その言葉が出た瞬間、会議室は水を打ったように静まり返った。秘書も一瞬にして顔色を変え、自分が取り返しのつかない失言をしてしまったのだと悟った。だが、どの言葉がマズかったのかまでは分からず、会議室にいる他の役員たちも、凛太が彼女にどんな処分を下すのかと固唾を飲んで見守っていた。なにしろこの数年間、誰もがその「タブー」を了解としていたが、それが真実なのかどうかをわざわざ試そうとする命知らずは一人もいなかったのだから。それぞれが内心で様々な憶測を巡らせていると、ついに上座に座る人物が口を開いた。「分かった。先方には、明日は時間がない、明後日もないと伝えろ。会議はここまでだ」凛太の声はいつも通りで、皆が予想したようにその場で秘書を解雇することもなかった。期待していた「見せ物」が肩透かしに終わり、役員たちはひどく落胆した。やはりあの噂はデマだったのだと、誰もが興味を失った。この一件を境に、もはやその件を話題にしようとする者さえいなくなった。だが、彼らは気づいていなかった。その名が響いた瞬間、凛太のまつ毛が微かに震え、指先で弄んでいたペンの動きがピタリと止まったことを。そして、社長室に戻った彼が目を真っ赤に充血させていたことも、首から下げたペンダントヘッドの刻印が擦り切れるほど撫で回されていたことも、誰一人として知る由もなかった。また三年が過ぎた。この三年間、誰もがあの名前を口にすることを固く禁じてきた。凛太もまた、それに同調するように自らに嘘をつき続け、とうの昔にあの出来事を忘れ去ったかのように装ってきた。しかし、ひとたびその禁忌が破られるや否や、抑え込んできた思慕の念が堰を切ったように溢れ出し、胸の奥底へと流れ込んできた。その時になって初めて、彼は思い知ったのだ。この三年間、ただの一瞬たりとも忘れたことなどなかったのだと。同姓同名の人間でさえ、この三年間一度も現れることはなかった。それがよりによって、二人の結婚記念日の前日というタイミングで飛び出してきたのだ。凛太からすれば、相手の運が悪かったとしか言いようがない。名前も悪ければ、選んだタイミングも最悪だった。昼休みが明けると、彼は内線電話を取り上げ、秘書を呼び出した。「A国の浅見代表に伝えろ。提携は白紙だ。時間を守れないような人間は、瀬戸グルー
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