姑がくれたルビーの腕輪がなくなっていた。家に泥棒が入ったのかと思い、私·二階堂雪乃(にかいどう ゆきの)は慌ててリビングの防犯カメラの記録を呼び出した。映像は、昨日の午後三時二十分で止まっていた。夫の清水直樹(しみず なおき)が金庫を開け、ルビーの腕輪を持ち出していた。出かける前、彼はちらりとスマホに目を落とした。画面に表示されていた登録名は、四文字だった。藤田杏奈(ふじた あんな)。私のジュエリー店のVIP顧客だ。でも、どうして夫が彼女の連絡先を持っているの?胸がざわつき、頭の中にいくつもの可能性が一気に押し寄せた。次の瞬間、夫が私の前まで来て、こう言い訳した。「母さんがこの前来たとき、そのルビーの腕輪を着けたくてさ。それで持っていったんだ」嘘だった。私は心の底から冷えきってしまい、店に残っていた杏奈の住所を調べると、上着をつかんで家を飛び出した。……杏奈は私と同じマンションに住んでいた。歩いて五分の距離だった。五分後、私は杏奈の部屋の前に立っていた。コンコン。「どちらさまですか?」ドアが開いた。「二階堂さん、どうしてここに?」杏奈は私を見るなり、いかにも意外そうな顔をした。その意外そうな表情の奥に、私は彼女の顔によぎった一瞬の後ろめたさも見逃さなかった。どうやら、私が誰なのか知っているらしい。知っていて、なお私の前に姿を見せるなんて?顔を出す度胸はあるくせに、後ろめたさは隠せないの?浅はかなのに、こういう駆け引きだけはしたがるタイプだ。私は口元だけわずかに持ち上げたが、目には少しも笑みがなかった。「先週、うちの店でルビーのアクセサリー一式をご注文くださいましたよね。デザインの確認で伺いました」杏奈は何も疑わず、私を中へ招き入れた。私はソファに腰を下ろした。けれど視線は、杏奈の手首にはめられたルビーの腕輪に向いていた。私がなくしたものと、まったく同じだった。私は水をひと口飲み、何食わぬ顔で尋ねた。「その腕輪、とても珍しい細工ですね。店を始めてから、ここまで精巧なものはめったに見たことがありません……ご主人からの贈り物ですか?」杏奈の顔色がさっと青ざめた。だがすぐに、何を思ったのか、彼女はわずかに顎を上げ、挑むような目を
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