私が植物状態になって、今日で百日が経った。私のそばで、探るような女性の声が聞こえた。「青斗、本当に決めたの?美希(みき)さんの物……全部処分しちゃうの?」この声は、横山菫(よこやま すみれ)だ。岩崎青斗(いわさき あおと)の初恋の人で、昔は私の友達でもあった。暗闇の中、青斗の落ち着いた声が聞こえてきた。「ああ」菫の声は、ためらうようだった。「それ、少し早すぎない?」「美希はもう目を覚まさない」青斗の声は、とても冷たかった。「あんな物を取っておいても、邪魔になるだけだ」「でも……」「でもじゃない」青斗は菫の言葉を遮った。「菫、お前に説得されに来たんじゃない。来週、オークションに付き合ってくれ。美希の宝石やバッグを全部処分する」「え?」菫の声が裏返った。「青斗、本気で言ってるの!あれは全部、美希さんが一番大切にしてた物だよ!」「本人がもうダメになるんだ。好きも何もないだろ?」菫が息を呑む音が聞こえた。青斗は椅子を引いて座ると、すらりとした指でベッドサイドのテーブルを軽く叩いた。この人を、私は12年も愛し続けてきた。昔は、あんなに甘い言葉を囁いてくれたのに。それなのに今、青斗は自分の手で、私のいた証をすべて消し去ろうとしている。「パパ」舌足らずな幼い声が、病室の静寂を破った。私たちの娘、岩崎朋花(いわさき ともか)だった。今年で4歳になる朋花は、私の母に手を引かれ、私のベッドのシーツをぎゅっと握っていた。「ママ、ずっと寝てるね。朋花はママに会いたいよ」母が、かすれた声で言った。「美希、お母さんよ。朋花を連れてきたからね」青斗が立ち上がった。彼が朋花に話しかける声が聞こえた。「いい子だ、朋花。ママは疲れているだけなんだ。ゆっくり休ませてあげよう」娘を前にした青斗の声は、ようやく少しだけ温かさを取り戻していた。「うそつき」朋花の幼い声は、泣き出しそうだった。「パパはうそつき。昨日の夜、お部屋に隠れて泣いてたもん」長い沈黙が流れた。やがて青斗が口を開いたけれど、その声はこわばっていて、どこかバツが悪そうだった。「朋花の見間違いだよ」「ちがうもん!」朋花は言い張った。「ママの名前、呼んでたもん。それに……『辛い』って言ってた」それ
Read more