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第7話

Autor: 墨染めの蝶
青斗は懐からスマホを取り出して、私に渡した。

「これは、俺が菫に芝居を頼んだ時の録音だ。

それと、こっそり撮っておいたお前の心拍数の記録。俺の言葉を聞くたびに、お前の心拍は揺れ動いていたんだ。

俺は遺言状まで、用意していた。

もし……もしあのオークションが終わっても、お前が目を覚まさなかったら……

俺の財産は、全部お前と朋花の名義になるようにしてあった。

そして、俺も後を追うつもりだった」

私は呆然としていた。

スマホから、菫の声が聞こえてきた。

「青斗、本気でこんなことをするつもり?危険すぎるわ」

「これしか方法がないんだ」青斗の声だった。疲れているのに、すごく、はっきりしていた。

「美希さんはあなたのことをあんなに愛しているのに。もし真相を知ったら、あなたのこと、死ぬほど恨むわよ」

「一生このまま眠っているくらいなら、一生俺を恨んでくれた方がいい」

録音はまだ続いていた。

でも、私はもう聞いていられなかった。

朋花の言っていたことは、全部本当だったんだ。

いばら。

悪い魔法使い。

青斗はおとぎ話に出てくる、眠り姫を助ける王子じゃなかった。

彼は
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    青斗はぱっと目を開けて、信じられないという顔で私を見つめた。それから、彼は狂ったみたいに私を抱きしめた。骨が痛くなるくらいに。「ありがとう」青斗は私の首筋に顔をうずめた。「美希、ありがとう」私はスマホを取り出して、湊にラインを送った。【湊、ごめんなさい。そして、ありがとう。あなたにふさわしい、本当のお姫様が見つかることを祈っているよ】すぐに返信がきた。【あの人は君のことを、本当に愛してるんだね。美希、幸せになって】私は微笑んで、トーク画面を削除した。人生には、ただ通り過ぎていくだけの出会いもある。その人は、自分が本当に望んでいるものが何なのかを、教えてくれるために現れるのかもしれない。私は朋花を連れてギャラリーへ向かった。青斗が車で、私たちを入り口まで送ってくれた。彼は車から降りずに、ただ窓を開けただけだった。「夜、迎えに来るよ」「うん」私はうなずいた。青斗は私を見て、何か言いたそうにしていた。でも結局、一言だけ付け加えた。「無理するなよ」朋花を抱いてギャラリーに入ると、同僚たちの視線がどこかおかしいことに気づいた。「美希さん、さっき入り口にいた方って……」「夫よ」私は淡々と答えた。午後になって、ギャラリーの中がにわかに騒がしくなった。顔を上げると、青斗が入ってくるところだった。仕立てのいいスーツに着替えて、髪もきちんとセットしてあった。その手にはありきたりなバラの花束はなかった。代わりに、一枚の額縁を抱えていた。青斗はまっすぐ私のところへやって来て、みんなが見つめる中、その額縁を私に差し出した。「お前に」私は視線を落とした。額縁の中身は、世界的に有名な絵画なんかじゃなかった。それは、一枚のデッサンだった。そこには、イーゼルの前に座って、輝くような笑顔を浮かべる一人の少女が描かれていた。少女の髪の先には太陽の光が降り注いで、輪郭が金色に輝いていた。18歳の頃の、私だった。それは、私が初めてアトリエで青斗に会った時、彼がこっそり描いてくれた私の姿だった。この絵は、ずっと探していたけど、もうとっくに無くしてしまったと思っていた。「青斗……」「ずっと、大切に持っていたんだ」青斗は言った。「美希、18歳のあの日、俺は

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    青斗は懐からスマホを取り出して、私に渡した。「これは、俺が菫に芝居を頼んだ時の録音だ。それと、こっそり撮っておいたお前の心拍数の記録。俺の言葉を聞くたびに、お前の心拍は揺れ動いていたんだ。俺は遺言状まで、用意していた。もし……もしあのオークションが終わっても、お前が目を覚まさなかったら……俺の財産は、全部お前と朋花の名義になるようにしてあった。そして、俺も後を追うつもりだった」私は呆然としていた。スマホから、菫の声が聞こえてきた。「青斗、本気でこんなことをするつもり?危険すぎるわ」「これしか方法がないんだ」青斗の声だった。疲れているのに、すごく、はっきりしていた。「美希さんはあなたのことをあんなに愛しているのに。もし真相を知ったら、あなたのこと、死ぬほど恨むわよ」「一生このまま眠っているくらいなら、一生俺を恨んでくれた方がいい」録音はまだ続いていた。でも、私はもう聞いていられなかった。朋花の言っていたことは、全部本当だったんだ。いばら。悪い魔法使い。青斗はおとぎ話に出てくる、眠り姫を助ける王子じゃなかった。彼は、一番つらい方法で眠り姫にトゲを刺して、目を覚まさせる魔法使いになることを選んだんだ。眠り姫が、このまま眠り続けてはいけないことを、知っていたから。「どうして、もっと早く教えてくれなかったの?」私は泣きながら青斗に聞いた。「言ったところで、信じたか?」青斗は自嘲気味に笑った。「あの状況じゃ、どんな説明も言い訳にしか聞こえなかっただろう。俺は間違ったことをした。だから罰を受けるべきなんだ。美希、お前を苦しめたこと。それが、俺の人生で一番の間違いだった。許してくれなんて、言える資格はない。ただ、頼むから……」青斗は言葉を止め、声がひどく詰まっていた。「俺を忘れないでくれ。俺がお前を愛していたことを、忘れないでくれ」私はもう抑えきれなくなって、つま先立ちになり、青斗の唇にキスをした。その唇は、雨の苦い味がした。青斗は一瞬こわばったけど、すぐに私を強く抱きしめて、堰を切ったように、熱のこもったキスを返してきた。この数ヶ月の、恋しさも、苦しみも、後悔も、全部注ぎ込んでいるようだった。お互いを骨の髄まで溶け込ませようとしているみたいだった

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