結婚後、私――小西詩央里(こにし しおり)は夫の小西京志郎(こにし きょうしろう)と共に、絶海の孤島にある海上風力発電の建設拠点へと移り住んだ。午前一時、宿舎の暖房が突然切れた。寒さに身を縮ませながら、京志郎に電話をかける。電話の向こうからは、絶え間ない欠伸まじりの声が聞こえてきた。「変電所の話じゃ、配線がイカれて復旧作業中だってさ。直るのは明日の朝になるな。寒いなら湯たんぽでも多めに用意しろよ。想定外のトラブルなんだ、俺に言われたってどうしようもないだろ」こちらが口を開く間もなく、ツー、ツーという無機質な音だけが受話器から響いた。寒気はますます鋭さを増し、骨の髄まで容赦なく刺してくる。私は歯を食いしばり、布団をさらにきつく体に巻きつけた。ピコン、と通知音が鳴り、スマホの画面が再び明るくなった。横目で画面を見ると、荒木真未(あらき まなみ)がタイムラインに投稿したところだった。写真の中の彼女は、半袖シャツ一枚という軽装で、アイスキャンディーをくわえていた。「小西所長が発電機を届けてくれて助かったー!今夜は凍えちゃうところだった」その写真を、ただじっと見つめ続けた。怒りが湧くと思っていた。惨めさに泣きたくなると思っていた。以前のように、胸が締め付けられるように痛むはずだと思っていた。だが、何も感じなかった。ただひたすらに疲れていた。重くのしかかるまぶたを持ち上げる気力さえ湧かないほどに。翌朝、目覚まし時計が鳴り響いた。ベッドに力なく横たわったまま、どうしても起き上がることができない。全身をロードローラーで轢かれたかのように重く、体の節々が軋んで痛んだ。力を振り絞って医務室へ向かうと、体温を測った看護師の永田美紗子(ながた みさこ)は、その数値を見て思わず眉をひそめた。「詩央里さん、四十度も熱がありますよ。解熱剤だけじゃ体力が持たないから、特別支給の栄養剤も追加しておきましょうね」保険適用外となるそれらの特別支給品を受け取るには、社員用の福利厚生ポイントを切る必要がある。社員用決済IDの残り少ないポイント残高を見て、私は苦笑いを浮かべて首を振った。離島の拠点では、本土から輸送される物資が慢性的に不足している。そのため、基礎的な保障以外の限られた物資を公平に分配すべ
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