冷宮(れいぐう・寵を失った妃の住まい)のはりはそう高くない。洗い桶を二つ重ねて踏み台にし、私はついに首を括り付けた。ようやく、家に帰れる。家族との再会を待ちわびるあまり、私は思いきり足元の桶を蹴り飛ばした。途端に、強烈な窒息感が首を締め付ける。意識が急速に薄れ、遠くで聞こえる宮中の賑やかな奏楽もかすれていく。この世界での思い出が、走馬灯のように駆け巡った。私は大魏王朝(だいぎおうちょう)へ転生し、もう21年になる。4人の攻略対象のうち、誰か一人の好感度を最大にできれば、元の世界にいる私の不治の病は完治するはずだった。4人は皆、国の要人で誰もが憧れる存在だったが、みんな元ヒロインのせいで私を深く恨み、消えてしまえとさえ願っていた。ついにシステムから攻略失敗と判定が下り、4人の望み通り、私はこの世界を去ることになったのだ。うつらうつらする中、誰かが私の名を呼ぶ声が聞こえた。ハッと息を吹き返した途端、頭から冷や水を浴びせられ、私は激しくせき込んだ。見上げると、高貴な気品を漂わせた男が数珠をいじりながら、冷え切った目で私を見下ろしていた。あまりにも馴染み深い顔だったため、意識が完全に戻りきらないまま、私は思わず彼の名を口走っていた。「懐恩?」言い終わった瞬間、私は激しく後悔した。案の定、男は名前を呼ばれると不快そうに眉をひそめた。「馴れ馴れしく名を呼ぶな。君なんかにその資格はない」目の前に立つ冷徹な青年は、大魏王朝で誰もが恐れる皇宮内部の管理機関を束ねる宦官であり、私の攻略対象の一人である宋懐恩(そうかいおん)だった。宋家が取り潰された際、私は危険を冒して死体の中から重傷の宋懐恩を助け出し、半年間付きっきりで看病したのだ。当時の彼は家族を失ったばかりで、強い警戒心から、私が近づくことを頑なに拒んでいた。私は少しずつ彼の心を開き、自分を大切にするよう言い聞かせたものだ。彼は一族の冤罪を晴らすと決意し、名を捨てて宮中に潜り込むと、権力の階段を上り詰め、ついには朝廷を牛耳るほどの権力を手にしたのだ。幾多の修羅場を乗り越え、宋懐恩のどん底も知っていたし、誰よりも信頼されていたはずだった。だが、それはもう4年前の話だ。中秋の夜、私と皇太子・李雲沢(りうんたく)が婚礼を挙げ、誰もが祝っていた。システ
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