娘の内田奈々(うちだ なな)の百日祝いのために用意された料理は、ほとんど冷め切ってしまっていた。私は眠った奈々を抱き、隅で座っていたのだが、周りは私の姑である内田千春(うちだ ちはる)を持ち上げるのに必死だった。彼らは口々に、千春の育児の苦労を労う。そして、夫の内田彰人(うちだ あきと)にも昼は仕事、夜は育児で大変だと言っていた。だが、私に対して何か労いの言葉をかけてくれる人は誰もいなかった。奈々が生まれてから今まで、千春と彰人は何一つしてくれていないのに。私は産後の肥立ちがかなり悪かったのだが、毎日家事と育児に追われ、さらには、足の悪い千春の食事まで用意していた。部屋のドアが開き、彰人が入ってきた。隣には秘書の藤堂紬(とうどう つむぎ)の姿もある。紬は限定モデルの新しいバッグを背負い、親しげに彰人の腕に絡みついている。私を見つけた紬は、笑ってこう言った。「このあと社長とパーティーに出る予定なんですけど、せっかくの百日祝いだから、挨拶だけでもって、わざわざ連れてきてもらったんです」紬は大袈裟に身ぶり手ぶりを繰り返す。すべては、自分の手首に巻かれた新しい時計を見せるためだろう。ダイヤモンドの装飾された時計が、電気の下でこれでもかというほど輝いている。「梓さん、別に変な意味はないですから、心配なさらないでくださいね。パーティーに出席する私が恥をかかないようにって、社長が買ってくれたんです。全部仕事のためですから」紬の言葉を聞いた周囲の人々が、彰人に労いの言葉をかけ始めた。「仕事のために、娘さんの百日祝いすら出られないなんて、本当に頑張ってるな」そんな声が聞こえる。誰も疑問に思わないのだろうか?秘書には高価な時計や限定バッグを買い与える夫が、自分の妻には何年も着古され、色褪せた服しか着させていないことを。これは、明らかに変なことなのに。皆に色々言われいい気になったのか、彰人は誇らしげな表情を浮かべながら言った。「俺はもう行くから。誰かさんみたいに家で贅沢して暮らしていられればいいんだが、残念なことに、俺には仕事があるからな。今の体を見てみろ?ん?あまり食いすぎるなよ」彰人が奈々の百日祝いの席にいたのは、たった5分だったが、彼の放った数少ない言葉の全てが、冷たい刃物のように私の心
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