「わたしが、簡単に信用をすると思いますか? 夜月くん……なら、わたしに変なことをしたら、学校と家での立場が悪くなるリスクを分かっていると思いますし」 その言葉に、ユウは思わず足を止めた。学校での彼女は、誰に対しても平等に慈悲深い微笑みを向ける。けれどそれは、裏を返せば、誰一人として自分の内側へは踏み込ませないという、分厚い氷の壁でもあった。あの日、わが家のリビングで見せた、ユカに頭を撫でられながら恥ずかしそうに綻んだ笑顔。あれこそが彼女の「真実」であり、その特別な顔を見せているユウを、彼女は理屈を超えた部分で選別しているのだ。「そうだな。ここの部屋が寝室か?」 リビングを通り過ぎ、廊下の奥にある一室の前に立つ。そこには、学園の女神という冷徹な肩書きには不似合いな、パステルカラーで「ソフィアのおへや」と可愛らしくデザインされたネームプレートが掛けられていた。 彼女の、年相応の少女としての素顔がそこに凝縮されているようで、ユウは言いようのない緊張に喉を鳴らす。閉ざされた寝室と、熱に溶けた願い「ソフィアのおへや」と書かれた扉を押し開けると、そこには彼女の清楚なイメージそのままの、けれど年相応の可愛らしさが詰まった空間が広がっていた。ユウは背中の熱を壊さないよう、細心の注意を払って彼女をシーツの上へと下ろした。「……うぅぅ……ぅぅ……あまり、見ないでくださいね」 ベッドに横たわったソフィアは、熱で潤んだ瞳を泳がせ、枕元のクッションに顔を半分埋めるようにして身を縮めた。無防備なプライベート空間に男子を招き入れたという事実が、高熱に侵された彼女の意識をさらに激しく揺さぶっているようだった。「了解。見ないようにする……パジャマに着替えて、ゆっくりと寝てくれ。俺が帰ったら鍵を閉めるのを忘れるなよ」 ユウは意識的に視線を外し、部屋の入り口へと数歩下がった。これ以上、彼女の領域に踏み入ることは、ユウの理性が許さなかった。一刻も早く、彼女を静かな眠りにつかせてやりたい。その一心で、ユウは立ち去るための言葉を並べた。「はい。ありがとう……ございました。……もっと、いてくれれば……いいのに……」 ソフィアは力なく頷き、感謝の言葉を口にした。だが、その後に続いた、吐息のような微かな呟きは、ユウの耳に届く前に四月の冷ややかな夜気の中に霧散してしまった。 彼女が何を望み
Last Updated : 2026-03-05 Read more