古守グループの社長の奥様が足の不自由な人だと、上流階級の人々は皆知っている。しかし、陰でそれを吹聴する者は、古守玲人(ふるもり れいと)社長によって一掃されている。五年前、私は玲人を救うため交通事故に遭い、両足が不自由になった。玲人は私と別れるどころか、結婚を申し込み、一生面倒を見ると誓ってくれた。彼は確かにその約束を守った。毎日、私の足に薬を塗り、マッサージをし、心のケアも欠かさず、気配りは細やかだった。全ての付き合いを断り、毎晩八時までには帰宅して私に寄り添い、一日に十二回もビデオ通話で私を安心させた。玲人の周りには、玉の輿にのるため彼を狙う若い女性がいなかったわけではない。だが、彼は皆をきっぱりと断り、遠ざけた。誰もが口を揃えて言った。玲人は、あの体の不自由な妻を、狂うほど愛している、と。しかし、新しい女性アシスタントが現れてから、彼は携帯電話の電源を切り、夜も帰って来なくなる。家政婦ですら、古守様は外に愛人を囲っている、奥様は寵愛を失ったと囁く。でも、私は信じられなかった。玲人が私を裏切るなんて。あの女性アシスタントから、二人がベッドにもつれ合っている写真が送られてきたまでは。私はようやく悟った。人生を、違った人に任せてしまったことを。……玲人に何本も電話をかけていた。聞こえてくるのは、相変わらず「おかけになった電話は電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため、かかりません」というアナウンスだ。私は電話を切り、無表情になる。指先が画面の上で三秒間止まり、そしてメッセージ画面を開き、一行の文字を打ち込む。【別れましょう。お互い、新しい人生を歩んで。帰ってきたら、離婚の手続きを】送信。スマホをソファーに放り投げると、私は車椅子を動かし、荷造りを始める。この邸宅は広すぎる。空っぽすぎる。五年経っても、やはり慣れていない。両足を失った私の動作は、とても遅い。ウォークインクローゼットのドアを開けると、中身は半分が私のもの、半分が玲人のものだ。私は自分の分だけを持っていく。ベージュ色のトレンチコート。彼と出会った日に着ていたもの。ムーンストーンのネックレス。彼がプロポーズの時に、私につけてくれたもの。それらを一つひとつスーツケースに詰めていく。すると、予告
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