All Chapters of 手を繋ぐことができなくなっても ——アイドルになった君を、それでも僕は好きでいる——: Chapter 11 - Chapter 14

14 Chapters

第十二幕 はじめの一歩

「覚悟を見ます」——その言葉の重さを、僕はまだ分からなかった。  合格発表の数日後の放課後、レッスン場には多くの見学者の姿があった。「見られることは、仕事の一部です」という城ヶ崎さんの方針で、基本的には見学自由ということになっていた。  手の空いている先生や、アイドル好きの生徒、ただの野次馬まで。そして、部活で来られない黒崎くん以外の僕たちも、隅の方で見学することにした。 時間になると合格者二十五名が、レッスン場の中央に並んだ。そして、上野先生と城ヶ崎さんが、悠々と歩きながら入ってくる。「皆さん、おはようございます」 城ヶ崎さんの声は、相変わらず柔らかい。「今日から私は、皆さんの一番の味方です」 その言葉に、何人かが安堵した表情を見せた。「でも——甘やかすつもりはありません。プロのアイドルになるのですから」 空気がスッと変わった。「私の仕事は、皆さんをステージに連れていくこと。そのために、オーナーに雇われています」 軽い冗談のように言ったので、少しだけみんなも笑った。その笑顔は変わらない。「だけど、スターにしてあげることは——できません」 誰も声を出さなかった。  城ヶ崎さんは、時間をかけて全員を見渡してから口を開いた。「私が見るのは、才能もそうですが……覚悟です。その覚悟を、今日から少しずつ見せてくださいね」 その一言が、レッスン場の温度を完全に変えていた。「では、プロの第一歩として……」 誰かの唾を飲み込む音が、聞こえてきそうだった。「自己紹介をしてもらいましょう!」 城ヶ崎さんは、小悪魔的な笑みを浮かべていた。 指示通りに自己紹介の時間になった。全員が前に出て並び、一人ずつ簡単な紹介をしていく。「だけどよ、ダンス部のメンバーは、みんな知ってんだから意味なくない?」 守が抑えた声で囁いた。「相沢くん、バカでしょ。一般応募の子たちもいるのよ」 「それもそっか……梢っち、天才か!」 「むふふ」 きっと、それだけじゃないような気がする。「僕たちへの、正式なお披露目もあるんじゃないかな?」 「それもあるかもね……まずは校内にファンを作ろう、みたいな」 「なんか城ヶ崎って、やり手っぽいもんな」 自己紹介は進み、今はダンス部の一年生が順番にアピールしている
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第十三幕 増えていくもの

 彼女の世界は、どこまでも広がっていく——  芸能コースが動き出し、一ヶ月が経った。    放課後になれば、沙友里たちはレッスン場へ向かうのが当たり前になっていた。  ダンス、ボイトレ、基礎体力、ストレッチ。気がつけば、放課後の予定は毎日埋まっている。 帰り道、沙友里は少し疲れた顔をしていた。でも——目は輝いていた。「毎日、大変だけど……楽しいよ」 「疲れてない?」 「大丈夫! 夢に近づいている感じがするから」 僕には、心配することしかできない。でも、沙友里の顔を見ていると、この疲れも夢へ向かう一歩なんだと思えた。  二月十四日が近づいてきた。 付き合ってから初めてのバレンタインデー。何だか意識してしまう。男子たちも、どこか落ち着かなかった。 漫研の部室で、スケッチブックを開いていると、守が隣に座った。「なぁ、直哉……さゆりんは、チョコくれると思うか?」 「……なんで僕に聞くの?」 「お前の彼女だから」 それはそうだけど。「分からない……だけど、もらえたら嬉しい」 「素直だな」 守がニヤけた。「ちなみに俺は、十個くらいはもらえると——」 「思わない」 「最後まで聞けよ!」 この日も、沙友里が終わるのを待って一緒に帰った。 僕たちは今日も、手を繋いでいた。「最近ようやく、里奈と七瀬と仲良くなってきたよ」 「……同じ一年生の?」 「そう! 一般応募で入ってきた、貴重な同い年だからね」 確かに、沙友里は最近よくその二人の話をしていた。「里奈も七瀬もすごいよ。どんどんダンスが上達してる」 「元々の運動神経がいいんじゃない?」 「それはあるね。里奈は身体を大きく動かすし、七瀬は何か雰囲気のあるダンスするんだよ」 沙友里は、空いている腕を大きく動かしながら、二
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