谷口翔(たにぐち しょう)にプロポーズされた日、私たちは自分たちがとある運命に翻弄される物語の中にいると知った。彼はこの物語の主人公。つまりは、ヒロインを救うために存在するのだ。そして私はといえば、名前すら与えられていない、ただの脇役にすぎなかった。だが、翔は目を真っ赤にしながら、私の手を引いて役所へと向かう。勢いのまま婚姻届を出すと、周りのことなど一切気にせず、私との盛大な結婚式まで挙げた。彼は私を強く抱きしめてこう言った。「日和(ひより)。運命なんてくそ食らえだ。俺が信じてるのは、お前を愛してるってことだけだから」私たちは、誰もが羨む仲の良い夫婦だった。こうして二人で幸せに暮らし、静かに老いていくものだと信じていた。しかし、結婚して3年目のことだった。この物語のヒロインが酒に酔ったまま逆走し、狂ったようにバイクを飛ばして、まっすぐ私に突っ込んできたのだった。反射的にハンドルを切った私は、ガードレールに激突した。体は血だらけで、運の悪いことに、ガラスの破片が心臓に突き刺さっていた。鼓動のたびに命を削る激痛が走る。助手席に座っていた翔は、呆然としていたものの無傷だった。翔はなんとか車の中から這いずり出し、倒れ込んでいる相手を見た。その瞬間、彼の顔が真っ青になる。「莉奈!」その名前を聞いた瞬間、私は自分の体から血の気が引いていくのが分かった。宮本莉奈(みやもと りな)。それがこの物語のヒロインの名前だったから。翔が口にしたその名前を聞いた私は、ハンドルに突っ伏したまま体が固まった。凍てつく血が血管の中を巡り、血の混じった呼吸が喉から漏れる。変形した車体の中で押しつぶされ、身動き一つとれない。なんとか抜け出そうとしても、ほんの少し動くだけで、裂けるような痛みが全身を襲う。視界の隅では、翔が地面に屈みながら、震える手で莉奈に怪我がないかどうかを確認していた。そんな彼の、涙ながらに叫ぶ声が響く。「莉奈、死ぬな!なあ、頼むから冗談だって言ってくれよ……目を開けて。俺だよ、翔だ。絶対に助けてやるからな。お願いだから返事をしてくれ……」私は血と涙で視界がぼやけ、前が見えなくなった。だが、どんな体の痛みよりも、翔が莉奈の名前を呼んだあの瞬間が、一番辛かった。喉に溜まった血が溢れ出
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