肺がんの末期と確定診断を受けたその日、私が最初にしたことは、江崎真吾(えざきしんご)に別れのメッセージを送ることだった。医者は、私に残された時間は長くても半年だと言った。メッセージを送って三秒も経たないうちに、画面が光った。返ってきたのは、たった一言だ。【分かった】私はそれを見つめ、画面を消した。彼はきっと、これもまた私が何とかして彼の気を引こうとしているのだと思っているに違いない。屋上は風が強い。私はしゃがみ込み、炎が少しずつ、私たちのツーショット写真、彼がくれたブレスレット、そして危篤通知書を飲み込んでいくのを見つめている。灰は風に巻き上げられ、渦を描きながら空の彼方へ消えていった。私は立ち上がって階下へ向かい、もう振り返らなかった。私たちが住んでいた家は、彼の幼なじみが治療のために帰国してから、日に日に冷え切っていっている。私は急いで荷物をまとめ、病院の近くに小さな部屋を借りた。だが、治療を始める前に、最後にこの世界を見ておきたい。そうして海外行きの航空券を買い、ひとりで旅に出た。湖のほとりで、のんびりと水をかく水鳥を眺めていると、スマホが鳴った。見慣れたその番号だ。「今どこだ?」と、苛立ちを含んだ彼の声だ。「今回はいつまで騒ぐつもり?」「私たち、別れたでしょ?覚えてる?」「別れたと?」と、彼は冷笑した。「どうせいつも同じだろ。荷物をまとめて出て行って、数日したらまた自分から戻ってくる。今回は何が欲しいんだ?俺に全部投げ出して追いかけさせたいのか?」湖面にきらめく光を見つめながら、私は急にひどく疲れを覚えた。「ううん。私は何も欲しくない」「もういい。いつもそうだ。出て行くことで俺を脅す。少しは大人になれないのか?」「そうね」と、私は静かに言った。「確かに、私は大人になれないよ」通話を切り、深い青の湖水を眺めながら、あの眠れなかった夜を思い出した。午前二時、悪夢から飛び起き、心臓が激しく脈打ちながら、私は彼に電話をかけた。「真吾、眠れないの……戻ってきてくれない?」しばらくの沈黙のあと、疲れ切った彼の声が返ってきた。「彼女が病院で世話を必要としてる。分かってるだろ?どうしてこんな時に俺を困らせるんだ?」「私はそんなつもりじゃ……」「いつもそうだ。彼女に何か
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