家が火事になった時、川上景太(かわかみ けいた)はドアを開けさえすれば私を助け出せたはずだったのに、地下室に閉じ込められた私を無視し、まっすぐに二階へと駆け上がっていった。「悦子は体が弱いから、先に彼女を助け出にいく!」彼が私を見捨てるのは、これで三度目だった。一度目は私たちの結婚式だった。彼は清水悦子(しみず えつこ)からの電話に出ると、あっさりと立ち去ってしまった。二度目は私が交通事故で流産した時だった。彼は失恋した悦子に付き添うため、一日中姿を消してしまった。私が救出された後、景太は救急隊員たちに怒鳴り散らしていた。「お前ら、人間の言葉が分からないのか?!悦子の顔が擦りむけたんだ。彼女を先に病院へ運べ!」けれど、あの女の顔には、ほとんど傷一つ見当たらなかった。私は冷静に焼けただれて変形した指輪を外し、景太の顔に向かって投げ出した。「私たち、離婚しょう」景太はちらりと私を見上げ、眉をひそめて言った。「お前、いつまで騒ぐつもりだ?悦子が怯えているんだぞ。どうしてもこんな時に俺の気を引こうとするのか」そう言い終わると、彼はほとんど傷が見当たらない悦子の顔を、念入りに見ていた。妻である私は、全身に火傷を負い、皮膚はただれていたというのに、結局、「いつまで騒ぐつもりだ」の一言しか貰えなかった。彼にとって、私の恐怖も絶望も、ただの注目を集めるための手段でしかなかったのだ。悦子は彼の腕の中で、猫なで声で私に謝り始めた。「ごめんなさい、詩織(しおり)さん、私が不器用ですから、台所で火事を起こしてしまうなんて。そうでなければ、詩織さんが怪我することもなかったのに……景太くん、詩織さんを先に救急車に乗せてあげて。私なら大丈夫だから」彼女は景太を突き飛ばすふりをしたものの、ぐにゃりと彼の腕の中に倒れ込んだ。景太はいとおしむように彼女を抱きしめた。「お前のせいなわけがないだろう?お前は体が弱いし、こんなに煙を吸ったんだ。すぐに検査を受けないといけない。あいつは体が丈夫だから、次の車を待たせればいい」そう言うと、彼は私の方を振り向いたが、その目には、微塵たりとも憐れみはなかった。「お前が怪我をしたのは、お前の不注意だ。悦子のせいじゃない」これが贔屓でなくてなんだというのだろう?悦子はどんな過ちを
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