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大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)
大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)
Auteur: 風野うた

何も知らない0日目・プロローグ

Auteur: 風野うた
last update Date de publication: 2026-03-04 18:17:44

「くっそー!! あの野郎!! 何を企んでいるんだ!?」

ビアンカは地団太を踏む。あの野郎とはこの国の高貴なお方、王太子マクシムのことである。

彼とビアンカはこのローマリア王国の貴族子女が通う王立学園の同級生だ。プライベートでは共通の友人も多く、それなりに気安い仲である。

だが、マクシムが結婚したことを機にビアンカは彼と仕事以外で会うことを止めた。これは他国から嫁いで来た王太子妃に配慮してのこと。

(正直なところ、マクシムとは恋仲になる可能性もないただの友人だ。しかし、恋愛脳の貴族たちに男女の友情を語っても通じるはずがない。不用意に一緒にいて、ありもしない噂でも立って、王太子妃様を不安にさせてしまったら、それこそ可哀想だ。女の私から見ても王太子妃様は見た目も性格も可愛い御方だからな。あのマクシムには勿体ないくらいに……)

――――昨日、ビアンカは王太子から王宮へ呼び出された。

『王国軍・指揮官ビアンカ、辺境リシュナ領への転任を命じる。今後はコントラーナ辺境伯の下でこの国を守れ。期限は定めない。出発は明日の朝だ』

『殿下、突然のお話で驚きました。もしや、辺境の地で何か異変でも?』

『――――ビアンカ、異変は……、起きていない。だが、この任務はそなたにしか任せられない特別任務だ。詳しいことは辺境伯に聞け。よろしく頼んだぞ!』

ビアンカはマクシムが何かを誤魔化しているような気がして、眉間に皺を寄せる。

『殿下、私しか出来ない特別任務とは何ですか? 一人で向かうということは国軍を動かすようなことではないということ……。まさか、私にスパイ活動でもしろというのか!?』

『ビアンカ、そんなに構えるな。こちらで段取りは整えておく。そなたは向かうだけでいい』

(くう~、マクシムは私の質問に答える気が無さそうだな。仕方がない。特別任務の内容は現地で辺境伯に聞くとするか)

彼女はその場で一度、深呼吸をし、覚悟を決めた。

『――――分かりました。謹んでお受けいたします』

『ああ、気をつけて向かってくれ』

――――ここまで思い返して、ビアンカは今の状況を考える。

昨日のやり取りは茶番だったのだろうか?

何故なら、今し方、ビアンカの部屋へ押しかけて来た侍女たちが手にしているのはどう見ても純白の花嫁衣裳にしか見えないからだ。

(マクシムよ。この花嫁衣裳を着て、私にどうしろというのだ。――――まさか辺境伯の花嫁として私をリシュナ領へ送り込むつもりなのか!? ならば、特別任務とは、やはりスパイ作戦だったということじゃないか。どうして言葉を濁したのか、さっぱり分からない。で、私に辺境伯の何を探らせるつもりだ? うむ、可能性としては彼が隣国と繋がっているとか……。或いは王位の簒奪しようとしているとかだろうか?)

これからビアンカが向かうリシュナ領を治めているのは、ユリウス・フルゴル・コンストラーナ辺境伯爵だ。彼は元ヴェロラーナ公爵家の次男で、その母親は現国王の妹である。

いうまでもなく、ユリウスは王家の血を引き、王太子マクシムとは従兄弟関係。そして、王太子夫妻にはまだ子が居ないため、ユリウスと彼の兄、マリウス・ヴィータ・ヴィロラーナ公爵令息も王位継承権を持っている。

(王位継承権か……、王太子妃に子が生まれれば返上することも可能なのだろうが……。やはり、辺境伯が何か国に対して不穏な動きを見せていて、マクシムがそれを警戒して私を送り込んだと考えるのが一番、簡単ではあるけども……。しかし、本当にそうなのか? マクシムよ、余りにも情報が少なくて困るのだが……)

考え事をしていたビアンカが顔を上げると、不安そうな面持ちで侍女たちが彼女を見ていた。

「――――すまない。取り乱してしまった。私が拒否したら、あなた達に迷惑が掛かってしまう」

「いえ、――――お気遣いありがとうございます、ビアンカ様」

花嫁のドレスと靴、ベールなどを抱えている侍女たちはビアンカに引き攣った微笑みを返す。彼女たちは王太子の命により、ビアンカの宿舎へやってきた。

ビアンカは大斧を振り回し、数々の武勲を立てている戦士だ。

頭一つ以上大きな彼女(身長百七十八センチ)を目の前に侍女たちは緊張している。部屋の隅に置いてあるビアンカ愛用の大斧が彼女たちの恐怖心を更に煽っているのだが、彼女は気付いていない。

(それにしても、私が花嫁衣裳を着る日が来るとは……。まぁ、任務だが……)

「よし、覚悟は決めた。準備を頼む!」

ビアンカは腹を括り、侍女たちにその身を任せることにした。

 長身のビアンカへ着付けをするため、次女たち用の踏み台が二つ運び込まれてくる。そして、彼女の前には大きな姿見が置かれた。

 ビアンカは周りにいる侍女と自分を見比べてみる。

 ビアンカと侍女は身長だけではなく身幅も全然違っていた。侍女たちは折れそうなくらい細く、ビアンカは折ろうとしても折れないくらい太い……。

(辺境伯から『こんな大女は嫌だ!』と断られる可能性は十分にあるな……)

「硬い~!! 紐を引けません。ルマリさま!!」

「ちょっと、そこのあなたも一緒に紐を引いて頂戴!!」

侍女たちのリーダーのルマリは部屋の後方で控えている侍女たちにも声を掛ける。

(しかし、辺境伯と面識がないのは厳しいな。この格好で『軍部から移動して来ました。閣下の片腕にして下さい』っていうのは、どう考えてもおかしいし。かと言って『結婚して下さい』と結婚適齢期を過ぎた私が口にするのはもっと厳しい。せめて、花嫁候補を王太子が送ったと辺境伯が理解してくれるといいのだが。マクシムは案外、雑だからな~)

いつもなら、王太子の足りない言葉を彼の側近が補足してくれるのだが、今回は何故か同席してなかった。

(きちんと根回ししているのだろうか〜、んー、怪しい。まぁ、それでも引き受けたからには行くしかないのだが)

「「「せーの!!」」」

「あー、これは……、かなり厳しいわ」

サブリーダーのメリーが弱音を吐く。

『どうしてコルセットの紐が簡単に引けないのか? 』

 それはビアンカの鍛えられあげた筋肉が原因だった。それでも、侍女たちは彼女に花嫁衣裳を着せなければならないため、必死に紐を引き続ける。

――――ビアンカは彼女たちの奮闘を静かに見守るのだった。

風野うた

【登場人物の紹介】 ローマリア王国 王都サンタマリア 大斧の女戦士 ビアンカ・ルーナ・ピサロ 21歳 現・国軍・指揮官→リシュナ領へ転任 王太子 マクシム・ケプス・ローマリア 21歳 リシュナ領 領主 ユリウス・フルゴル・コンストラーナ辺境伯爵(ヴェラーナ公爵家の次男) 母親は国王の妹 王位継承権を持つ 兄はマリウス・ヴィータ・ヴィロラーナ公爵令息

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     ビアンカは読書が大好きだ。 任務でいろいろな場所に赴くときも、つねにカバンの中へ本を忍ばせているくらいに……。 しかし、身一つでやって来た辺境伯城には当然、彼女の本も本棚も棚はない。 その代わり、ユリウスの書斎や城の図書館にある書物を自由に読むことが出来るようになった。「なんて幸せな環境~!! ユリウス、今日も書斎の本を借りて良いですか?」 昼食を終え、午後の予定がないビアンカは嬉々として彼に尋ねる。「ええ、お好きなものをどうぞ。私は王宮に行ってきます」 彼はソファーから立ち上がって、ビアンカの頬とくちびるにチュッ、チュッと軽く触れるだけのキスを落とした後、もう一度、くちびるを重ねた。(わ、わわ! 今日も甘い~! 慣れな~い!!)  顔を真っ赤にしているビアンカの頬をユリウスは楽しげな表情を浮かべて、指先でなぞる。「なっ! くすぐったいです!!」 ビアンカは彼の指先をつかんで止めさせた。「フフフッ……、遅くならないように帰ってきます。夕食は一緒に食べましょう」「はい、はい、お気をつけて!」 ビアンカはユリウスを見送ってから、彼の書斎へ入る。 書斎は寝室とドア一枚で繋がっているため、二十歩くらいで本棚の前に着いた。「最高の環境だな……」 本棚の背表紙を眺めて今日の一冊を選ぶ。「あ~、あの本……、イマイチだったな~」 つい先日、この本棚から拝借したターキッシュ帝国の歴史書をビアンカは読んだのだが、あからさまに著者が身内贔屓をしていて、うんざりとしてしまった。 何が一番嫌だったかというと、皇族のことを神のように崇め奉っているところが痛々しくて耐えられなかったのだ。 ここでビアンカはふと想像してみる。(あの歴史書にアホ皇子・テオドロスのことをのせるとしたら、どんな風に褒め称える? いや~、アレは最初から居なかっ

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    (突然、現れておいて『狭い!』と文句を言われても、私にはどうにも出来ないぞ!? しかし、まぁ、部屋は片付けておいて良かった。元々、荷物は少ない方だが、アポなしというのは、流石に焦るぞ!)「―――で、ビ~ちゃん、その恰好はどういうことなの?」 ビアンカは今、真っ裸に薄手のガウンを羽織って、腰ひもを軽く結んでいるだけの状態だ。屈んだりしたら、胸がポロリとこぼれてしまいそうである。「あ~、寝る時はいつも何も着ていないので……」(これでも慌ててガウンを羽織ったんだ。褒めてくれ)「あり得ないわ……」 ビアンカの回答を聞いて、アデリーナは絶句した。「急な呼び出しも多いので、いつ如何なる時も最短で軍服に着替えられるようにしておきたいんです」「―――それなら、最初から軍服を着て寝たらいいじゃないの」「おお~!!」(それだ!! 母上、ナイスアイディア!!)「感心するところじゃないわよ! 冗談で言ったの!! 本気にしないで頂戴!!」 アデリーナはビシッと音を立てて扇を畳み、先端をビアンカの方へ向けた。(あ~、これは反論したら面倒になるやつだな……)「あ、はい」「ところで、ビーちゃん、今日はお休みなのでしょう? 一緒に買い物に行くわよ」「え、なぜ?」(母上と買い物に行ったことなど、過去に一度も無い気がするのだが……、というか、いつもは家に商人を呼んでいるじゃないか! どうして、突然、一緒に出かけるなんて言い出すんだ!?) ビアンカはアデリーナをジト目でしげしげとみつめる。 何か裏があるのではないかという疑いを込めて……。「買い物に行くのに理由なんて無いわ!! 早く用意しなさい!!」 アデリーナは勢いで押し切った。口で勝負しても勝てる気がしないビアンカはやむなく了承する。「―――分かりました」

  • 大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)   いきなり挙式!?結婚1日目・大斧と短剣 1

     転移完了。 大斧を担いだ花嫁姿のビアンカが、リシュナ領の領都バリードにある魔法陣の上へ降り立つと目の前に一人の男が立っていた。 その男は王国軍魔法師団の一員であるという証の深紅のローブを身に纏っている。(青年にしては若いような……、彼は一体、何歳なのだろう?)「ピサロ侯爵令嬢、お待ちいたしておりました!」「――――いや、その呼び名は新鮮というか、久しぶりというか……。初めまして、私はビアンカ・ルーナ・ピサロだ。貴殿は?」「僕は王国軍魔法師団リシュナ支部所属のサジェ・トラス・ペニーと申します。ペニー子爵家の長男です。ようこそ、リシュナ領へ」 男は幼さを感じさせるような笑みを浮かべ

  • 大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)   いきなり挙式!?結婚1日目・いざ、リシュナ領へ

     「あー、マジか……。苦しいなコレ……」 ビアンカは腹部に力を入れないよう、愛用の大斧を腕の力だけで肩へ担ぎ上げた。 彼女の背中で大斧の刃が朝日を受け、艶めかしく輝く。――――いついかなる時も直ぐに敵を斬れるよう、大斧の刃はビアンカによって、一点の曇りもなく研ぎ澄まされているのだ。 そんな不気味な輝きを放つ大斧を見せつけられ、侍女たちの顔は強張っている。――――こんなに大きな斧を振り上げられたら、身を守る術のない自分たちは簡単に死んでしまう。 侍女たちは死の恐怖をひしひしと感じていたのである。(侍女たちはあんなに細い腕で良くもまぁ、こんなに締め上げるものだ。腹部に筋肉のないご令嬢

  • 大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)   いきなり挙式!?結婚1日目・大斧と短剣 2

     ビアンカは大斧の柄から手を離した。 続けて、大斧を安全な場所へ移動させるため、付き人のジェインが柄に手を伸ばす。 ところが百戦錬磨の女戦士ビアンカの愛用する大斧は想像以上に重く、文官の彼が持ち上げようとしても、ビクともしない。―――その姿を見かねてピサロ侯爵の護衛が一人、後方から加勢をしに駆け寄る。 二人は掛け声を出して、ビアンカの大斧を持ち上げた。そして、慎重な足取りで教会の裏の方へ運んでいく。「父上、絶対に返してくださいよ!!」 ビアンカは大斧を見送りながら、ピサロ侯爵へ強く訴える。しかし、彼は軍人ではないため、彼女の気持ちが全く理解出来なかった。「全く、誰に似たのだか……

  • 大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)   初共闘!!結婚3日目・次の段取り

     ビアンカは大声を上げたマリウスのことが気になってしまう。(兄上、そんなに驚かなくても……。ツィアベール公国はターキッシュ帝国に唆されて、イリィ大陸を脅かしたのだから、我が国が併合して、正しい道に進ませるのは真っ当なやり方だ。大陸内の国々もたまたま王太子妃がツィアベール公国出身だった我が国が後始末を引き受けてくれるというのだから、諸手を挙げて喜ぶだろう)―――ビアンカはマクシムが王太子の位を返上した場合、自分の未来にも大きな影響があるということに気付いていない。「陛下、私は今後も裏から国を支えていくつもりです」

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