All Chapters of 死後、クズ息子をクズ夫の初恋相手に譲り渡した: Chapter 1 - Chapter 8

8 Chapters

第1話

人気俳優の夫、深津蒼介(ふかつ そうすけ)が、息子の深津光(ふかつ ひかる)を連れて親子バラエティ番組に出演した。その途中で、光が山中の落とし穴に落ち、意識を失った。最後の力を振り絞って息子を外へ押し出したのは私、早乙女花音(さおとめ かのん)だった。なのに、人気トップ女優の白石紗耶(しらいし さや)が彼を背負って森を出てくる場面が、感動の名シーンとして切り取られた。病院では、夫と息子と紗耶の三人が、まるで本当の家族のように和やかだった。記者が光に尋ねた。「光くん、お母さんも現場にいたと聞きましたが、姿が見えませんでしたね?」光は小さな顔を上げ、無邪気に答えた。「ママは僕のことが嫌いなんだ。かっこいいおじさんと行っちゃったよ」蒼介は眉をひそめ、私にメッセージを送った。【子供がこんな目に遭ったというのに、他の男と浮気か?いい度胸だ、二度と俺の前に現れるな】でも、彼が私を見つけた時、血に染まった私の遺体を抱いて、泣き崩れていた。……病室は、皮肉なほど穏やかだった。紗耶が優しく息子の光の背中をさすり、果物をひと口食べさせた。傍らに座っている蒼介は、スマホの画面を見つめていた。その端正で洗練された顔立ちからは、感情が一切読み取れない。記者は気を利かせ、質問を終えると早々に退室していった。紗耶は蒼介にちらりと目を向け、宥めるように口を開いた。「蒼介さん、あまり心配しすぎないで。花音さんもきっと忙しいだけよ。手が空いたら光くんに会いに来るはずだわ」蒼介はスマホを脇に置いた。その無造作な所作さえも絵になる。「別に心配なんかしてない。むしろ来ない方がいい——」そこで光がすかさず口を挟んだ。「そうだよ、ママなんか来ない方がいいもん。恥ずかしいし、僕はさやさんと一緒がいい」恥ずかしい。私の魂はかすかに震えた。病床に横たわる光を、じっと見つめた。小さな頭には包帯がぐるりと巻かれていた。この子は、私が十月十日お腹に宿し、命がけで産んだ子なのに……紗耶は目を細めたが、すぐに柔らかな声で宥めた。「光くん、ママがお見舞いに来なくても、そんな言い方しちゃダメよ」蒼介だけが静かに目を伏せ、長い沈黙の末、結局何も口にしなかった。私の魂は宙に漂い、静かにこの光景を見下ろしていた
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第2話

誰にも、私の声は届かない。蒼介は紗耶を一瞥しただけで、すぐに視線を逸らした。「俺は結婚している。わかってるよな、紗耶」紗耶の目はたちまち赤くなり、涙が今にもこぼれ落ちそうに揺れた。この泣き方。さすが、ヒット作を何本も当てた女優だ。「蒼介さん、まだ私のことを責めてるの?あのときは、どうしようもなかったの。川原監督についていかなければ、私たちは業界から干されてしまう……あそこで立ち止まるわけにはいかなかったの……」そう言い終えるか終えないかのうちに、彼女の目からとうとう涙がこぼれ落ちた。うつむいた姿は、まるですべてを諦めてしまったかのようだった。「私のこと、汚いって思ってるよね?私だって、そう思ってるわ……」それをそばで聞いていた私は、ようやく腑に落ちた。この人気カップルが別れた理由は、ずっと謎のままだった。知っているのは、二人の三度目の共演が、業界きっての大物監督・川原彰(かわはら あきら)の作品だったということだけだ。それまでずっと恋人役を演じてきた二人だったが、その映画では蒼介が男二番手、紗耶がヒロインになった。映画の撮影が終わると同時に、二人は別々の道を歩むようになった。今の紗耶の言い方だと、当時、彼女は監督に強いられたということになるのだろうか。蒼介の目にも、同じように複雑な色が浮かんでいた。芸能界に長くいれば、みんなキレイごとだけじゃないってわかる。脅されたのか、取引だったのか、真相なんて、本人にしかわからない。紗耶をじっと数秒見つめていた蒼介は、ドアを勢いよく開けた。落ち着いた口調に、どこか諦めもついていた。「入れ。雨が止んだら帰ってくれ」紗耶はソファに腰を下ろした。そして彼はベッドにもたれ、何気なく本をめくっていた。ようやく、雨が上がった。「……じゃ、おやすみなさい、蒼介さん」挨拶も忘れずに、紗耶は素直に部屋を出て行った。ただ私には見逃せなかった。彼女が部屋を去る瞬間に見せた、あの何かを確信したような笑みを。その後の二日間も、紗耶は同じ口実で家に居座った。けれど、蒼介の様子は私が思っていたほど上機嫌ではなかった。暇さえあれば、スマホを手に取り、何度も見返していた。おかしいわ。彼と紗耶の間に、どうして何も起きないのだろ
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第3話

警察の言葉が終わった瞬間、蒼介の顔がさっと蒼白になるのが見えた。 一秒、二秒。 ようやく口を開いた。 だが警察の言葉が理解できないみたいに、掠れた声で反論した。 「そんなわけがない、妻は俺と喧嘩して家出しただけだ」 そう言いながら、彼はますます確信を強め、ふっと軽く笑いすらした。 「詐欺だろ、金が目当てか?妻をダシにして騙す気?俺が信じるとでも?」 言い切ると、彼は乱暴に電話を切った。 けれど私は気づいていた。 スマホを握る彼の手が、激しく震えていたことに。 紗耶もようやく事態を飲み込むのか、顔を青ざめさせ、微かに体を震わせていた。 「蒼介さん……」 「黙れ!」 蒼介は苛立たしげに髪をかき上げ、部屋の中を落ち着きなく歩き回った。 まるで取り憑かれたように、ぶつぶつと呟く。 「ふさけるな、絶対に嘘だ。あいつが死ぬわけない……」 私は彼の前にふわりと漂い、激しく揺れるその瞳を見つめながら、静かに囁いた。 「本当よ。私、本当に死んだの。せいせいしたでしょ?」 次の瞬間、蒼介はよろめきながらコートを掴むと、狂ったみたいに部屋を飛び出した。 私は強制的に彼のそばに引っ張られ、最後に一度だけ紗耶を振り返った。 彼女は呆然と首を垂れ、両手をじっと見つめていた。 警察署まで三十分かかる道のりを、蒼介はわずか十数分で駆け抜けた。 助手席のあたりに漂っている私でさえ、ひやひやした。 どうしてそんなに急いでるの? まるで、私のことをすごく心配しているみたいじゃない。 …… 蒼介はよろよろと警察署へ駆け込み、手近な警察官の腕を掴んだ。 その形相は少しばかり凄惨だった。 「花音はどこだ!? 呼び出してくれ!」 その警察官は最初怪訝そうだった顔が、すぐ気の毒そうなものに変わった。 「早乙女さんのご主人ですね? こちらへどうぞ」 霊安室はとても冷たく、魂である私でさえ寒気を感じるほどだった。 それとも、目の前の骨があまりにも刺々しくて、逃げ出したくなっただけかもしれない。 蒼介はまるで足に根が生えたみたいに動かず、その骨を死に物狂いで睨みつけていた。 彼は手を伸ばしかけたけれど、途中で力なく垂れた。 そして口を開いた。 一言一言、血を吐くような声だった。
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第4話

「紗耶はお前のママじゃない!」蒼介が叫んでいた。光は怯え、泣くことさえ忘れてしまった。「ここは俺たちの家だ。出て行きたいなら勝手にしろ!」紗耶も同じく驚き、慌てて近づいて彼の腕を取ろうとした。「蒼介さん、あなたが今とても辛いのは分かるわ——」言葉を言い終える前に、蒼介に腕をつかまれ、そのまま玄関の外へ引きずり出された。「出て行け!うちにお前の居場所はない!」玄関のドアが激しく閉められ、蒼介は糸が切れたようにその場に膝をついた。光はすっかり怯えきり、泣きじゃくりながら彼にすがりついた。「パパ、パパ……」蒼介は息子をきつく抱きしめた。涙が、光の柔らかな髪に落ちた。そして、何度も何度も問いかけた。「パパと光は、ママを愛しているよな?そうだろう、な?愛してるんだ……」光はまだ幼く、彼がどうしてこんなふうになっているのか分からなかった。おそるおそる彼の顔をのぞき込み、小さな声で言った。「僕、ママのことは好きじゃない……さやさんがママの出てる映画を見せてくれたの。みんな、ママの悪口を言ってたもん」蒼介は弾かれたように顔を上げた。赤く充血したその瞳には、痛みと怒りが入り混じっていた。しばらくして、彼は再びうつむき、嗚咽混じりに呟いた。「俺のせい……全部俺のせいだ」……蒼介は少しおかしくなっていた。それを、この二日間見てきて、そう思った。彼はゴミ箱から陶器人形の破片を拾い集め、一晩中それを必死に繋ぎ合わせようとしていた。けれど、あれほど細かく砕けたものが、元に戻るはずがない。私は黙ってその様子を見ていた。彼が私の部屋から、日記帳を見つけ出すまでは。私はもう見ていられず、魂のままで駆け寄り、それを奪い返そうとした。なのに、手は何度も彼をすり抜け、彼を止めることはできなかった。そして、蒼介は壁の角に寄りかかったまま、震える手で私の日記をめくり始めた。そこに書いていたのは、短い記録ばかりだった。大学時代から書き始めた、些細な日常の出来事。転機は大学卒業の時だった。私が芸能界に入ったのは、おばあちゃんのためだった。あの頃は、卒業したばかりの何もない学生だった。その矢先、おばあちゃんは肝臓がんだと診断された。おばあちゃんは、私にとってたった一
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第5話

蒼介は慌てて、涙を拭き取った。次のページをめくると、こう書かれていた。【やっと、今までとは違う役をもらえたよ〜!まだ端役だけど、それだけで超ハッピー!!ただ、相手役と芝居を合わせてる時に助監督に怒られた、「水商売みたいだ」って。堪えきれなくて、こっそり泣いちゃった。その姿が深津先輩に見つかっちゃった……深津先輩、本当に優しい。先輩がちゃんと教えてくれたの、身体ではなく目で演技する方法を。なのに、なんで私、顔赤くなってるの】日記の日付は、あの夜より前だった。その先のページは、まるで少女の恋文みたいに、蒼介の目の前に広がっていた。最初の憧れから、やがて恋心へと。塵のようにちっぽけな自分が、月を仰ぎ見ているのだと思っていた。そして、あの夜まで。【ごめんなさい……ごめんなさい。わざとじゃないの。マネージャーが私に薬を盛って、あの部屋に送ったの……本当にごめんなさい、私って最低だ。逃げられない、どうして逃げられないんだろう……】乱れた筆跡からは、当時の私がどれほど苦しみ、途方に暮れていたかが痛いほど伝わってきた。その時の私は、自分がなにか大事できれいなものを汚したと思っていた。Comment by 洩矢: 润色。“弄脏月亮”直译效果未必好なのに、彼から結婚を申し込まれた時、心の奥でかすかに密かな喜びを感じてしまった。盗んだ宝物を守る気分で、蒼介と暮らしてきた。なのに、最後にはこんな結末を迎えてしまった。部屋の中で、嗚咽が聞こえた。驚いて蒼介の方を見た。彼はとっくに涙で顔を濡らし、声を上げて泣いていた。私の日記帳をぎゅっと抱きしめ、子どものように胸が張り裂けそうに泣いていた。「俺が悪かった……戻ってきてくれないか? もう一度一から出会って、やり直そう。な?」その瞬間、私はふと気がついた。蒼介も、私に対してほんの少しだけ愛情を抱いてくれていたのかもしれない、と。私はしゃがみ込んで、何年も愛し続けたこの男の顔を見つめた。でもね、蒼介。みっともない始まりには、みっともない終わりがしか似合わない。……蒼介はそれから一週間、家でふさぎ込んでいた。光もどこかおかしいと気づいたのか、時々泣き喚いて「ママ」と求めた。それでも蒼介は見ようともせず、毎日私
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第6話

次の瞬間、穴の入口が枯れ草で覆われた。私は中から声が枯れるほど叫び続けた。「お願い、引っ張り上げて」と、彼女が思い直してくれることだけを祈りながら。私はまだ死にたくない。まだ、演じたい役を演じていない。光がちゃんと大きくなるのを、まだ見届けていない。蒼介と普通の夫婦として過ごした日は、一日もない。こんなふうに死んでいいはずがない。なのに誰も振り返らず、私はそのまま置き去りにされた。大騒ぎで山を捜した一行は、光を連れて帰った。でも、もう一人が消えたことに、誰も気づかなかった。苦しんでいる蒼介の顔を見つめながら、私はそっと問いかけた。「自分の肉が裂けていくのを、はっきり感じるって……どういうことか、わかる?」痛かった、すっごく。そう、痛くて、絶望して泣き叫んだ。息も絶え絶えになりながら、うめき続けた。その間、蒼介と息子は病院にいた。あの女と楽しげに笑い合った私の人生は、最初から最後まで、ずっと悲劇だった。蒼介はぼんやりとした足取りで家に戻った。私は彼の後ろを漂いながらついていき、玄関を入ったところで、光があの割れた陶器人形の破片をいじっているのを見た。蒼介の姿を見つけると、光は泣きながら言った。「パパ、ママはいつ帰ってくるの?ママの夢を見た。ママが『眠っちゃダメ』って言って、僕を家に連れて帰るって」胸の奥がきゅっと締め付けられた。あの夜、確かに光を抱きしめながら、何度も呼びかけていた。光が、少しだけ覚えてたんだ……その時、蒼介が猛獣のように飛びかかった。光の肩をがっしりと掴み、目を血走らせて叫んだ。「山に連れて行ったのは誰だ?紗耶なのか!?」私でさえ身がすくんだのだから、光はなおさらだった。光は泣きじゃくりながら、何度も頷いた。「さやさんが……木の実を摘みに行こうって……振り返ったら、さやさんがいなくなってて……僕、穴に落ちて、すごく痛かった……」それを聞いて、蒼介はぶつぶつと繰り返した。「あいつだ、あいつが花音を……」そして二人は泣きくずれ、実に異様な光景だった。いつまでも見ていたくはなかったが、離れることもできなかった。そっとため息をついて、顔を背けた。……紗耶だとわかったところで、どうにもならない。証拠は大
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第7話

予想通り、警察は調査を行ったが、証拠を見つけることはできなかった。蒼介が警察署を出た日、外は土砂降りの雨だった。全身びしょ濡れだったが、その目つきは恐ろしいほど冷え切っていた。私の死はやがて人々の記憶から薄れていくだろう。そう思っていた矢先、蒼介は突然、光を自分の両親の家へと預けた。両親には、今は自分に光の面倒を見る余裕がないから、しばらく頼みたいと告げた。だが、私にはどこかおかしいと感じられ、胸騒ぎがしていた。彼が車で紗耶の家へと向かい、ドアをノックした瞬間、その嫌な予感は頂点に達した。蒼介だとわかると、紗耶の目が輝いた。「蒼介さん?どうして来たの?」蒼介は無言のまま、大股で近づき、紗耶を壁に押し付けた。背負ってきた手提げカバンから取り出したのは、ロープとナイフだった。この状況に、私は驚愕に目を見開いた。私より驚愕したのは当然紗耶のほうで、彼女は言葉にならない悲鳴を上げた。次の瞬間、口を塞がれ、椅子に縛りつけられていた。すべて終えると、蒼介はソファに腰を下ろした。今の彼の目は暗く淀み、地獄から這い出てきた鬼のようで、一ヶ月前とは、まるで別人だった。手の中でナイフを持ちあそびながら、じっとりと紗耶を見据えた。「お前がやったんだな?」後ろめたいことがある紗耶には、彼が何を指しているのかすぐわかった。彼女は必死に首を横に振り、両目に涙を溢れさせた。一刺し。彼女の太ももに突き刺さり、血が噴き出した。紗耶は惨叫を上げたが、口を塞ぐ布に遮られ、喉の奥に押し殺された。蒼介はただ肯定的な答えを求めているようで、顔色を変えることなく続けて問いかけた。「光をわざと山に誘い込み、落とし穴に落とした。それから花音を下に降ろして助けさせ、最後に彼女だけを置き去りにした。そうだよな?」紗耶はすでに痛みで全身に冷や汗をかきながら、それでも狂ったように首を振り続けた。二刺し。血はもうズボンの裾から床へ滴り落ち、私の魂の足元まで流れてきた。もし今の私に実体があったなら、きっとこわくて顔が真っ青になっていただろう。深津蒼介とは何者か。若くして頂点に立った大物俳優、業界の誰もが称える模範的な存在。彼の人生には、私以外に何の汚点もなかった。それが今、すべて台無しになった
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第8話

――番外編・深津蒼介の視点――花音が目の前で消えていくのを、この目で見た。最後に彼女はこう言った。来世では、もう二度と会わないようにしようと。そんなことがあっていいのか?俺たちには、もっと美しい未来があったはずだ。ただ、出会いがもう少しだけ、ほんの少しだけでいいから、まともなものだったらよかったのに。実のところ、花音と結婚してから、俺はずっと不思議に思っていた。どうして俺は、結婚などと言い出したのだろう、と。おそらく、あの時の彼女があまりにも可哀想だったせいだと思う。調べたことがあった。三流女優だが、それでも何本かの作品には出ていた。なのに、あんなぼろぼろの帆布バッグを背負って来るとは思わなかった。肩紐を死ぬほど強く握りしめて、力が入りすぎて白くなった手で、ただおろおろと立ち尽くしていた。「すみません、本当に申し訳ありません。この子は下ろすつもりです。ただ、先輩がこの子の父親だから、知る権利があると思って」何度も謝り続けていた。俺のベッドに潜り込んできた時の度胸は、どこへ行ったというんだ。「結婚しよう」という言葉は、そうやって口をついて出た。彼女だけじゃない、俺自身も、まさか自分がそう言い出すとは思っていなかった。翌日にはもう彼女を連れて、婚姻届を提出した。後部座席で何がそんなに嬉しいのか、彼女は目尻を下げるほどの笑みを隠しきれずにいた。俺が気づいていないとでも思ったのだろうか。……光が生まれたあの日、俺は確かに撮影中だった。本来は急いで戻るつもりだった。でも、追加シーンが入って身動きが取れなくなった。撮影を中止しようと思ったが、そうしたら、彼女を気にかけすぎではないか。そんな必要はない。だから俺は、彼女の手術の同意書にサインをする機会を、みすみす逃した。たしかに後悔した。でも、花音がまるで気にしていない顔をしているのを見た瞬間、なぜかとたんに腹が立った。彼女とちゃんと向き合って生きていこうと、考えたことがなかったわけじゃない。でも、どんな汚い手を使って、俺に嫁いできたかを思い出すと、どうしても辛く当たらずにはいられなかった。かつて、紗耶だって同じように俺から離れていったのではないか?だから俺はただ見つめていた。あのきらきらと光る瞳
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