第36話 逃げ場のない檻 学校中からの冷ややかな視線と、ハルトの絶望した顔。 すべてから逃げ出すように、くるみは自宅の重い扉を開けた。 息を切らし、縋るような思いでリビングへ足を踏み入れる。だが、そこは彼女が望む「安息の地」ではなかった。 「……あら、おかえり。ずいぶん早いのね、お姉ちゃん」 ソファに座り、優雅に紅茶を飲んでいたのは、妹の咲良だった。 くるみと瓜二つの容姿。だが、その瞳にはくるみが持たない「自分への自信」と「知性」が宿っている。傍らには、咲良を優しく見つめるイケメンの彼氏が座っていた。彼は蓮のようなクズではない。咲良を尊重し、高め合える本物のパートナーだ。 「咲良……お父さんとお母さんは?」 「お父様たちは、私の次のコンクールの打ち合わせよ。お姉ちゃん、また何か学校で問題起こしたの? さっき先生から電話が来てたみたいだけど」 咲良の、悪意のない、だが徹底的に見下したような淡々とした言葉。それがくるみの心を千切りにしていった。 くるみがなるみに意地悪をしていたのは、なるみが「自分を大切にできる咲良」にそっくりだったからだ。なるみを壊せば、間接的に咲良への劣等感を癒やせると思っていた。けれど、現実は無情だった。 「お姉ちゃん、いい加減、他人の足を引っ張るだけの人生はやめたら? 」 咲良の彼氏が、くるみの「腐った魂」を嫌悪するように視線を逸らす。 「あ、あああ……っ!」 くるみは自室に逃げ込み、ベッドに突っ伏した。 学校にも、家庭にも、もう居場所はない。唯一の心の拠り所である蓮に電話をかけるが、何度かけても着信拒否の無機質な音が響くだけだった。 その時。スマートフォンの画面に、一通のメッセージが届く。 送り主は不明。だが、その文面を見た瞬間、くるみの背筋に凍りつくような悪寒が走った。 『名前を変え、姿を変えても、その澱んだ本質までは隠せない。……救いようのない再履修者。いいえ、あなたはもう、存在すること自体がバグなのよ』 「な、何これ……。誰……?」 くるみの震える指が、画面をスクロールする。そこには、彼女が今まで他人を陥れるために使ってきた手法の「癖」をすべて見抜いたような、詳細な分析データが添付されていた。 窓の外。街灯の下に、二つの影が立っ
最後更新 : 2026-03-08 閱讀更多