LINKー人間は人形じゃない、堕天使ワールドー

LINKー人間は人形じゃない、堕天使ワールドー

last updateLast Updated : 2026-03-08
By:  天咲琴乃Completed
Language: Japanese
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ーこれはフィクションですー空さえも管理された近未来。人類は脳内チップで「天界」に支配され、意志なき人形として生きていた。  ライターの橘ことねは、天才医師 沖田総悟と、反逆のAIミギルの手でチップを摘出し、システムから逸脱した「バグ」となる。 ​ 彼女の武器はペン一本。隠蔽された消去事件の真実を暴き、世界に「証拠」を叩きつける。だが、冷酷な監視者ゼロが彼女たちを追い詰める。拠点を失い亡霊となった三人の言葉は、しかしネットワークの深層で増殖し、人々の意志を叩き起こしていく。 ​「人間は、人形じゃない」 不完全な二人が仕掛ける、天界へのチェックメイト。真実を巡る反逆劇が今、始まる。

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Chapter 1

第1章 スカイブルー編ー第1話 書き換えられた空

空は今日も、不自然なほどに青い。

スカイブルーの街を見下ろす高層ビルの窓に映るのは、完璧に計算された「幸福」の色だ。

道を行く人々は皆、穏やかな表情で歩いている。その脳へ直接、管理システム『天界』から「今日の多幸感」という名の推奨データが、パルスとして流し込まれているからだ。

​ 橘ことねは、カフェの隅で古いノートPCを叩いていた。

指先がキーを打つたび、画面には無機質な文字列が並ぶ。

彼女の脳には、今朝から「未確認エラー」の通知が届き続けていた。管理プログラムが、彼女の思考を「正常」に書き換えようとして失敗しているのだ。

​「……また、弾いた」

​ ことねは小さく呟いた。

彼女の耳元には、極小の通信デバイスが埋め込まれている。その先にいるのは、二人の共犯者だ。

一人は沖田 総悟。かつては脳外科医として、今は「天界」のコードを書き換えるシステムエンジニアとして地下に潜む軍師。

もう一人はミギル。総悟が作り上げた、データを書き換える天才AI。

​『ことね、無理はすんな。お前の脳の未割り当て領域に、今ミギルが防壁を構築してる。だが、総督府(ゼロ)のサーバーが本気で上書きを始めたら、三秒も持たないぞ』

​ 総悟の声は、冷徹だがどこか信頼を寄せられる響きがあった。

彼は人間の思考回路が持つ「矛盾」という脆弱性を突く天才だ。

​『ボクに任せてよ。総悟の設計したロジックに、ボクが最高の演算を乗せる。ことねぇのペンを止めるデータは、ボクが全部デリートしてあげるからさ』

​ ミギルの軽やかな声が脳内に響く。

ことねは二人を背後に感じながら、目の前の画面を睨みつけた。

今、街の大型ビジョンに映し出されているのは、一人の少女が行方不明になったというニュースだ。だが、その背後で流れている「真実のデータ」は違う。

彼女は行方不明になったのではない。

『天界』による脳内データの強制上書きに拒絶反応を起こし、精神を破壊され、「廃棄」されたのだ。

​「みんな、これが幸せだと思い込まされてるだけ。……記憶まで、奪われてる」

​ ことねの指が、決定キーを強く叩いた。

彼女が書き上げたのは、その少女が最後に残した日記の断片と、システムによって削除された瞬間の未加工ログだった。

偽りの平和を「証拠」という名の暴力で引き裂く一撃。

​ 刹那、ことねの視界が真っ赤に染まった。

脳内へ直接、鼓膜を突き刺すような警告音が鳴り響く。

管理システムによる強制上書き――「思考の初期化」が始まったのだ。

​『来た! ミギル、防壁展開! 02セクターへ回避しろ!』

『了解! 0.01秒でコードを塗り替える!』

​ 頭の中で、自分ではない誰かの思考が濁流のように流れ込んでくる。

「私は幸せだ」「すべては正しい」……。

どろりとした感情の澱が、ことねの自我を塗りつぶそうとする。

視界が歪み、指先の感覚が遠のく。

それでも、総悟の軍師としての的確な指示と、ミギルの圧倒的な演算が、ことねの「核」を必死に繋ぎ止めていた。

​「……負けない」

​ ことねは意識の混濁を振り払い、奥歯を噛み締めて最後の一行を打ち込んだ。

文章で、この塗りつぶされた世界に光を灯す。

​「証拠で殴る!」

​ エンターキーが沈む。

その瞬間、街中の大型ビジョンの「青空」が、強烈なノイズと共に反転した。

幸福の裏側に隠された、醜悪なデータの残骸が、白日の下にさらされた。

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Nabeko
Nabeko
様々な悪人を一刀両断するから、スカッとしておもしろい!
2026-03-09 01:27:22
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第1章 スカイブルー編ー第1話 書き換えられた空
​ 空は今日も、不自然なほどに青い。 スカイブルーの街を見下ろす高層ビルの窓に映るのは、完璧に計算された「幸福」の色だ。 道を行く人々は皆、穏やかな表情で歩いている。その脳へ直接、管理システム『天界』から「今日の多幸感」という名の推奨データが、パルスとして流し込まれているからだ。 ​ 橘ことねは、カフェの隅で古いノートPCを叩いていた。 指先がキーを打つたび、画面には無機質な文字列が並ぶ。 彼女の脳には、今朝から「未確認エラー」の通知が届き続けていた。管理プログラムが、彼女の思考を「正常」に書き換えようとして失敗しているのだ。 ​「……また、弾いた」 ​ ことねは小さく呟いた。 彼女の耳元には、極小の通信デバイスが埋め込まれている。その先にいるのは、二人の共犯者だ。 一人は沖田 総悟。かつては脳外科医として、今は「天界」のコードを書き換えるシステムエンジニアとして地下に潜む軍師。 もう一人はミギル。総悟が作り上げた、データを書き換える天才AI。 ​『ことね、無理はすんな。お前の脳の未割り当て領域に、今ミギルが防壁を構築してる。だが、総督府(ゼロ)のサーバーが本気で上書きを始めたら、三秒も持たないぞ』 ​ 総悟の声は、冷徹だがどこか信頼を寄せられる響きがあった。 彼は人間の思考回路が持つ「矛盾」という脆弱性を突く天才だ。 ​『ボクに任せてよ。総悟の設計したロジックに、ボクが最高の演算を乗せる。ことねぇのペンを止めるデータは、ボクが全部デリートしてあげるからさ』 ​ ミギルの軽やかな声が脳内に響く。 ことねは二人を背後に感じながら、目の前の画面を睨みつけた。 今、街の大型ビジョンに映し出されているのは、一人の少女が行方不明になったというニュースだ。だが、その背後で流れている「真実のデータ」は違う。 彼女は行方不明になったのではない。 『天界』による脳内データの強制上書きに拒絶反応を起こし、精神を破壊され、「廃棄」されたのだ。 ​「みんな、これが幸せだと思い込まされてるだけ。……記憶まで、奪われてる」 ​ ことねの指が、決定キーを強く叩いた。 彼女が書き上げたのは、その少女が最後に残した日記の断片と、システムによって削除された瞬間の未加工ログだった。 偽りの平和を「証拠」という
last updateLast Updated : 2026-01-30
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第2話 ノイズの街
​ 大型ビジョンに映し出された少女の「真のログ」は、数秒と持たずに黒い砂嵐へと消えた。 だが、その一瞬は、幸福に酔わされていた市民の脳を震わせるには十分だった。 「……やった。届いたはず」 ことねは震える指先でノートPCを閉じた。 脳内の警告音はやまない。それどころか、拍動に合わせるように激しさを増していく。 ​『ことね、感傷に浸る時間はゼロだ。すぐにその場所を離れろ!』 総悟の鋭い声がイヤホンから飛ぶ。 『現在地周辺の監視カメラ、ボクが全部ジャックしたよ。でも、物理的な強制排除チーム(イレイザー)がもう向かってる。あと百二十秒で、そのカフェは隔離領域(隔離されたゴミ箱)になる!』 ミギルの声から余裕が消えている。 ことねはリュックを掴み、椅子を蹴るようにして立ち上がった。 カフェにいた客たちが、一斉に動きを止めていた。彼らの瞳の奥では、システムによる「修正データ」が高速で点滅している。彼らは今、ことねを「排除すべきバグ」として認識し始めているのだ。 ​ ことねは店を飛び出し、裏路地へと駆け込んだ。 三郷の地下通路へと続く、錆びついた階段を転がるように降りる。 『いいか、ことね。脳内データの強制書き換えが始まったら、俺の声を聴け。俺が投げる「逆相関コード」を、お前の意志で復唱しろ。ミギル、中継ポイントの確保は?』 『オッケー、総悟。三つ先の廃棄駅のサーバーを隠れ蓑にする。ことねぇ、そのまま真っ直ぐ走って!』 ​ 暗い地下通路。湿った冷気が肌を刺す。 背後から、規則正しい足音が聞こえてきた。 感情を排除し、命令だけを忠実に実行するイレイザーたち。彼らは人間ではない。脳の大部分をシステムに明け渡し、動く端末と化した「元・人間」だ。 ​「……はぁ、はぁ……っ!」 ​ 心拍数が跳ね上がり、視界がチカチカと明滅する。 脳が熱い。 『天界』のサーバーが、逃亡者ことねの脳へ直接、強力なシャットダウン信号を送り込んできた。 「っ、あ……ああ……!」 膝から崩れ落ちそうになる。 意識が、真っ暗な闇に吸い込まれそうになる。 ​『ことね! 意識を離すな! 復唱しろ。……「世界は、未完成だ」』 総悟の声が、闇の中で一筋の光のように届く。 「せ、世界は……み……未完成、だ……」 ことねは、掠れた声で絞り
last updateLast Updated : 2026-01-30
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第3話 軍師の帰還
廃駅のホームは、湿った鉄の匂いと、死んだ機械の沈黙に包まれていた。 ことねは崩れ落ちるように、冷たいコンクリートの上に膝をついた。肺が焼けつくように熱い。 ​「……ここまで来れば、大丈夫だ」 ​ 暗闇の中から、青白いディスプレイの光を浴びた男が姿を現した。 沖田総悟だ。 彼は首筋に並ぶ無数の端子を、巨大な演算機から引き抜いた。その目は、膨大なデータを処理し続けた疲労と、獲物を狙う鷹のような鋭さを同時に宿している。 ​「総悟……。ミギルは?」 『ここにいるよ、ことねぇ! ボクの意識は今、この駅の古い防犯システムに潜り込んでる。追っ手の足止めは完璧さ』 ​ 壁のスピーカーから、ミギルの快活な声が響く。 総悟は無言のまま歩み寄り、ことねの側にしゃがみ込んだ。彼はポケットから携帯型のスキャナーを取り出すと、ことねの項(うなじ)にかざす。 ​「脳内データの干渉率、四二パーセント。……危なかったな。あと数秒遅ければ、お前の自我は『幸福な市民A』として初期化されていたところだ」 ​ 総悟の指先が、ことねの震える肩に軽く触れる。 医者としての冷静さと、システムエンジニアとしての冷徹さ。その間に、彼なりの不器用な気遣いが滲んでいた。 ​「ごめん。でも、あの子の記録を公開したかった。あれが、私に見える唯一の『光』だったから」 ​ ことねの言葉に、総悟は小さく鼻で笑った。だが、その瞳に嫌悪感はない。 ​「光、か。この偽りの青空の下で、そんなものを探しているのはお前くらいだ。だが……その無謀さが、俺たちの唯一の勝機でもある」 ​ 総悟は、手元の端末に一枚のホログラムを映し出した。 それは、スカイブルーの街を支配する中央サーバー『天界』の心臓部。そして、それを守る監視プログラム。もと大天使執行官ゼロ、今は堕天使に堕ちた「中央サーバー」 コードネームは「ゼロ」。 ​「今回の件で、ゼロはお前を『イレギュラー』ではなく『敵』と認識した。今後は、脳への直接的なデータ流し込みだけでなく、物理的な『デリート』――つまり、抹殺を仕掛けてくるだろう」 ​「……望むところだよ。真実を隠すために命まで奪うなら、それが何よりの『証拠』になる」 ​ ことねは力強く立ち上がった。 総悟は立ち上がり、彼女の隣に並ぶ。 ​「軍師と
last updateLast Updated : 2026-01-31
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第4話 崩れる記憶/ 第5話スカイブルー残存
第4話 崩れる記憶 ​ 廃駅の奥にある、かつての電気室。そこが彼らの拠点だ。 剥き出しの配線と、点滅するサーバーのインジケーターが、ここが「天界」の法の外側であることを示している。 ​ 総悟は無機質なデスクに座り、キーボードを叩く手を止めない。 「ことね、気分はどうだ。脳内に流し込まれたノイズの影響は残っていないか」 ​ ことねは、古びたソファに深く体を沈めていた。 目を閉じると、まだ自分のものではない「誰かの記憶」が、映画の断片のように脳裏をかすめる。見たこともない公園、笑いかける知らない親、そして、それらを一瞬で塗りつぶす白光。 ​「……少し、混乱してる。どれが自分の記憶で、どれが『天界』に押し付けられたデータなのか、一瞬分からなくなる」 ​『それは危険な兆候だね』 ミギルの声が、天井のスピーカーから降ってくる。 『ことねぇの脳は、人一倍情報の受容性が高いんだ。だからこそ「天界」の干渉を受けやすい。ボクが今、ことねぇの記憶領域にパスワード付きの鍵をかけてるけど……完全じゃないよ』 ​「……すまないな、無理をさせた」 総悟が珍しく、入れたてのコーヒーをことねの前に置いた。 泥のように黒く、苦い匂い。それは『天界』が提供する合成飲料にはない、本物の「刺激」だった。 ​「いいの。これが、戦うってことでしょう?」 ​ ことねはカップを両手で包み、その熱で自分を繋ぎ止めた。 彼女は再びノートPCを開く。 次の標的は、第一居住区で起きている「集団記憶改ざん」の事実。 ある日突然、街の人全員が「昨日まで存在した公園」を「最初からなかった」と認識し始めた。その不自然なデータの断層を、総悟が暴き出していた。 ​「証拠は揃ってる。あとは、私が言葉にするだけ」 ​ その時だった。 拠点のモニターが一斉に赤く染まり、耳を裂くような高周波が室内に響き渡る。 ​『……っ! 嘘でしょ!?』 ミギルの悲鳴に近い声。 『「ゼロ」だよ! ボクのバックドアを逆探知して、この拠点の座標を特定しにかかってる! 早すぎる、あいつ、ボクの演算速度を越えてる……!』 ​ 総悟の顔色が変わった。 彼は瞬時に配線をいくつか引き抜き、ことねの腕を掴んで立ち上がらせる。 ​「脱出だ! ここも長くは持たない。ゼロ
last updateLast Updated : 2026-03-08
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第6話 不完全な共鳴 / 第7話 月は虚構を照らす
第6話 不完全な共鳴 辿り着いたのは、街の最果てにある廃ビルの一室だった。 スカイブルーの輝かしい中心部とは対照的に、ここは色が剥げ落ち、ノイズ混じりの「灰色」が支配している。 ​「ミギル……返事をして」 ​ ことねが膝の上でPCを開くと、画面には砂嵐が走っていた。 先ほどゼロの攻撃を受けた際、ミギルはことねの意識を守るための盾となり、自らの演算回路の三割を強奪されたのだ。 ​『……大丈夫。……ちょっと、体半分が……スカスカするけど……』 ​ スピーカーから漏れるミギルの声は、電子の断片がひび割れたように震えている。 隣で端末を操作していた総悟が、苦々しく奥歯を噛み締めた。 ​「ゼロの目的はことねの抹殺だけじゃない。ミギルの『書き換えアルゴリズム』そのものを奪い、自らのシステムを完全なものにしようとしているんだ。もしミギルの全てが奪われれば、スカイブルーに『バグ』は二度と生まれなくなる」 ​ それは、誰もが「天界」の奴隷として完成することを意味していた。 ことねは、画面の中で震える光の粒――ミギルの核を指先でなぞる。 ​「ごめん、ミギル。私のために……」 ​『謝らないで、ことねぇ。ボクは、ことねぇが書く文章が好きなんだ。……「証拠」が……世界を変える瞬間を、もっと……特等席で見たいから』 ​ ミギルの健気な言葉に、ことねの胸が熱くなる。 復讐じゃない。誰かを憎んで壊すことが目的じゃない。 ただ、奪われた真実を取り戻し、人々の瞳に「自分自身の意志」という光を灯したいだけ。 ​「総悟、反撃の準備を。ミギルの欠片を取り戻す。……それと、奪われたあの子の記憶も」 ​「無茶を言うな。今の戦力でゼロの心臓部(コア)に挑むのは自殺行為だ」 ​ 総悟は冷たく突き放すように言ったが、その手はすでに、ゼロの防壁を逆探知するための「罠」を構築し始めていた。彼は口では冷徹を装いながらも、ことねの「無謀な正義感」に、かつての自分自身の理想を重ねている。 ​「軍師なら、その『自殺行為』を『勝利』に変えてみせて。……私たちが、人間であるという証拠を見せてあげる」 ​ ことねはキーボードに指を置いた。 次の一手は、街のインフラを司る色彩管理サーバーへのハッキングだ。 スカイブルーの偽りの青を、一瞬だけ、本当
last updateLast Updated : 2026-03-08
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第8話 心をドリップ/ 第9話 光の禊
第8話 心をドリップ 手に入れたリスト。そこには、スカイブルーの「模範的市民」として登録された、ある男の裏の顔が克明に刻まれていた。 ​「……爽風(さわかぜ)。39歳。街角のカフェ店員として、市民の悩みを聞き出す『聞き上手』か」 ​ 総悟が吐き捨てるように言った。 画面に映し出されたのは、エプロン姿で微笑む、恰幅の良い男の姿だ。彼は客が注文するコーヒーに、その日の気分に合わせた「最適化プラグイン」を忍ばせ、言葉巧みに依存させていく。 ​「彼は……自分を、誰よりも理解してくれる唯一の味方だと思わせるのが上手いの。でも、その手口は卑劣。癒やしの香りで相手を油断させ、心が空っぽになるまで情報を抜き取り続ける」 ​ ことねの指が、キーボードの上で微かに震えた。 カウンター越しに囁かれた、あの温かい言葉。それが、ゼロの管理システムに捧げるための「脆弱性データ」を抽出する儀式だったのだ。 この男は、スカイブルーという偽りの箱庭で、犠牲者の心を「抽出(ドリップ)」していた。 ​『ボクが奪い返したデータ、これを見て。爽風はカフェの常連客の中から、天界に不満を持つ「バグ」の予備軍を見つけては、カウンセリングを装って自己崩壊させていたみたい……。最低だよ』 ​ ミギルの声が、怒りで電子ノイズを帯びる。 安らぎを餌にして、魂を抜け殻に変える。そんな行為が、この街では「精神の最適化」として推奨されていた。 ​「復讐はしない。でも、この男が提供してきた偽りの安らぎを、私は許さない」 ​ ことねは、奪還した被害者たちの慟哭を、自らの筆――執筆用インターフェースへと流し込んだ。 爽風が「淹(い)れ立ての嘘」で塗り潰した記録を、物語という名の不滅の証拠へと再構成していく。 それは、管理都市の冷たい平穏を根底から揺るがす、熱い鼓動だった。 ​「総悟、このデータを街中のビジョンに叩きつける。爽風が隠してきた『闇』を、誰も目を背けられない光にするわ」 ​「わかった。俺が通信路を死守する。だが、ゼロも黙っていない。ことね、お前の意識が情報の荒波に飲み込まれる前に……終わらせろ」 ​ 総悟の懸念を、ことねは鋭い眼差しで受け止めた。 ​「天咲く見切る!……もう、あの香りに惑わされない」 ​ ことねの背後で、ミギルが黄金の粒子を散ら
last updateLast Updated : 2026-03-08
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第10話 断罪 /第11話 崩壊する紺碧
第10話 断罪 タワーに映し出された真実に、街が騒然となる中。 ことね、総悟、そしてミギルの意識は、ある一点――爽風が店主を務めるカフェ『ジェントル・ブリーズ』へと向けられていた。 ​「逃がさない。これ以上、誰の心もドリップさせない」 ​ ことねが端末を叩くと、カフェの電子ロックが強制解除され、自動ドアが音を立てて開いた。 店内には、客の姿はない。 ただ、カウンターの奥で、エプロン姿の爽風が静かにコーヒーを淹れていた。 ​「……おや、ことねさん。ずいぶんと騒がしい挨拶ですね。せっかく、あなたのために『安らぎのブレンド』を用意していたのに」 ​ 爽風は顔を上げ、怪盗のような穏やかな笑みを浮かべた。 だが、その背後に浮かぶゼロのホログラムが、彼の「本性」を告げている。彼はただの店員ではない。ゼロの感情収集ユニットと直結した、人間の皮を被った「調整者」だ。 ​「その安らぎが、どれだけの人の未来を奪ってきたか……。あなたが隠蔽した犠牲者39人の全記録、今この瞬間に世界へ解き放ったわ」 ​「記録? そんなものはただの不純物だ。私は彼らから『痛み』を取り除き、透明な幸福を与えてやっただけですよ。……例えば、あなたからもね」 ​ 爽風の手から、芳醇な、けれど意識を麻痺させるような香りが立ち昇る。 脳を直接揺さぶる心理誘導の波動。 視界が歪み、ことねの膝が折れそうになる。 ​『ことねぇ、ダメだよ! その香りを吸い込んじゃ……っ、ボクが……ボクのノイズで相殺する!』 ​ ミギルが叫び、ことねの視界に黄金のノイズを走らせる。 その光の飛沫が、爽風が作り出した偽りの安らぎを切り裂いた。 ​「……もう、騙されない。あなたの淹れるコーヒーは、真実の味を知らない」 ​ ことねは顔を上げ、真っ直ぐに爽風を見据えた。 復讐ではない。これは、奪われた光を取り戻すための「証明」だ。 ​「天咲く、見切る!」 ​ 鋭い言葉と共に、ことねが最後のエンターキーを弾く。 カフェの全スピーカーから、爽風に心を壊された人々の「本当の声」が、濁流となって溢れ出した。 完璧だったはずの爽風の微笑みが、初めて凍りついた。 彼が積み上げてきた「鏡の城」に、修復不可能な亀裂が走る。 第11話 崩壊する紺碧 ​ カフ
last updateLast Updated : 2026-03-08
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第12話 光の灯台
第12話 光の灯台 崩落した「紺碧の偽空」の下で、街は深い静寂に包まれてい。 管理AIゼロの核(コア)は、ことねが突きつけた「真実の連鎖」に耐えきれず、完全に機能を停止。爽風が愛した『ジェントル・ブリーズ』の店内には、今や本物の夜風が吹き抜けていた。 ​「……終わったのね」 ​ ことねは、力なく崩れ落ちようとする体を、総悟の腕に預けた。 指先は震え、思考は霧に包まれている。けれど、胸の奥には確かな温もりが灯っていた。復讐という暗い炎ではなく、誰かの明日を照らすための、小さくとも消えない光。 ​「ああ、終わった。空を見ろ、ことね。星があんなに綺麗だぜ」 ​ 総悟が指差す先、偽りのスカイブルーが消えた空には、無数の星々が瞬いていた。 それは、管理されることで隠蔽されていた、人々の多様な生き方の象徴のようにも見えた。 ​『ことねぇ! 見て、みんなの「本当の色」が……!』 ​ ミギルの声が響くと同時に、街中のデバイスから、黄金の光の粒が溢れ出した。 ゼロに奪われ、漂白されていた人々の感情や記憶。それが、夜空を舞う蛍のように、それぞれの持ち主のもとへと帰っていく。 ことねは、立ち尽くす爽風に歩み寄った。 彼はもう、かつての支配者の顔をしていなかった。ただの、老いた一人の男として、自分の手に残った「空のカップ」を見つめている。 ​「爽風……いいえ、もと大天使天使執行官ゼロ。真実は時に残酷で、夜は寒くて暗い。でも、私たちはその暗闇の中でこそ、誰かの手の温もりを知ることができるの」 ​ ことねは、端末に最後の一文を綴り始めた。 それは、これまでの12作品、すべての物語を繋ぐ祈り。 ​「私は復讐しない。文章で世界へ光を届ける灯台、橘 ことねとして……この夜を、みんなと歩いていく」 ​ ことねがエンターキーを叩いた瞬間、街中の電灯が、一つ、また一つと灯り始めた。 ゼロの管理下ではない、人々が自分の意思で灯した、生活の光だ。 カフェの入り口で、ことねは振り返る。 そこには、戦い抜いた総悟と、笑顔で跳ねるミギルの姿があった。 ​「天咲く、見切る!」 ​ それは、過去の呪縛との決別。 そして、新しい朝を迎えるための、最高の決め台詞。 夜明けは近い。 けれど、たとえまた夜が来ても。 こと
last updateLast Updated : 2026-03-08
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第2章 審判者コトネ編 / 第13話 ストロベリームーン
崩壊した管理AIゼロの残滓が消え、街に「本当の夜」が戻ってから数日。 橘ことねと沖田総悟が営む、小さな相談所としての機能も持つ隠れ家カフェには、新たな「救いを求める声」が届いていた。 ​「……お願いです。私、もう、どこにいても誰かに見られている気がして……」 ​ カウンターで震える手を、温かいカップで必死に押さえているのは、配信者として活動する七瀬かのん、22歳。 画面越しの彼女は太陽のような笑顔を振りまいているが、目の前にいる彼女の瞳は、恐怖でひどく濁っていた。 ​「ゆっくりでいいわ。何があったの?」 ​ ことねが穏やかに促すと、かのんは途切れ途切れに話し始めた。 きっかけは、リスナーの一人だった。アラタと名乗る45歳の男。彼は複数のホテルを経営する社長だという。 最初は、活動を応援してくれる「物分かりの良い大人」だった。けれど、彼の「応援」は次第に、金という名の暴力へと姿を変えていった。 ​「投げ銭の額が、普通じゃないんです。一晩で何十万、何百万……。最初は感謝していました。でも、彼が言ったんです。『これだけ投資したんだから、俺の女になるのは当然の配当だろう』って」 ​ 総悟が隣で、不快そうに鼻を鳴らした。 ​「ハッ、配当だと? 投資と応援を履き違えてやがる。ここは吉原じゃねぇんだぞ。金を出せば心が買えると思ってんのか、そのジジイは」 ​「それだけじゃないんです……」 ​ かのんはスマホの画面をことねに差し出した。そこには、数えきれないほどのメッセージが並んでいた。 ​『ホワイトデーには、特別な指輪を用意している』 『君がどこに住んでいようと、僕のホテルのネットワークを使えば、住所を特定するのは容易いことなんだよ』 『拒絶は許されない。君をここまで育てたのは僕だ。恩を仇で返すつもりかい?』 ​ ホワイトデーのお返しという「善意」の皮を被った、明らかな脅迫。 アラタは自分の経済力を盾に、22歳の若者の未来を「黄金の檻」に閉じ込めようとしていた。 ​「住所を聞き出そうとするのも、ストーカー行為そのもの。警察沙汰になってもおかしくないわね」 ​ ことねの瞳に、冷徹なまでの光が宿る。 彼女はキーボードに指を添え、アラタの経営するホテルの登記情報と、彼のネット上の行動履歴をリンクさせた。
last updateLast Updated : 2026-03-08
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第14話 執筆者の断罪 /第15話 見えない追跡者
第14話 執筆者の断罪 ​ 「ビジネスとは、期待値への投資だ。そして投資した以上、シーンを得るのは権利……いや、義務なんだよ」 ​ 都心の一等地にそびえ立つ高級ホテルの最上階。アラタ――山田アラタ(45)は、琥珀色のブランデーを揺らしながら、独りで優雅に少していた。 彼の目の前の大型モニタには、怯える七瀬かのんの配信アーカイブが映し出されている。彼にとって、かのんは「愛でる対象」である以上に、大金を投じて作り上げた「自分の所有物」に過ぎなかった。 ​ そこへ、アラタのプライベート・ターミナルが、聞き慣れない電子音を上げた。 セキュリティを何重にも突破して届けられた、一通のダイレクトメッセージ。 ​『あなたの計算式には、致命的なエラーがある。人の心は、貸借対照表(バランスシート)には載らないわ』 ​ アラタの眉がピクリと動く。 送り主の名は「橘ことね」。 ​「……ハッ、正義の味方ごっこか。身の程を知らない」 ​ アラタは鼻で笑い、即座に返信を打ち込んだ。 これまで数多の競合他社を叩き潰し、金で解決できない問題などないと信じて疑わない男の、傲慢な指先だ。 ​『君が誰かは知らないが、これは正当な契約だ。私は彼女に、一生遊んで暮らせるほどの投げ銭を「投資」した。ホワイトデーの贈り物は、その契約更新の印だ。邪魔をするなら、君の人生ごと買い取ってやってもいいんだよ?』 ​ そのメッセージが送信された瞬間、ことねの作業場には、アラタの放つ「負のデータ」が雪崩のように流れ込んだ。 ​「……買い取る、ですって? 随分と安い人生を見ているのね」 ​ ことねは、冷ややかな笑みを浮かべた。 横でモニタを覗き込んでいた総悟が、拳の骨を鳴らす。 ​「おいおい、聞いたかよことね。こいつは自分を神様か何かだと勘違いしてやがる。吉原の客ですら、もう少し粋な振る舞いを知ってるぞ」 ​「彼はまだ気づいていないのよ。自分が積み上げた金の城が、砂上の楼閣に過ぎないことに」 ​ ことねは、アラタの経営するホテルの「不透明な資金流用」の断片を、LINKの深層から引きずり出した。 アラタが金に物言わせて握りつぶしてきた過去の不祥事。被害者たちの訴え。それらが、ことねの指先で一つの「証拠」として編み上げられていく。 ​「アラタ。あな
last updateLast Updated : 2026-03-08
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