病院から突然の連絡が入った。確保していたはずのドナー腎臓が、夫によってあの「高嶺の花」である篠原優奈(しのはら ゆうな)へと横流しされたというのだ。私が問い詰めると、彼は悪びれもせずにこう言い放った。「たかが腎臓一つだろ?何をそんなに焦ってるんだ。優奈が必要としてるなら、先に譲ればいいじゃないか。お前が今すぐ死ぬわけでもあるまいし!」手元にある彼自身の尿毒症の検査報告書を握りしめながら、私はこの三年の結婚生活がまるで喜劇のように思えてきた。そうね、彼の言う通りだわ。病気なのは彼であって私じゃない。私が焦る必要なんてどこにあるの?……眼下に広がる車の流れを眺め、私は深く息を吸い込むと、父に電話をかけた。「お父さん。以前話していたあのプロジェクト、私がやるわ」電話の向こうで、父の声が弾んだ。「そうか!やっと決心してくれたか。何と言っても自分のキャリアが一番だ!すぐに手配しよう。いつ発つ?」「早ければ早いほど」視線を自分の膨らみ始めたお腹に落とすと、胸がチクリと痛んだ。「それと、お父さん。弁護士を紹介してほしいの。律と離婚するわ」「離婚だと?あいつ、お前を泣かせたのか?今すぐ八つ裂きにしてやる!」父の熱い愛情に目頭が熱くなり、言葉に詰まってしまう。私の沈黙を察したのか、父は一呼吸置いて言った。「わかった、何も言うな。安心しろ、最高の弁護士を用意してやる。取れるものは全部ふんだくってやろう」「うん……ありがとう、お父さん」通話を終えると、心を縛り付けていた最後の鎖が解け落ちた気がした。夏目家は地元での権勢こそ桐島家に及ばないものの、海外における基盤は彼らの比ではない。この数年、私は桐島律(きりしま りつ)のために爪を隠し、彼の影として従順に振る舞ってきたけれど……今となっては、滑稽な茶番でしかなかった。夜も更けた頃、ようやく律が帰宅した。その身からは、病院の消毒液と女物の香水が混じり合った、鼻をつくような艶めかしい匂いが漂っている。ソファに静かに座っている私を見て、彼は意外そうな顔をした。「またヒステリーを起こすかと思ったよ」彼はネクタイを緩めながら、まるで慈悲を与えるかのような寛容な口調で言った。「わかってくれて嬉しいよ。優奈の手術は成功した。彼女が回復したら、必ずもっ
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