あと1ヶ月しか生きられない、という検査結果を手に家に帰ったとき、夫の植田哲平(うえだ てっぺい)は、親友の中野若葉(なかの わかば)とちょうど情事を終えたところだった。床に脱ぎ散らかされた服や、あちこちに丸めて捨てられたティッシュを見ながら、哲平は私にこう言った。「キッチンも寝室もリビングも、俺たちでめちゃくちゃにしちゃったから。お前がちゃんと片付けておいて」結婚して3年。哲平はいつもこうやって、私を辱めることを楽しむのだ。でも、仕方ない。昔、私が彼を捨てたのだから。彼が私を恨むのも当然のことだった。私は黙って部屋を片付け、彼らがいた痕跡をきれいさっぱり消し去った。ただ、このときだけは、私たちが暮らしたこの家を、もう一度しっかり目に焼き付けておきたかったのだ。ところが、そんな私を哲平が突然呼び止めた。「なあ、梓(あずさ)。そういえば俺たち、結婚写真を撮ってなかったよな」私の目に浮かんだ一瞬の喜びを見て、哲平は鼻で笑った。「まさか、俺とお前の話だとでも思ったか?明日、俺は若葉と撮影するんだ。お前は、彼女の付き添いに来いよ」……哲平は、私の困惑した顔を見て、慣れた手つきでタバコに火をつけた。むせるような煙が顔にかかって、私は思わず眉をひそめた。「はっきり言ったはずだ。お前と結婚したのは、お前を辱めるためだって。それでも『植田家の奥様』として名付けて欲しくて、恥知らずにも飛びついてきたのはお前だろう。だから今、俺が若葉と写真を撮るからって、何を拗ねてるんだ?」哲平はいつもこう。私に少しだけ期待させて、すぐにどん底へ突き落とす。「拗ねてなんかないわ」私は顔を上げて、まっすぐ彼を見つめて、ふっと笑った。「『植田家の奥様』の身分が私のである限り、あなたが誰と写真を撮ろうと構わないわ。お金さえちゃんともらえるなら、誰の付き添いであろうとどうでも良い」私の言葉に、哲平はまるで暖簾に腕押ししたみたいだった。彼は目を真っ赤にして私を見ていたけど、すぐに冷たく笑った。「じゃあ、明日、遅れるなよ」そう言うと、哲平はそばにいた若葉の肩を抱いて出て行った。そのついでに、彼はタバコの火を消した。若葉がタバコの匂いが苦手だという、そんなささいなことまで、ちゃんとおぼえているのだ。床に落ちてまだくすぶっているタバコを
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