その名が耳に飛び込んだ瞬間、凛太の足は床に縫い付けられたようにピタリと止まった。頭の中が真っ白に染まり、あれほどやかましかった周囲の喧騒が一瞬にして消え去った。あとに残ったのは、鼓膜を劈くような酷い耳鳴りだけだった。先ほどの女の声が、耳の奥で執拗にリフレインする。反響を繰り返すその名は烙印となって、彼の心臓を無残に焼き焦がした。数秒のち、彼は激しく首を振った。「……あり得ない。あり得るはずがない!」もつれる足で無理やり振り返り、エレベーターの中にいる女を血走った目で睨みつけた。その声は、自分でも制御できないほど震えていた。「今……誰と言った?彼女の名前は?」突然の異常な剣幕に、その女はびっくりして言葉を失った。凛太が荒い息を吐きながらさらに問い詰めようとしたその瞬間、無情にもエレベーターの扉が彼の目の前で閉まり始めた。慌てて腕を伸ばし、扉を開けようとした彼の手はボタンを押す直前で、ピタリと止まった。宙に浮いた指先が微かに震えている。やがて彼は、真実を知ることに怯えるように、その手をさっと引っ込めた。凛太は魂が抜けたような足取りで人混みをすり抜け、深く項垂れたまま「聞き間違いだ、絶対に聞き間違いに決まっている」と、自分に言い聞かせるように幾度も呟き続けた。音葉の怪我はまだ治っていないのだ。医者が退院を許可するはずがない。それに秘書には彼女を病室へ連れ戻すよう命じてある。もし万が一の事態が起きれば、秘書から真っ先に報告があるはずだ。だいいち、彼女はどんな時でも絶対にスマホの電源を切らない女だ。それが、誰かが事故に巻き込まれたこの瞬間に限って、都合よく連絡が途絶えるなどあり得るはずがない。しばらくして、凛太の脳内に突然、一つ結論がひらめいた。音葉がスマホの電源を切った理由はただ一つ。彼女は怒っているのだ。先ほど屋上で、自分が無理やり土下座をさせたことに腹を立てているのだと。考えれば考えるほど、凛太は自分の推測が正しいと確信した。彼女はよく知っているのだ。俺が最も恐れているのが、彼女が再び目の前から姿を消すことだということを。彼女のスマホにGPSを仕込み、二時間おきに居場所を確認しなければ正気を保てないほど、俺がそれに怯えているということを。だから今回は、晴香に手出しするのではなく、あえて手口を変え
Read more