私の名前は夏目夏希(なつめ なつき)。同僚がふざけて、青い貼り紙を私の車に貼り付けて、写真を撮って私に送った。「ほら、違反切符を切られてるぞ」それをすっかり信じてしまって、私は交通違反の照会サイトにログインし、念のため確認した。いつの間に違反をしたのか見当もつかず、ドライブレコーダーの履歴を開いた。そこには、車内カメラが撮り落とした映像が目に飛び込んできた。篠原繁人(しのはら しげと)の隣に、彼の初恋の女・九条未来(くじょう みらい)が助手席に座っていた。シートベルトもしていないまま身を乗り出し、繁人の頬にキスをしていた。そして繁人は、眩しいくらいの笑顔で笑っていた。そんな顔は、私には一度も見せたことがない。その笑顔を呆然と見つめたまま、私はようやく分かった。この一方通行の気持ちは、もう手放す時が来たんだって。私は一人で車を出し、病院で中絶手術を受けた。そして離婚協議書を整えて、離婚届の用紙と一緒に繁人の会社へ書留で送った。時が流れても、私は私でいられる。 ……しばらくして、親友の久我甘音(くが あまね)が知らせを聞くと、すぐに駆けつけてきた。「繁人さんとどうなってるの?彼が浮気したの?」私は赤くなった目のまま、歪んだ笑みを浮かべた。十年の追いかけっこが、結局はこんな結末。それでも私は、それが幸せなんだと勘違いしていた。けれど今日は、たった一つの映像で目が覚めた。繁人は私と結婚しても、結局のところ最後まで不本意だったのか。甘音は、情けない私を見るほど腹が立つみたいに顔をしかめた。「だから前から言ってたじゃん。あの人、ろくな男じゃないって。夏希はさ、なんでいつも一人で意地張るの。離れて正解だわ。毎回しんどいくらい追いかけて。見てるだけで、私までムカついてたよ。それでね。柳瀬先輩が海外のプロジェクトを持っていて、求人をしてるの。夏希は考えてみない?」口の中が苦くなって、うまく言葉が出ない。私は小さくうなずいた。その瞬間、抑えていた涙が勝手にこぼれた。慌ててティッシュを探す私を見て、甘音がため息まじりに言う。「もう我慢しなくていい。泣いていいよ」悔しさがこみ上げてきて、止められなかった。私は甘音にしがみついて、声がかすれるまで泣いた。私を家まで送ると、甘
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