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第2話

Auteur: 莉々子
川の水は凍りつくほど冷たい。私は抗うのをやめ、ゆっくりと沈んでいった。

もうすぐ家に帰れる。今年はどんな中秋節の料理を食べているのだろう。

闇の中で、誰かが私の手首を強く掴み、力任せに引き上げた。

「冷清月(れいせいげつ)!何をしているんだ!」

目を開けると、さっきまで落ち着き払っていたはずの宋懐恩が、ずぶ濡れになっていた。青ざめた顔で咳き込みながら、彼は私を鋭く見つめていた。

「死ぬ芝居を打ったくらいで、素心を傷つけた事実が無かったことにできるとでも思っているのか?」

私は動揺する宋懐恩を静かに見つめ、淡々と返した。「だったら、本当に死なせてくださいよ。死んだほうが、そっちの願いも叶うでしょう?」

まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかったのか、宋懐恩の目は怒りで赤く染まった。

「素心が帰ってきたばかりなんだ。彼女に君ごときでこれ以上、悩んでほしくないだけだ」

赤くなった宋懐恩の目じりを見て、私はふと昔のことを思い出した。宋家が罪に問われ、彼が世間の蔑みと罵声を一身に浴びていた頃のことだ。

宋懐恩は体が弱くて繊細だった。悔しいときも何も言わずにただ目を赤くしていたが、私の慰めでようやく心を落ち着かせていたものだ。

それなのに、今の宋懐恩には一体何が不満だというの?

この4年、下の宦官や宮女たちを差し向けて私をいじめていたのは誰の仕業だろうか?

ここでは死ねないようだ。私は荷物を拾い上げ、家へと向かうことにした。

家へ向かう私を見て、宋懐恩は私の手首を強く握ったまま、一歩も離れずついてきた。

「君は昔からずる賢い。見張っていなければ、途中でまた何を仕出かすか分からん。冷御医に引き渡せば、二度と関わり合いにはならない」

私はぴたりと足を止めた。この世界で私の死を一番望んでいる人。それが、私の兄である冷清陽なのだ。

だから宮中から追い出されたとき、冷家へ帰ることさえ考えていなかったのだ。

だけど、今となっては冷家に戻る方が、この世を去る機会はありそうだ。

冷家の門をくぐると、下僕たちが忙しく掃除をしていた。庭には冷素心の好む夾竹桃(きょうちくとう)の花が溢れている。

冷清陽がウサギの提灯を手に上機嫌で現れたが、私を見て顔から笑顔が消えた。

「どの面を下げて戻ってきたんだ。宮中でとっくに死んだと思っていたが」

私は呆然と立ち尽くす。昔の兄は、こんな人じゃなかった。

両親を亡くした私たちは二人きりで寄り添い、唯一無二の家族として生きてきたのだ。

冷家は医術を生業とする家系で、兄は皇宮の太医院(たいいん)の長になることを目指していた。私は兄が帝都へ上るためのお金を用意しようと、山へ薬草を摘み続けた。

雨でぬかるんだ道で、貴重な薬草を採ろうとして足を滑らせ、骨折したこともある。

普段は温厚な冷清陽が、激昂したのを初めて見た。靴が片方脱げたのも構わず駆け寄ってきて、泣きながら私を抱きしめてくれた。私を失うくらいなら、帝都へなんて行かない、と。

私がいなければ、帰る場所も、生きる意味もないんだと、冷清陽は言っくれた。

でも、私たちが冷素心を引き取ってから、兄にとっての妹は私一人だけじゃなくなった。

体が弱い冷素心のために、冷清陽は私が苦労して作り、彼の旅費にするはずだった貴重な薬まで飲ませてしまった。

でも冷素心は、薬が苦いからといって、こっそりそれを吐き捨てていた。

それを注意した私に対し、冷清陽はひどい冷酷な人だと非難した。

「冷清月、薬のことばかり。そんなもの、素心の命より大切なはずがないだろう?」

やがて冷素心が家出すると、私は兄に指を潰され、冷家からも追放された。

「こんな卑劣な女が、医術を継ぐ資格はない。今日から妹とは認めない!」

苦労して磨き上げた指は、もう鍼を握れなくなった。冷宮での洗濯仕事も遅いと馬鹿にされ、ずっと見下されてきたのだ。

宋懐恩が妙な表情を浮かべて口を開く。「素心が戻ってきてから、皇太子様は側室たちを実家へお返しになりました。彼女はそれが受け入れられなかったらしく、私の前で二度も死のうとしまして……」

冷清陽は眉をひそめた。「泣き喚いて死ぬふりをするなど、浅はかな女の小細工にすぎません。宋様が、あんな見え透いた芝居に騙されるはずがないでしょう?冷清月のことは私が一番よく分かっています。本気で死ぬはずがありません」

それを聞いた宋懐恩は、少し表情を和らげた。自嘲気味に首を振って笑い、私の前で取り乱したことを後悔しているようにも見えた。

冷清陽はウサギの提灯を指さし、私を蔑むように見やった。「素心にこれを届けにいくから邪魔だ。こっちが戻る前に、さっさと消えていろ」

その言葉が終わらないうちに、私は傍らにある夾竹桃の葉を引きちぎり、口へ運んだ。

その瞬間、冷清陽の顔色が変わった。

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