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明莉の新しい歩み
明莉の新しい歩み
Auteur: 氷の如き

第1話

Auteur: 氷の如き
古守グループの社長の奥様が足の不自由な人だと、上流階級の人々は皆知っている。

しかし、陰でそれを吹聴する者は、古守玲人(ふるもり れいと)社長によって一掃されている。

五年前、私は玲人を救うため交通事故に遭い、両足が不自由になった。

玲人は私と別れるどころか、結婚を申し込み、一生面倒を見ると誓ってくれた。

彼は確かにその約束を守った。毎日、私の足に薬を塗り、マッサージをし、心のケアも欠かさず、気配りは細やかだった。

全ての付き合いを断り、毎晩八時までには帰宅して私に寄り添い、一日に十二回もビデオ通話で私を安心させた。

玲人の周りには、玉の輿にのるため彼を狙う若い女性がいなかったわけではない。だが、彼は皆をきっぱりと断り、遠ざけた。

誰もが口を揃えて言った。玲人は、あの体の不自由な妻を、狂うほど愛している、と。

しかし、新しい女性アシスタントが現れてから、彼は携帯電話の電源を切り、夜も帰って来なくなる。

家政婦ですら、古守様は外に愛人を囲っている、奥様は寵愛を失ったと囁く。

でも、私は信じられなかった。玲人が私を裏切るなんて。

あの女性アシスタントから、二人がベッドにもつれ合っている写真が送られてきたまでは。

私はようやく悟った。人生を、違った人に任せてしまったことを。

……

玲人に何本も電話をかけていた。

聞こえてくるのは、相変わらず「おかけになった電話は電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため、かかりません」というアナウンスだ。

私は電話を切り、無表情になる。

指先が画面の上で三秒間止まり、そしてメッセージ画面を開き、一行の文字を打ち込む。

【別れましょう。お互い、新しい人生を歩んで。帰ってきたら、離婚の手続きを】

送信。

スマホをソファーに放り投げると、私は車椅子を動かし、荷造りを始める。

この邸宅は広すぎる。空っぽすぎる。五年経っても、やはり慣れていない。

両足を失った私の動作は、とても遅い。

ウォークインクローゼットのドアを開けると、中身は半分が私のもの、半分が玲人のものだ。

私は自分の分だけを持っていく。

ベージュ色のトレンチコート。彼と出会った日に着ていたもの。

ムーンストーンのネックレス。彼がプロポーズの時に、私につけてくれたもの。

それらを一つひとつスーツケースに詰めていく。すると、予告なく涙がこぼれ落ち、服の上に滴り、小さな濃い色の染みを広げる。

もうとっくに泣き枯らしたと思っていたのに。

この家のあらゆる品々には、私と玲人の思い出が刻み込まれている。

しかし、私は何一つ持って行きたくない。ここに残しておきたくもない。

私は物置を開け、彼が家政婦に触れさせなかったものたちを、一つひとつ箱に詰め、封をする。

彼が自らの手で磨き上げてくれた紫檀の車椅子用テーブル。表面にはまだ紙やすりで磨いた跡のざらつきが残っている。「滑り止めになるからだ」と彼は言った。

私はこの車椅子に座り、百冊の本を読んだ。

スコットランド産のカシミアの毛布。私が冬に最も好んでかけていたもの。私が寒がりだからと、彼はわざわざ人に頼んで海外から取り寄せてくれた。

「明莉(あかり)、これを抱きしめていれば、まるで僕を抱きしめているみたいだろう」と彼は言った。

それから、寝室の壁にかかっている、高さ2メートルはあるウェディング写真。

写真の中で、彼は私を抱き上げ、ばかみたいに笑っていた。

「明莉、君は僕の命だ」と彼は言った。

私は写真の中の男を見つめる。その眼差しは、優しすぎて人が溺れそうだった。

その同じ男が、すぐ別の女を腕に抱きしめる。

私は一つひとつ荷造りし、箱の封をし、ラベルを貼る。

そこには、【捨てるべき不要品】、と、書かれている。

去るなら、きれいさっぱりと。思い出は、一つも残してはならない。

最後の箱を詰め終え、私は汗だくでくたくたになる。

スマホを取り上げ、引越し会社に電話をかける。

「もしもし、引越しをお願いしたいのですが。

荷物が少し多いので、大型トラックが必要です。

住所は…」

電話の向こうの人が聞いてくる。「お客様、本当に今すぐにですか?もう深夜ですよ」

窓の外の深く沈んだ夜の闇を見つめながら、私は笑う。

「ええ、今すぐです」

あと一秒も、ここにいたくはない。

玲人が家に帰って来ない日で、七日目だ。

七日。

百六十八時間。

私はスマホをタップし、もう一度、あの匿名の番号から送られてきた写真を見つめる。

玲人は上半身裸で、深く眠っていた。整った眉目が、薄暗い光の中で一層柔らかく見える。

その腕が、同じくシャツを脱いだ若い女の子をしっかりと抱きしめていた。

この女の子には見覚えがある。彼の新しいアシスタント、小野美咲(おの みさき)だ。

会社に入ってきたのは、まだ三ヶ月目だというのに。

彼女は挑発するように、レンズに向かってピースサインさえしている。

その写真を見て、私の涙は再び決壊する。

五年前、トラックが突っ込んできた時、私は全身の力を振り絞って玲人を押しのけた。

目が覚めた時、周りは病院の消毒液の匂いだった。

その時から、私の両足は動かなくなった。

玲人は私の手を握り、子供のように泣いていた。

「明莉、怖がらないで、僕が君を娶る。僕が君の足になる、一生」

その後、誰もが言った。古守社長は狂った、と。

一族が選んだ政略結婚の相手を放り出し、体の不自由な人を妻に迎えると言って聞かなかった。

彼は私のために自ら台所に立ったり、私のためにマッサージをしたり、最新の治療法研究に投資した。

周りの全ての浮気話を断り、その心の全てを私に捧げた。

誰もが言った。玲人は私を、狂うほど愛している、と。

だが、実際に狂っていたのは、私の方だった。

私は男の誓いを、信じてしまったのだ。五年もの間、信じ続けてしまった。

スマートフォンが震え、画面が光る。

差出人は、玲人だ。

【明莉、どういうつもりだ?】

【わがままにも程があるな】

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