私は、宍戸心未(ししど ここみ)。画家として生きてきた。けれど、ある交通事故で視力を失った。絶望の底にいたあの頃、ずっとそばで支えてくれたのは、幼なじみの宍戸耕平(ししど こうへい)だった。彼は、私の人生に残されたたったひとつの光だった。やがて私たちは結婚した。けれど二年後、私は偶然、パソコンに残されていた録音を聞いてしまう。そこには、夫の耕平と、彼がずっと想い続けていた女――江坂香奈美(えさか かなみ)の声が残されていた。「耕平、助けてくれてありがとう。でも……心未に黙って、彼女の角膜を私に移植したことが知られたらどうするの?目を覚ましたら、どう説明するつもり?もし警察に行かれたら?」「気づかせるつもりはない。あいつはもう目が見えない。俺が妻にして、ずっとそばに置いておけばいい。香奈美、お前のためなら、俺は何だってできる」息が止まりそうになった。私が救いだと信じていたものは、最初から最後まで、ただの嘘だったのだ。録音をスマホに保存すると、私は病院へ連絡し、中絶手術の予約を入れた。――もう終わりにしよう。そうして私は、彼との別れを決めた。……両目の見えない私が付き添いもなく中絶を受けに来たと知った医師は、ひどく気遣うような声で言った。「中絶は体に負担のかかる処置です。ご家族の方は?お電話して付き添っていただかなくて大丈夫ですか」私は静かに首を横に振った。「……家族はいません」十年前、両親は事故で亡くなった。そのあと私を引き取ったのが、宍戸家だった。うちと宍戸家は代々親しい付き合いがあり、私は耕平と幼なじみとして一緒に育った。耕平は昔から何度も、まるで当たり前のように言ってくれていた。――お前のことは、俺が守る。けれど。香奈美が現れてから、すべてが変わってしまった。香奈美は気性が強く、いつも人目を引くような存在だった。気づけば耕平は、自然と彼女に惹かれ、いつもそばで守る側に回っていた。たとえ香奈美が別の人と結婚しても、その気持ちが変わることはなかった。あの事故の日。車に乗っていたのは、私と香奈美だった。ふたりで国際絵画コンクールへ向かう途中だった。私はずっと、事故で自分の目が見えなくなったのだと思っていた。けれど本当は違った。傷ついていたのは――香奈美の目だ
Read more