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第2話

Author: 山田奈々子
病室のベッドに横たわっていた私は、身体の痛みよりも、心のほうがずっと強い不安に満ちていた。

だって、彼がどれほど子どもを欲しがっていたか知っていたから。

私は怖くて、とても聞けなかった。

こんな私を嫌になるんじゃないかって。

でも、今なら分かる。

あの人が、自分をないがしろにするはずなんてなかったのだ。

私は深く息を吸い込み、胸の奥で燃え上がる怒りをどうにか押さえつけた。

立ち上がって帰ろうとした、そのとき、杏奈が私を呼び止めた。

「二階堂さん」

私は目を上げた。

彼女はもう、スマホを私の目の前に差し出していた。

画面には、赤ちゃんの無事を願って用意された、お守り代わりの小さなペンダントが大きく映っていた。

「見る目がありそうだから、ちょっと見てくれません?このペンダントの細工、どう思います?彼が……子どもが生まれたら、これをつけてあげるって」

彼女はまだ膨らんでもいない下腹部をそっと撫で、顔いっぱいに幸せをにじませていた。

私は一瞬、思考が止まった。

妊娠しているの?

それに、このお守り――

見覚えがありすぎた。

それは三年前、私が妊娠したばかりのころ、父がわざわざ神社に祈祷を頼み、お腹の子の無事を願って授けてくれたものだった。

けれど結局、その子は生まれてくることができなかった。

それからずっと、私はそれを大切にしまっていた。

会えなかったあの子を思い出すたび、取り出して眺めていた。

それがどうして――

今では、あの人が新しい女の機嫌を取るための道具になっているの?

「細工は一級品です。その方は……ずいぶん心を込めて選ばれたんですね」

声は、ほとんど歯の間から絞り出すようにして出た。

そのとき、杏奈のスマホが唐突に鳴り出した。

彼女は画面をちらりと見た。

そこにはこう表示されていた。

「だーいすきな旦那さま」

杏奈の顔にはたちまち甘い笑みが浮かび、足早に離れた場所へ行って電話に出た。

二人が何を話していたのか、私には分からなかった。

電話を切った杏奈は、目に見えて機嫌が悪くなっていた。

デザイン見本に目を通そうともしない。

私も空気を読んで、席を立って辞去した。

外に出ると、私は顔に貼りつけていた最後の笑みをゆっくり消した。

スマホを取り出し、父に電話をかけた。

父は直樹の直属の上司であり、二階堂グループを率いる人間でもある。

「お父さん、もう気が変わった」

「直樹に渡すはずだったマーケティング部長の席、取り消して」

「それから、一番腕のいい離婚弁護士を探して。私、直樹と離婚する」

……

当てもなくマンションの敷地内を長いこと歩き回ってから、私はようやく家に戻った。

玄関を開けると、直樹も家にいた。

「おかえり。取引先との話はどうだった?」

私を見るなり、彼はたちまち顔いっぱいに笑みを広げた。

数歩で近づいてきて、両腕を広げ、そのまま私を抱きしめる。

「どこの客だよ。年の瀬だっていうのに、こんな時期まで振り回してくるなんて。そんな厄介な客、もう無理して相手しなくていい。家でゆっくりしてればいいよ。俺がちゃんと養うから」

もし彼の浮気を知らなかったら、私はきっと、優しくて気の利く人だと思っていただろう。

でも今は、そんな言葉の一つひとつが吐き気を催すほど気持ち悪かった。

私は片手を上げ、その手で彼を突き放した。

直樹の腕が宙で止まり、顔の笑みがわずかに固まった。

けれどすぐに、何かに思い当たったように表情を和らげた。

「俺が母さんにルビーの腕輪を持っていかせたから、怒ってるのか?」

彼は私の前に回り込み、笑いながらこちらを見た。

次の瞬間、まるで手品のようにポケットからあのルビーの腕輪を取り出し、手のひらに載せて私の目の前に差し出した。

「俺の嫁のお気に入りのものを、俺が他の誰かにやるわけないだろ?

さっきお前が出かけたあと、母さんのところに行って取り返してきたんだ。

ほら、ちゃんと元通り」

褒めてほしそうに、彼は私を見ていた。

私はルビーの腕輪を受け取り、強く握りしめたせいで手のひらが白くなるのを感じた。

今にも問い詰めたい衝動がこみ上げた、そのときだった。

スマホがちょうどよく震えた。

父からのメッセージだった。

少し調べがついたから、戻ってこいと書かれていた。

喉元までせり上がっていた問い詰める言葉を、私は無理やり飲み込んだ。

深く息を吸い、適当に口実を作ると、また出かけようとした。

直樹は疑いもせず、それどころか気を利かせて私のコートを手渡し、穏やかな声で言った。

「気をつけて行っておいで」

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