人気俳優の夫、深津蒼介(ふかつ そうすけ)が、息子の深津光(ふかつ ひかる)を連れて親子バラエティ番組に出演した。その途中で、光が山中の落とし穴に落ち、意識を失った。最後の力を振り絞って息子を外へ押し出したのは私、早乙女花音(さおとめ かのん)だった。なのに、人気トップ女優の白石紗耶(しらいし さや)が彼を背負って森を出てくる場面が、感動の名シーンとして切り取られた。病院では、夫と息子と紗耶の三人が、まるで本当の家族のように和やかだった。記者が光に尋ねた。「光くん、お母さんも現場にいたと聞きましたが、姿が見えませんでしたね?」光は小さな顔を上げ、無邪気に答えた。「ママは僕のことが嫌いなんだ。かっこいいおじさんと行っちゃったよ」蒼介は眉をひそめ、私にメッセージを送った。【子供がこんな目に遭ったというのに、他の男と浮気か?いい度胸だ、二度と俺の前に現れるな】でも、彼が私を見つけた時、血に染まった私の遺体を抱いて、泣き崩れていた。……病室は、皮肉なほど穏やかだった。紗耶が優しく息子の光の背中をさすり、果物をひと口食べさせた。傍らに座っている蒼介は、スマホの画面を見つめていた。その端正で洗練された顔立ちからは、感情が一切読み取れない。記者は気を利かせ、質問を終えると早々に退室していった。紗耶は蒼介にちらりと目を向け、宥めるように口を開いた。「蒼介さん、あまり心配しすぎないで。花音さんもきっと忙しいだけよ。手が空いたら光くんに会いに来るはずだわ」蒼介はスマホを脇に置いた。その無造作な所作さえも絵になる。「別に心配なんかしてない。むしろ来ない方がいい——」そこで光がすかさず口を挟んだ。「そうだよ、ママなんか来ない方がいいもん。恥ずかしいし、僕はさやさんと一緒がいい」恥ずかしい。私の魂はかすかに震えた。病床に横たわる光を、じっと見つめた。小さな頭には包帯がぐるりと巻かれていた。この子は、私が十月十日お腹に宿し、命がけで産んだ子なのに……紗耶は目を細めたが、すぐに柔らかな声で宥めた。「光くん、ママがお見舞いに来なくても、そんな言い方しちゃダメよ」蒼介だけが静かに目を伏せ、長い沈黙の末、結局何も口にしなかった。私の魂は宙に漂い、静かにこの光景を見下ろしていた
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