薄暗い自室に、モニターの冷たい光だけが煌々とユウの顔を照らしていた。時刻は深夜二時を回ったところだが、ユウの瞳はまだ冴えわたっている。指先がキーボードの上を忙しく滑り、クリック音とチャットの通知音が単調なリズムを刻んでいた。二十代半ばになった今も、彼が没頭するのはこの仮想世界だけだった。 ユウにとって、現実世界は冷たく、そしてどこか居心地の悪い場所だった。中学校と高校で受けた陰湿ないじめの記憶は、今なおユウの心を重く縛りつけている。教室の隅で身を縮こませた感覚、ヒソヒソと交わされる嘲笑の声、そして誰にも助けを求められなかった孤独。その痛みが、ユウを現実から遠ざけ、このデジタルな世界へと深く引きずり込んだのだ。 ディスプレイに映し出された彼の分身、騎士アバターは、煌びやかな鎧を纏い、強力な武器を携えている。ゲームの中の彼は「レオン」と名乗り、頼れる仲間として、チームのリーダーとして活躍していた。現実のユウが持てなかった自信、能力、そして何よりも「居場所」が、そこには確かに存在していた。「レオンさん、今のムーブ完璧でしたね!さすがです!」 ヘッドセットの向こうから、聞き慣れた仲間の明るい声が届く。それは、ユウの現実の友人たち――彼に会ったこともない、ゲーム内の仲間たちの声だった。 彼らの言葉は、現実で誰からも向けられなかった、純粋な承認だった。その甘い蜜のような心地よさに浸るため、ユウは毎月の給与の大半をこのゲーム内のアイテムやガチャに惜しみなく投じていた。現実の生活費は最低限に切り詰め、食事はコンビニ弁当ばかり。部屋の中には空のペットボトルと菓子の袋が散乱し、異臭さえ漂い始めていたが、ユウは気にしない。彼にとって、現実の部屋よりも、画面の中の城砦や戦場こそが、真の居場所なのだから。 ふと、ユウは目を細め、画面から視線を外した。部屋の隅にあるカレンダーの日付が目に入る。週末、同僚が楽しそうに話していた合コンやデートの話題が、唐突に脳裏をよぎった。彼女、女友達……それらはユウにとって、あまりにも遠い、別世界の出来事のように感じられた。現実の女性と目を合わせることすら、今のユウには想像もつかない。「……いや、どうでもいい」 ユウは小さく呟くと、再び画面に集中した。キーボードを叩く指に、力がこもる。今、仲間たちが次のレイドボス攻略を待っている。レオンがいな
Dernière mise à jour : 2026-03-04 Read More