Semua Bab 色褪せた愛の果て、記念日に届いた離婚届: Bab 11 - Bab 20

21 Bab

第11話

慎也は呆然とその画面を見つめた。スマホを握る手をかすかに震わせた。まさか澪は……自分をブロックしたのか?あいつは、本気で自分と離婚するつもりなんだろうか。「慎也……」そう思っていると、寝室のドアの前に立っていた美羽が、おそるおそる声をかけた。「澪さんは?家にいないの?」慎也の頭は混乱していて、ただ機械的に手の中にある離婚届のコピーに目を落とした。「彼女は……俺と離婚したんだ」その時、美羽も慎也が手にしている離婚届のコピーに気がついた。すると彼女の瞳に、隠しきれない喜びの色がさっと浮かんだ。まさか澪が、意外に話の分かる女だったなんて。こんなに早く離婚してくれるとは。これで、もう何も気にする必要はなくなった。そう思ったが彼女はそんな気持ちを隠して、わざと自分を責めるような表情を見せた。そして目を赤くし、声を詰まらせながら言った。「ごめん、慎也、私のせいで、澪さんはあなたと離婚することになったのね……私から彼女にちゃんと説明しに行くわ。だって、彼女がヤキモチを妬いて、離婚までするなんて思わなかったから……」美羽はそう言いながらも、横目で慎也の反応をうかがっていた。しかしいつもなら、彼女が声を詰まらせるとすぐに慰めてくれるはずの慎也が、今は何の反応も示さない。ただ呆然と離婚届のコピーを見つめているだけだった。すると美羽はガクッとした。慎也のこの反応は……もしかして、彼は澪に未練があるってこと?いや、そんなこと絶対に許さない。もう二人が離婚したのなら、今こそ自分が彼の妻になれるチャンスだ。そう思って美羽はこっそりと、自分の太ももを強くつねった。すると、たちまち目から涙が溢れ出した。「慎也、私……やっぱりここを出ていくわ。私がここにいると、二人の迷惑になるだけだから。自分のことは、一人でちゃんとできるから」そう言うと、彼女は踵を返して去ろうとしたが、またまるで力が抜けたかのように、ふらついて倒れそうになった。その様子に慎也ははっと我に返り、両腕でしっかりと美羽を支えた。しかし、彼女に向けられる眼差しには、以前のような優しさはなく、どこか複雑な色が混じっていた。「美羽、お前のせいじゃない。だから、安心してここで体を休めろ。澪には、俺から会いに行って説明するから」美羽は、その流れで慎也の腰に
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第12話

慎也はすぐにそのメッセージを開いた。彼は澪がブロックを解除してくれたんだと思ったからだ。でも、メッセージの内容をみて、彼はガクッとした。それは何人かの親友から飲みに行こうという誘いのメッセージだった。普段なら慎也はこういう騒がしい場所に行くのは好きじゃなかった。でも、がらんとしたこの部屋を見渡して……【場所、送ってくれ】彼はそう返事をした。それから、慎也に送られてきた場所のバーに着くと、親友はもうみんな揃っていた。彼が本当に来たので、みんな驚いていた。「慎也、冗談だと思ったよ。まさか本当に来るとはな」「酒飲むの好きじゃなかったろ?今日はどうしたんだよ、珍しいな」しかし、慎也は席に着くなり黙りこくって、ただ一杯、また一杯とやけ酒をあおっていた。すると、親友たちも何かおかしいと気づき、顔を見合わせた。慎也のあまりにも並外れた行動を心配して、集まって声をかけてきた。「慎也、どうした?何か悩み事か?」「そうだよ。一人でやけ酒なんてよくないぞ。俺たちに話してみろよ。何か力になれるかもしれないし」すると慎也は目を伏せた。タバコを吸わない彼が、珍しくも一本火をつけたのだ。紫煙が立ち込めるなか、慎也は苦しそうに喉を鳴らすと、かすれた声で口を開いた。「澪が……俺と離婚したんだ……」それを聞いてみんな目を丸くした。まさかそんなに深刻なことになっているとは思わなかったんだ。「嘘だろ?奥さんって、あんなに優しくて、お前のこと大好きだったじゃないか。なんで離婚なんて……」「そうだよ。彼女がお前を見る目は、俺たちから見てもわかるくらい愛情溢れていたんだぞ。何か誤解があったんじゃないのか?ただ拗ねてるだけかもしれないだろ」「慎也、早く奥さんに電話してちゃんと話せよ。夫婦の誤解は、その日のうちに解かないと。手遅れになるぞ」……こうして、親友たちは口々に慎也にアドバイスをした。だが、慎也は椅子の背にもたれ、その姿は薄暗がりに沈んでいて、読み取れないものがあった。つまり、周りの人間はみんな、澪の自分への気持ちに気づいていたんだ。そして誰もが、彼女が本当に離婚するなんて信じていないようだ。しかし、あのしわくちゃになった離婚届のコピーは、今も自分のスーツのポケットに入っている。そしてあの、メッセージを送って
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第13話

その夜、慎也は泥酔した。親友たちに家まで送ってもらった後、彼は真っ暗な部屋の中をふらふらと寝室に戻った。やがて力が抜けたようにベッドに倒れ込むと、彼は無意識にサイドテーブルに手を伸ばし、口では、「澪、酔い覚めの薬はどこだ?」と呟いていた。しかし、慎也の手が触れたのは冷たい感触だけだった。そこにはいつもあるはずの酔い覚めの薬はなかった。そうだ、澪は自分と離婚した。彼女はもう……出て行ってしまったのだ。そのことを思い出し、慎也の酔いは少し覚めた。そして胸の奥から切なさがこみ上げてきた。一方ドアの外から、美羽はさっきの慎也の呟きをはっきりと聞いていた。すると彼女の目には、溢れんばかりの嫉妬と憎しみが宿っていた。まさかたった3年で、澪が慎也の心に入り込んでしまうなんて。その事実に、美羽は掌に爪が食い込むほど拳を握りしめ、なんとか平静を装うために何度も深く息を吸い込んだ。結局今、澪は慎也と離婚したのだから、この絶好の機会に、彼に結婚を認めさせなくてはならない。結婚さえしてしまえば、きっと慎也に澪を忘れさせ、もう一度自分に振り向いてくれるはずだと、美羽は確信していた。そう思うと、夢にまで見た優雅なセレブ妻の生活がもう手の届くところにあるようで、彼女は思わず笑みを浮かべた。そして美羽はネグリジェの乱れを直し、寝室のドアをノックした。返事を聞くと、彼女は片手に酔い覚めの薬を乗せたトレイを持ち、ドアを開けた。片や慎也はそのぼんやりとした人影を見て、朦朧とした意識の中で澪が帰ってきたのかと錯覚して、思わず声を弾ませた。「澪、帰ってきたのか?」慎也の口から澪の名前が出たのを聞き、美羽の表情は一瞬こわばった。だが、すぐに甲斐甲斐しい態度に戻り、優しい声で言った。「慎也、私よ。ずいぶん飲んだみたいだから、夜、気分が悪くなったら大変だと思って酔い覚めの薬を持ってきたのよ」彼女は寝室に入ると、薄いネグリジェ一枚しか着ていない体を慎也にぴったりと寄せた。美羽は自分の魅力に自信があった。彼女は体のラインを強調するように少し身をかがめ、酔い覚めの薬を慎也の口元に差し出した。「体を起こしてあげるから、これを飲んで」そう言って慎也を起こそうと手を伸ばしたが、いつもは優しい彼が、珍しく冷たい表情を見せたので、美羽は驚いた
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第14話

その言葉に、美羽は固まり、見るからにうろたえてしまったのだ。「慎也、私を追い出すつもり?」慎也は疲れたようにこめかみをもんだ。「澪が戻ってきたら、いい気はしないだろうから。お前も心配するな、体が完全に回復するまで、世話をする人は手配するから」一方、美羽は、今夜のことがこんな風になるとは思ってもいなかった。彼女の計画では、慎也が酔っている隙に関係を持って既成事実を作ることになっていた。昔のよしみがあれば、彼はきっと自分と結婚してくれるはずだと思っていたのだ。でも、まさか慎也の意識がはっきりしているとは思わなかった。しかも、誘いを断られたあげく、追い出されそうだなんて。今の状況は、美羽の予想した筋書きから完全に外れてしまっている。まさか、慎也はもう、心から澪を愛してしまったっていうのか?いいえ、そんなはずない。そう思うと美羽は悔しそうに唇を噛んだ。学生時代の思い出にすがり、彼の同情を引こうとした。「慎也、昔、言ってたじゃない。私と結婚して、子供を作りたいって。今なら、私たち……」「美羽」慎也は顔を曇らせ、冷たく彼女の言葉をさえぎった。「もうはっきり言ったはずだ。それに、そもそも九条家の圧力に耐えかねて、俺から離れていったのはお前の方だろ」その言葉に、美羽の顔から血の気が引いた。実際のところ、当時の彼女は、九条家からのプレッシャーで慎也と別れたんじゃない。もっと良い暮らしを手に入れるために、海外へ行くことを選んだんだ。だが、慎也はまだそのことを知らない。美羽には、真実を打ち明ける勇気などなかった。もし本当の理由を話せば、二人の間に残っているわずかな情も消えてしまうだろう。彼女はハッキリとそう感じていた。そう考えると、美羽の顔つきが変わった。彼女はもともと状況判断が得意だ。今、慎也の頭は澪でいっぱいで、ここでしつこく迫れば、かえって彼の中の自分のイメージを悪くするだけだ。どうせ澪はもういないのだ。慎也の自分に対する愛情をもう一度呼び起こす時間は、いくらでもある。そう思って美羽は表情を切り替えると、彼に向かって青ざめた顔で苦笑いを浮かべた。「ええ、そうね。あの時、あなたのもとを先に去ったのは私だもの。今さらやり直す資格なんてないわ。澪さんはいい子よ。早く彼女を探しに行ってあげて。私は明日の
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第15話

茫然とする慎也の様子を見て、凛は鼻で笑った。「当時、おじいさんが美羽に人を遣わしたのよ。あなたと別れるなら、留学させてやる。慰謝料もはずむっていう条件をだしたのよ。そしたら彼女、二つ返事で頷いたわ。なのにあなたは……九条家があなたたちを引き裂いたなんて思い込んでしまって。それで、そんな女のために、澪と離婚までするなんて!なんてことをしてくれたのよ!」そう言うと、彼女はカップを慎也の足元に投げつけた。そしてカップは粉々に砕け散った。それでも凛の怒りは収まらなかった。彼女はこの1ヶ月、海外旅行をしていて、数日前に帰国したばかりだった。帰国してすぐ、慎也と美羽の件を耳にした。でも、息子なら上手くやるだろうと思って、特に口は出さなかった。しかし、数日経っても、よくない噂は消えなかった。二人の夫婦仲にひびが入るんじゃないかと心配して、今日の午前中に慎也を呼び出した。それなのに、夜になって離婚しただなんて話を聞くなんて。しかも息子のしたことは、見ていられないくらいひどい。これじゃあ、自分も澪に合わせる顔がないじゃないか。一方、慎也の頭の中では、母親の言葉がずっと響いていた。信じられなかった。昔、美羽と無理やり引き裂かれたと思っていたのに……それが全部、嘘だったなんて。自分の将来のためにあっさりと関係を捨てたのは、美羽の方だった。そして彼女は留学の事実まで隠していた……だから自分は、吹っ切れずに、ずっと未練と罪悪感を抱き続けていたんだ。そして今日になって、ようやく真相を知るのだった。じゃあ、これまで、美羽を必死で助けてきた自分は、一体何だったんだ?おまけに……妻に誤解され、離婚までされて……あまりの衝撃に慎也はよろめきながら数歩後ずさった。もう、立っているのもやっとだった。母の話からすれば、美羽のアレルギーも、澪を陥れるための嘘だった可能性が高い。なのに自分は、問い質すこともしないで、一方的に澪を責めたんだ。もともと自分に失望していた澪が、あの時、完全に愛想を尽かしてしまったんじゃないだろうか。だから、何も言わずに去って行ったのか?ショックを受けている息子を見て、凛は引きつるこめかみを押さえた。彼女はドアの外を指さし、冷たく言い放った。「あなたは部屋に戻って、自分の行いをよく反省して!」そ
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第16話

そして彼は拳をミシミシと鳴るほど強く握りしめた。その目には燃え盛る怒りの炎が宿り、歯を食いしばりながら、二つの言葉を吐き出した。「美……羽……」慎也は昨日の夜から帰っていなかった。だから美羽は親友との電話で油断して言いたい放題話していたのだ。まさか彼が突然帰ってきて、その会話を聞いているなんて、彼女は夢にも思っていなかった。すると、美羽の顔からサッと血の気が引いた。彼女はすぐに電話を切り、胸が張り裂けんばかりにドキドキしたが、まだかすかな望みを捨ててはいなかった。「慎也……あ、あなた……いつ帰ってきたの?」一方、慎也はこみ上げてくる怒りをほとんど抑えきれず、全身から鋭いオーラを放っていた。「さっきお前が電話で話していたこと、全部聞こえてたぞ」昨夜の凛の話がただの推測だったとすれば、今の美羽の言葉は、その推測が事実だったと自ら認めたようなものだ。この女のアレルギーは、やはり澪を陥れるための自作自演だったのだ。それなのに、あの時の自分はその嘘を信じ込み、澪を誤解した。それどころか、彼女に美羽への謝罪まで強要したのだ。そう思うと、計り知れない後悔と罪悪感が、まるで津波のように慎也に押し寄せてきた。「お前の言うことなんか信じるんじゃなかった!俺はなんて馬鹿だったんだ!」一方、全てを知られたと悟った美羽は、目を真っ赤にして慎也の手を掴み、涙声で訴えかけた。「慎也、私はただあなたを愛しているからひとり占めにしたかったの!本来、あなたと結婚するはずだったのは私なのに。あなたとよりを戻したくて、それで、つい魔が差して……」だが、慎也は容赦なく美羽を突き飛ばした。そして床に倒れた彼女を見下ろし、氷のように冷たい声で言い放った。「俺を愛してる?お前の言う愛っていうのは、留学するために俺を捨てたことか?」その言葉を聞き、床に座り込んだままの美羽は、信じられないというように目を見開いて慎也を見つめた。「あなた……どうしてそれを知ってるの?」慎也は鼻で笑うと、彼女の質問には答えず、話を続けた。「お前が愛しているのは、自分自身と金だけだろうが」そう言うと彼は玄関のドアを指差し、嫌悪に満ちた目つきで美羽を睨みつけた。「言っておくが、俺の妻は澪だけだ。お前はもう変に望みを抱くな。今すぐ失せろ。俺たちの関係も今日限り
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第17話

その頃、江原市のはずれにある小さな町の、とある花屋で、澪は霧吹きを片手に、今日届いたばかりの花に水をやっていた。朝一番の光がガラス窓から差し込み、部屋全体を明るく照らしていた。澪は、すべて自分で飾ったこの店を眺めながら、自然と口元がほころんだ。役所に離婚届を出した後、彼女は江原市へ行くことを決めた。この町は、ゆっくりとした時間が流れることで有名で、どんな悩みも忘れさせてくれる場所だった。2年ほど前、江原市に旅行に来たいと思っていた。でも、慎也に話すと、いつも会社が忙しいと断られた。あの頃の澪は彼の仕事の邪魔になるのが怖くて、それ以上何も言えなかった。だから、この計画はずっとそのままになっていた。でも美羽が帰ってきてから、慎也の態度は一変して、彼女が、「遊園地に行きたい」と一言言っただけで、その日の予定を全部キャンセルして付き添ってあげるほどだった。そのことを知った時、澪はひどく落ち込んだ。でも幸い、今では慎也のことも美羽のことも、もう構わなくてよくなった。念願の江原市に来られたし、自分だけの花屋まで開くことができたのだ。ここに来る前から、この花屋が売りに出されているのを見つけていた。江原市の空港に着くとすぐ、澪は店の周りの環境を確かめに行った。そして問題がないことを確認すると、すぐに店を引き継いで新しいオーナーになった。それから彼女は自分の好きなように内装を変えて、最初の花を仕入れた。専門的にフラワーアレンジメントを習ったことはなかった。でも澪のセンスは抜群で、最初に作った花束の写真をSNSにアップするとたくさんの人の目に留まり、初めての客が来てくれたのだ。今の一日の仕事はとてもシンプルだ。店を開け、花の水を替え、花束を作り、写真を撮ってSNSにアップして、店を閉める。澪はそんな今の暮らしがとても気に入っていた。おかげで、心も少しずつ穏やかさを取り戻していた。その時、ドアにつけられた風鈴がちりん、と音を立てた。澪が振り返ると、束ねられたジュリエット・ローズを大きな花束にして抱えた酒井隼人(さかい はやと)が、ドアを開けて入ってくるところだった。彼はそのバラをそっと床に置くと、両手を腰に当て、得意げな笑みを浮かべて言った。「どうだ?今日はとびきり大輪のやつを選んで持ってきたんだぜ」澪は
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第18話

慎也は、直樹から澪が江原市行きの航空券を買ったと聞き、迷わず自分も一番早い便を手配させた。ただ、彼が忘れていたのは、江原市の範囲がとても広いということ。航空券を取っただけでは、人の居場所まで特定はできないのだ。それから江原市内で10日近く探し回ったものの、彼は結局あの見慣れた姿を見つけることはできなかった。会社には仕事がたくさん溜まっていて、これ以上先延ばしにはできなかった。仕方なく、慎也は一旦飛行機で東都に戻って仕事を片付けることにした。同時に、直樹には道中の防犯カメラを調べて、澪が江原市のどこにいるのか突き止めるよう命じた。しかし、彼女が今いる町は本当に人里離れた場所にあって、見つけ出すまでに20日近くもかかってしまった。だから、花屋にいる澪の写真が慎也の手に渡ったとき、いつも冷静沈着な男が、思わず目を潤ませた。彼はもう一刻も無駄にしなかった。すぐに一番早い江原市行きの航空券を買い、そこから丸一日近くかけて移動して、ようやくこの小さな町にたどり着き、澪の前に立った。もともと澪に会う前、慎也は心の中で何度も弁解の言葉を繰り返していた。離婚したくない、美羽と一緒になる気はない、自分の中で妻はずっと澪だけだ、と彼女に伝えたかったのだ。しかし、1ヶ月ぶりに見る澪を目の前にすると、用意していたはずの言葉はすべて吹き飛んでしまった。「お前……この1ヶ月、元気でやってたか?」そう言って慎也は、澪のどんな小さな変化も見逃すまいと、瞬きもせずにじっと見つめた。しかし澪は、慎也が現れたことにあっけにとられていた。「何をしに来たの?」彼との離婚はもう受理されているはずだ。そして今ごろは美羽と一緒にいるはずなのに、どうしてこんな所に来たのだろうか。一方、澪の目に再会の喜びのかけらもないのを見て、慎也は心の中に沸き立つ切なさをぐっと飲み込んだ。「お前を迎えに来たんだ」澪に断られるのを恐れて、彼は慌てて付け加えた。「澪、前に俺が美羽を助けたのは、ただの友情からなんだ。それに、今になってやっと気が付いたんだけど、あいつは嘘ばかりつく女なんだ……」慎也の話で、澪は初めて知った。美羽はマンゴーを食べて自分を陥れただけでなく、大学入学共通テストの後に別れたのも、海外留学がしたかったからだということを。そして今、慎也
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第19話

慎也は何か言おうとしたが、反論できるような記憶がまったく思い浮かばなかった。「俺、俺は……お前のことを愛してたんだ。ただ、自分でも気づいてなかっただけで……」彼の口から「愛してる」なんて言葉を聞くなんて思わなかったから、澪は思わず嘲笑った。「本当に愛してるなら、どうして結婚記念日を忘れるわけ?愛してるなら、どうして私のこと、ちっとも信じてくれなかったの?」澪の一つ一つの言葉が、鋭い刃となって慎也の胸に突き刺さり、彼は酷く打ちのめされたのだ。この時、慎也は自分がどれほどひどい過ちを犯してきたのか、ようやく思い知らされた。慎也は切なげな表情を浮かべ、その瞳には今まで感じたことのないほどの後悔が渦巻いていた。「澪、俺が悪かった。本当に……今すぐ許してくれなくてもいい。だから、もう一度だけチャンスをくれないか?許してくれるまで俺は待つよ。いつまでだって、待ってみせる」そう言って、彼の瞳には、かすかな期待が宿っていた。「無理よ」澪はきっぱりと首を横に振ると、はっきりと、こう言い放った。「あなたと離婚を決めた時から、もう一生、あなたとは関わらないって心に誓ったの」そのあまりにも素っ気ない言葉に、慎也は最後の望みを打ち砕かれたようだった。それでも彼は諦めきれず、店の中に立ち尽くしたまま、ただ黙って澪を見つめていた。だが澪は、慎也がいないかのように無視して、黙々と花束の手入れを続けた。カラン、とドアベルが鳴った。その音を聞いて、彼女の顔にようやく笑顔が戻った。「ちょうど終わったところ。さ、行こう」店に入ってきた隼人は、隅に立つ大柄な男の姿に一瞬、目を見張った。でも、澪が紹介するそぶりを見せなかったので、彼も気づかないふりをした。そして隼人は手に持ったバスケットを軽く掲げると、親しみのある笑顔で白い歯を見せた。「この花、さっきフラワーパイを作ろうと思って摘んできたんだ。今日は本場の、とびっきりおいしいやつを食べさせてあげるよ」彼の明るい笑顔につられて、澪の口元も、さらにほころんだ。「ええ、じゃあ行こうか」二人が仲良く店を出ていこうとするのを見て、慎也はついに我慢できなくなった。彼は勢いよく澪の前に回り込むと、その手首を強く掴んだ。「こいつは、誰だ?」突然のことで、澪は反応できなかっ
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第20話

その言葉に、慎也の顔がさっと青ざめた。彼は今までまさか自分の妻から、出ていけと言われる日がくるなんて、思わなかったからだ。そして、この状況はすべて、自分が招いたことだった。それから慎也は、茫然としながら花屋を後にした。彼が去っていくのを見届けて、澪はようやくほっと息をついた。「隼人さん、さっきはありがとう」隼人は、気にしないようにと手を振った。「気にしないで。たいしたことじゃないよ」そして、彼は少し真面目な顔になって言った。「もし君の元夫がまたしつこくしてきたら、すぐに俺に教えてほしい。君がひとりで彼と向き合うのは、危ないから心配なんだ」二人が親しくなってから、隼人はどうしてこんな人里離れた町に来たのかと澪に尋ねたことがあった。澪は一瞬ためらったけど、結局、慎也との失敗に終わった結婚生活について打ち明けた。この話は今まで誰にもしたことがなく、隼人は、それを知る最初の人間だった。その時彼女はまるで、やっと胸の内を打ち明けられる人を見つけたとでもいうように、昼から夜までずっと話し続けた。話を聞き終えた隼人は、ただ真剣に澪の目を見て言った。「もしあいつが君を連れ戻そうとしても、君が望まないなら、俺が必ず君の前に立って守るから」その時、澪は彼の言葉をただの冗談だと思っていた。だって慎也は、今ごろ美羽との結婚準備で大忙しのはず。まさか自分のところへ来るなんて、ありえないと思っていた。でも、まさか隼人の心配が現実になるなんて思ってもみなかった。でも、さっき自分の前に立ってくれた隼人の姿を思い出し、澪の胸に温かいものがこみ上げてきた。慎也が現れたのは、ほんの些細な出来事のようで、澪の穏やかな生活に、大きな波風を立てることはなかった。それからの日々も、澪は以前と変わらなかった。一日のほとんどを花屋で過ごし、たまに隼人と近所を散歩するくらいだった。ただ、ひとつだけ、彼女は、慎也がまだこの町を去っていないことを知っているのだ。そして花屋で仕事をしていると、焼き付くような視線を感じることがよくあった。でも、慎也が目の前に現れることはなかった。だから彼女も、自分の生活の邪魔をしない限りは、気づかないふりをすることにした。そんなある日のことだった。突然、ものすごい豪雨が町を襲った。大粒の雨がひさし
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