もしかしたらとは思っていたが、いざ現実となるとやはり不安やら期待やらで落ち着かないのだ。双子たちもお揃いのブラウスに陽亮は半ズボン、夏蓮はスカートと、とても可愛らしい服を着てわくわくしながら“その時”を待っている。涼禾はとても不安そうだ。リビングに着信の音が鳴り響き、中村さんがすぐに対応する声が聞こえる。すぐに話を終えた中村さんが、ちょっと興奮した様子で、リビングへ報告しにきた。「江崎様がもう間もなくこちらに到着するそうです!」え?まだ午前10時過ぎだ。予定が分かったら連絡を入れるはずではなかったのか。昨日の颯太からの連絡で隼翔がかなり勢い込んでいるとは聞いていたが、自分たちの知る隼翔からはあまり想像がつかなかった。これは、心して三人を守らねばならない。徹と佐和子は顔を見合わせて頷いた。息子たちも同席するためお昼前には帰ってくる予定だ。それまでは自分たちだけで頑張らねば。下手をすればあっという間に三人を連れ去られかねない。間もなく玄関に来客を知らせるチャイムが鳴り、挨拶もそこそこに、大柄の男が両手に茶色とピンクの大きなクマのぬいぐるみを抱えてリビングへと入ってきた。「お久しぶりです。おじさん、おばさん!」入ってくるなり、紅潮した頬に満面の笑顔で挨拶する男に一同呆気に取られた。誰だ!?この快活な男は!周りの戸惑いを一切気にせず、涼禾と双子の姿を目にするや否やあっという間に近づき目に涙を浮かべながらつぶやいた。「香子、会いたかった。生きていてくれてありがとう。」今にも抱きしめようと迫ってくる隼翔の勢いに、涼禾は怯えて思わず後退る。と、同時に双子が大きく手を広げて二人の間に立ちはだかった。「「ダメー」」隼翔は危うく二人を蹴り倒しそうになった。が、既のところで立ち止まり、必死に隼翔を睨みつけ母親を守ろうとする小さな姿に目を向けた。すると、今度は素早くしゃがみ込み、二匹のクマ共々子供達をそっと抱きしめた。「やっと、会えた。陽亮、夏蓮、パパだよ。」一瞬の出来事に、何も反応できずに突っ立ったままだった安藤夫妻はようやく我に返って、隼翔に声をかけた。「久しぶりだね、隼翔くん。ちょっと落ち着こうか。」「そうよ、気持
last updateLast Updated : 2026-02-12
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