離婚して5年目、私・神原聡花(かんばら さとか)はT市の街角で再び木村城士(きむら じょうじ)に出会った。私は支社を視察に来た女社長で、彼は野良犬と食べ物を奪い合うホームレスになっていた。当初、私たちが離婚したのは、一杯のカップ麵が原因だった。私は車の窓を下ろし、カップ麵を彼に投げた。「賞味期限切れだけど、ただだよ」城士の濁った目に、突然涙が溢れた。「聡花、まだ俺を恨んでる?」私は顔を上げずに言った。「カップ麵はたった500円、とても安い。でもあのとき、私の片方の腎臓を無理やり取られそうになったのよ。城士、あなたを恨まないわけないでしょう?」私の問いかけに、城士は何か言ったようだった。風の音が大きくて、私は聞き取れなかった。隣で運転手の小林(こばやし)の声が聞こえた。「社長……あのホームレスの人、知ってるんですか?」私は答えなかったが、5年前のT市の話をゆっくりと語り始めた。……あの時、私と城士は6平米のアパートに住んでいた。家賃は毎月3万円だ。窓もなく、壁の塗装はカビだらけで、夏は蒸し風呂のように蒸し暑く、冬は氷室のように寒かった。でも私はそれを甘んじて受け入れていた。城士は「君がいる場所が天国だ」と言ったからだ。あの時、彼は24歳で画家だった。絵が売れる画家ではなく、部屋いっぱいに絵を描いても、一枚も売れない画家だった。23歳の私はコンビニでアルバイトをして、毎日10時間立ちっぱなしで、足は大根のように腫れていた。だが、私たちは幸せだった。少なくとも、私はそう思っていた。あの日、退勤間際で、私はちょうどお客さんに理不尽な扱いを受けたところだった。しかも、3か月分の給料を賠償した。空腹で胃が痙攣する体を引きずりながら家に帰ったとき、私の唯一の願いは、熱々のカップ麵を一杯食べられることだ。私はすでに3日間、まともに食事をしていなかった。それは、何日も我慢してようやく買った「贅沢品」だ。しかし、引き出しをすべて探しても、そのカップ麵は見つからなかった。ふとゴミ箱を見ると、すでに食べられて空になっていた。私の心が一瞬で冷え切った。家には食べられるものが何もなかった。私はしゃがみ込み、生活費を入れた缶を探った。中にはまだ最後の500円が残っているはずだ。
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