「くっそー!! あの野郎!! 何を企んでいるんだ!?」 ビアンカは地団太を踏む。あの野郎とはこの国の高貴なお方、王太子マクシムのことである。 彼とビアンカはこのローマリア王国の貴族子女が通う王立学園の同級生だ。プライベートでは共通の友人も多く、それなりに気安い仲である。 だが、マクシムが結婚したことを機にビアンカは彼と仕事以外で会うことを止めた。これは他国から嫁いで来た王太子妃に配慮してのことである。(正直なところ、マクシムとは恋仲になる可能性もないただの友人だ。しかし、恋愛脳の貴族たちに男女の友情を語っても通じるはずがない。不用意に一緒にいて、ありもしない噂でも立って、王太子妃様を不安にさせてしまったら、それこそ可哀想だ。女の私から見ても王太子妃様は見た目も性格も可愛い御方だからな。あのマクシムには勿体ないくらいに……)――――昨日、ビアンカは王太子から王宮へ呼び出された。『王国軍・指揮官ビアンカ、辺境リシュナ領への転任を命じる。今後はコントラーナ辺境伯の下でこの国を守れ。期限は定めない。出発は明日の朝だ』『殿下、突然のお話で驚きました。もしや、辺境の地で何か異変でも?』『――――ビアンカ、異変は……、起きていない。だが、この任務はそなたにしか任せられない特別任務だ。詳しいことは辺境伯に聞け。よろしく頼んだぞ!』 ビアンカはマクシムが何かを誤魔化しているような気がして、眉間に皺を寄せる。『殿下、私しか出来ない特別任務とは何ですか? 一人で向かうということは国軍を動かすようなことではないということ……。まさか、私にスパイ活動でもしろというのか!?』『ビアンカ、そんなに構えるな。こちらで段取りは整えておく。そなたは向かうだけでいい』(くう~、マクシムは私の質問に答える気が無さそうだな。仕方がない。特別任務の内容は現地で辺境伯に聞くとするか) 彼女はその場で一度、深呼吸をし、覚悟を決めた。『――――分かりました。謹んでお受けいたします』『ああ、気をつけて向かってくれ』――――ここまで思い返して、ビアンカは今の状況を考える。 昨日のやり取りは茶番だったのだろうか? 何故なら今し方、ビアンカの部屋へ押しかけて来た侍女たちが手にしているのはどう見ても純白の花嫁衣裳にしか見えないからだ。(マクシムよ。この花嫁衣裳を着て、私にどうしろというの
Last Updated : 2026-03-04 Read more