Home / BL / 帰ろうよ、朋空先輩 / Chapter 11 - Chapter 20

All Chapters of 帰ろうよ、朋空先輩: Chapter 11 - Chapter 20

27 Chapters

#4

赤城先輩は憐れみを込めた瞳で俺を見つめる。そして意を決したように手を叩いた。「とにかく、君が狙われるようになったのは俺のせいだ。だから俺が責任をとる!!」「いやいや、大丈夫ですよ。赤城先輩は悪くないです」むしろ俺と朋空先輩を引き寄せてくれた、恋のキューピッドだ。感謝しかない。笑顔で断ったものの、赤城先輩は食い下がらなかった。「そう言ったって、君の研究室に辰野を入れるようお願いしちゃったし〜。それに君、今は廊下で見張り番してるんだって?」「え。誰からそれを?」「この前研究室の周りをウロウロしてる奴を捕まえて、問い質したんだよ。君がドアの前にいるから今までみたいに突撃できなくなったって嘆いてた。それなら俺が代わるから、無理しないで!」勢いよく両手を握られる。心配してくれるのは嬉しいし、不覚にもドキッとしてしまったけど。────赤城先輩の横に視線をスライドしたとき、心臓が止まりそうになった。先輩の後ろに見えたのは人影。目を凝らして確認すると、無表情で佇む朋空先輩だった。「わああっ!!」「わっ、何? あ、辰野じゃん」俺が驚き叫んだことで、赤城先輩も後ろにいる朋空先輩に気が付いた。俺から手を離し、困り顔で彼に振り向く。「辰野、驚かないで聞いてほしいんだけど。今、入ちゃんが大変なんだ」「知ってる。聞こえたからな」ヒエッ。聞かれたら困ることを、色々聞かれてしまった気がする。びくびくしながら身を縮め、赤城先輩の影に隠れた。朋空先輩の反応を見るのが怖くて顔を上げることができない。「聞いてたか。じゃ、話は早い。入ちゃんを狙う変態が増えた今、研究室にお前ら二人でいるのは危険だ。場所を変えるか、一緒にいるのをやめて」「離れて、関わるなって?」赤城先輩の言葉を遮り、朋空先輩は忌々しそうに吐き捨てた。これはやばい……。掛けていた眼鏡を外し、力強く握り締める。俺の聞き間違いでなければバキッという音が聞こえたので、壊れ……いや、壊したんだと思う。「何で他の奴らの為にそんなことしないといけないんだ?」「他の奴の為っていうか、入ちゃんの為だろ」「問題ない。俺が守るんだから」「って言うけどぉ、分かってんのか? お前は今まで入ちゃんに守られてたんだぞ。廊下で独り、小さいのに頑張っ痛ぇ!!」したり顔で話す赤城先輩を押しのけ(……たというかほぼ平手打
last updateLast Updated : 2026-04-10
Read more

#5

怒らないと約束したのに、光の速さで一喝された。どういうことだ。一緒に寝ようと言われたのに、廊下に出ていたのは俺だ。だから俺も先輩を裏切ったようなもので、間違いなく非がある。けどそれは全部、先輩を守りたかったからだ。……そこまで怒らなくてもいいじゃないか。順序よく説明する、という選択肢はもう俺にはなかった。情けないことこの上ないが……既に色々限界を迎えていたせいで、泣きながら叫んだ。「だ、だって……っ! 先輩いつも無防備で寝てるから、ほんとに危なかったんだもん! 冗談抜きでもっと警戒心持ってよ! 男に興味なかった俺でも、先輩の可愛い寝顔はずっと見てたいと思ったし。自分がどんだけ美人か、もっと自覚してほしい!! うああああ……てか怒らないって言ったのに、先輩の嘘つき! もうやだ、もう絶対信じない!」「………………」はい。不安と悲しみが爆発して、最終的に逆ギレしました。こういう時、どう対応するのが正解なんだろう。感情ぶちまけた後で考えても仕方ないけど、しゃくり上げながらこぼれ落ちる涙を袖でぬぐった。「ふえっ……もう無理、帰る……」「こら。まだ話は終わってない」「終わったもん……諦めたから、もう試合終了」「駄々っ子か」ドアの鍵を開けようとしたものの、阻止されて壁に押し付けられる。やっぱり、怖い。先輩のこと、大好きだけど……何を考えてるのか全く分からない時があって。でもそれを訊く勇気もなくて、逃げたくなる。無論、逃がしてもらえるわけもなく。両腕を掴まれ、見下された。「怒鳴ったりして、悪かった。……お前に怒ったっていうより、自分にムカついてるんだよ」「……自分に?」「守らないといけない奴に守られてた。……自分が不甲斐なくて、さ」朋空先輩は苦しげに顔を歪め、俯く。気付けば力は抜けていて、簡単に腕を振り解くことができた。「お前を危険に晒していたこと。それに気付かなかったこと。全部が腹立たしくて、正直吐きそう」「吐かないでください……」「吐かないけど、触っていい?」何故そうなる。意味不明過ぎてフリーズした。そんな俺に構うことなく、先輩は俺の頬や頭をぐりぐりと触り始めた。「はー、ちょっと回復した。めんどくさいことがたくさん起きるけど、精進あるのみ。だな」「あの、先輩。大変申し上げにくいんですけど、先輩が学校で寝なければ全て解決しま
last updateLast Updated : 2026-04-11
Read more

聞きたい、聞きたくない

全身全霊で懇願すると、彼は足を止めた。どうしたのかと思ってると、そこにはひとりの男子生徒がいた。彼は大きく口を開け、青ざめながら後ずさる。「ひ……姫が、男をお姫さま抱っこをしている……!!」アカ───────ン。さっき俺が思ったことを見事に代弁してくれた。謎の感動を覚えたけど、超絶やばい状況に置かれてることはすぐに分かった。「ち、違うんです。これは……あ!」最悪なタイミングだ。何とか言い訳しようとしたけど、彼は翻り、ものすごい勢いで走り去ってしまった。伸ばした手は力なく落ち、宙ぶらりんになる。「最悪だ……お姫さま抱っこされてるところを見られた……」「別に良いじゃんか。足挫いたってことにしな」「それ説明する間もなく逃げられちゃったんですよ! あああどうしよう、明日には全校生徒に知れ渡ってるよ!」先輩に抱っこされながら、頭を抱えて絶叫する。でも冷静に考えて、今この瞬間も見られたら相当やばい。気持ちを鎮め、冷静に朋空先輩を見上げた。「先輩。何でもするんで、下ろしてください」「分かった」こういう時だけこの物わかりの良さ……。無事に下ろしてもらったものの、俺の心はズタボロだった。「雅月、大丈夫だ。俺が守るから」先輩は優しく言ってくれたけど、本日二回目の台詞ということもあり、残念ながらあまり心に響かなかった。むしろ恨めしい。唇を噛みながら、思わず彼を睨めつけた。「……先輩、俺は自分の身は自分で守ります。だからお願いします。学校で変なことするのはやめてください」「変なこと?」「抱っこ! 抱っこ!」急速な理解度の低下により、思わず地団駄を踏んでしまった。ていうか、これじゃまるで俺が抱っこをせがんでるみたいな構図だ。何でこう上手くいかないんだろう。先輩は俺に背中を向けている。顔は見えないけど、肩が揺れてるから絶対笑ってる。ワタワタして、とにかく疲れた。帰る頃にはすっかり目元の腫れも引いていたけど、マンションに着いたときはグロッキー。「疲れた……眠い……」放課後寝ることが楽しみだった俺の生活はどこへ行ってしまったんだろう。神様、お願いします。どうか俺と朋空先輩に、平穏な日々をお与えください。夏の星座を見上げて願ってると、自販機の前にいた先輩に名前を呼ばれた。「雅月」「はい……わっ」振り向くと、キンキンに冷えたコーラを
last updateLast Updated : 2026-04-12
Read more

#1

「ねえねえ、聞いた? 眠り姫先輩が、男子をお姫さま抱っこしてたんだって!」「聞いた聞いた。しかもそれが、最近先輩お気に入りの二年生だって」「ファンクラブの人達殺気立ってるらしいよ。怖いねー」……なんて会話を、今朝から何回聞いただろう。ほんとに期待を裏切らない学校だ。昨日の放課後の出来事で、翌日の昼に拡散されてるなんて。昼休み、雅月は人が来ない屋上階段に座り、コロッケパンを頬張った。クラスメイトは皆優しいし、くだらない噂を嫌う奴らが多い。教室は安心できる数少ない場所だけど、ほとぼりが冷めるまで極力独りで過ごそう。意外と肝が据わってるみたいで、もうお姫さま抱っこの噂を聞いても何とも思わない。いくらでも想像を巡らせてくれ、と思う。結局、朋空先輩のことが大好きだから。周りがどれだけ盛り上がろうと、最終的にはどうでもいいと感じる。( でもファンクラブの人達を敵に回すのは怖いか……? )襲われたことはもちろん、嫌がらせされたこともまだない。でもいつ何が起きてもおかしくない状況にいることは胸に刻んでおこう。ただ、赤城先輩達が密かに過激派を牽制してくれてることも知っていた。だから尚さら落ち着いているんだろう。何だかんだ味方がいる。……優しい人達がたくさんいる。それが分かっただけでも充分だ。俺の高校生活は今さら目覚めたらしく、大あくびをしていた。「入川、大変だぞ。さっきお前と眠り姫先輩がチョメチョメしてる漫画を描いてる女子がいた」教室に戻ると、早速館原が青い顔でやってきた。「も〜……何かお姫さま抱っこで盛り上がってる奴らもいるし。お前ら仲良いのは良いんだけど、程々にしろよ。ゲイと腐女子の栄養素になってきてるぞ」そう。館原の言うとおり……確かに、事態は変わりつつある。今までは先輩だけが注目され、学校のアイドルとして人気を博していた。ところがそこに俺という付属が現れた為、見事掛け合わせて楽しむ界隈が生まれたようだ。いわゆるビ、ビーエルというやつ。男同士で付き合ってるから間違いないんだけど、変に美化されてるのも恐ろしいと思った。良いのか悪いのか、同性愛者が多いこの学校ではお祝いムードも漂い始めていた。俺と朋空先輩を公式カップルに仕立て上げることで、同性同士でばんばんイチャつこう、という謎の運動が広がっている。でも、公式カップルって何ぞ。
last updateLast Updated : 2026-04-13
Read more

#2

息を吸い込む度に朋空先輩の香りがする。すごく変態っぽくてやはいけど、これを数回繰り返すだけで眠れてしまう。朋空先輩もそうだ。俺を抱き締めただけで、静かに寝息を立てる。まるで相互の睡眠薬だ。可笑しくて笑いそうになったけど、そんな夢想すら瞬く間に波に攫われてしまった。◇俺は、物心ついた時には母親しかいなかった。父は俺が一歳の時に急死した。母は発作だと言っていたけど、子どもが生まれたことで張り切って、働き詰めだったからかもしれない。中学生の頃にふと考えたが、口にしたことはない。何となく、命日以外はあまり父の話題を出せなかった。母は気にしてないかもしれないけど、何となく……色々思い出させて、辛い気持ちにさせてしまうことが怖かった。でも小さい頃はそんな気遣いできなかったと思う。友達の家にはお父さんという存在がいるのに、ウチにはいない。そのことを何度も母に尋ねた気もする。母がなんて答えたのか、全然覚えてない。だから俺は当時訊きまくってたわりに実際は関心がなかったんじゃないか、と考えた。子どもって残酷だ。その質問が誰かの心を引き裂くことなんて、まるで気付かない。純粋で、真っ直ぐで、それだけに容赦ない。俺は小さい頃、きっと母をたくさん傷つけたんだ。遅くまで働いて、帰ってこない母のことを想い、泣いた夜もある。せめて良い子でいよう。母を悲しませないよう、常に笑っていよう。もう父さんのことは絶対訊かない。だから、ごめん……ごめんなさい。母さん。「……ぅ」手を伸ばした先には、誰もいなかった。「……ん?」瞼を開けた先に広がるのは薄暗い部屋と、パーテーション。え。夜?研究室で眠ったことは覚えてる。でも変だ。ガバッと起き上がり、胸ポケットに入れてたスマホを取り出した。「え!」現在の時刻、十九時二十分。下校時間をとっくに過ぎた、バリバリ夜である。やばい。アラームかけ忘れたんだ!「せんぱ……っ」慌てて隣を向いたが、そこには誰もいなかった。ベッド、いや部屋にいるのは自分だけ。えぇ。朋空先輩、どこに行ったんだ?スマホを膝に置いて、呆然とする。寝起きということもあって、まだ頭がちゃんと働いていない。俺が寝てる間に誰かが部屋に入ってきて、先輩を連れて行った? でも、話し声が聞こえたらさすがに起きると思うんだよな。ということは、先輩はひとりで出てい
last updateLast Updated : 2026-04-14
Read more

#3

伸びるんじゃなくて縮むのか。色々衝撃で慌てたが、先輩は深呼吸して、俺のことを抱き寄せた。「はー……そうかそうか。俺がいなくて怖かったのか」「だ、だって……一緒に寝てたのに」「そうだよな。よしよし、ごめんな」先輩はうんうん頷き、俺の頭を撫でられる。何かちょっと屈辱感があるけど、現状大号泣してるから仕方ない。でも、起きたら独りで怖かったって……マジで情けない理由で泣いてる。もう駄目だ……。先輩の胸に顔をうずめると、髪の毛を持ち上げられた。「雅月、耳まで真っ赤だぞ」「言わないでください……」羞恥心のパラメーターが天井を突き破った。地面に倒れてのたうち回りたい衝動に駆られたけど、余裕たっぷりの朋空先輩は苦笑している。「いや、俺もさっき起きたんだよ。やば、アラームかけ忘れたって思ってさ。でもお前が横でぐーぐー寝てて可愛かったから、しばらく眺めてた」「ちょ! そこは起こしてください!」「いいだろ。寝顔を見るのは恋人の特権だ」朋空先輩はあっけらかんと言い放ち、足を組んだ。「それで、喉渇いたから自販機で飲み物買ってたんだ。戻ってきたらお前が泣いてるから焦ったよ」はい、と言って先輩は俺に烏龍茶をくれた。「ありがとうございます……」「どういたしまして。それより、何の夢見てたの?」囁くように……いや、語りかけるように先輩は耳打ちした。それはまるで子守唄のようで、思わず瞼を閉じそうになった。「こーら。寝ちゃ駄目」「う」このまま眠れたら幸せだったけど、当然ながら顔を上げさせられ、阻止される。諦めて、胸の中に燻る想いをひとつひとつ取り出した。「父親、のこと」「父親? お前のお父さんって確か……」「うん。俺が物心つく前に、病気で死んだ」母親同士の会話から、先輩は既に知っていそうだ。でも誰かに話す機会なんて今までなかったから、俺が知る限りのことを彼に話した。「父さんが死んだのは、俺のせいなんじゃないかと思って……」表に出さないようにしていた、本当の気持ち。それを吐き出せたことに少しだけホッとしている。友達には言えなかったこと……なのに、朋空先輩は聞いてほしいぐらいだ。この差は何だろう。やはりこれが恋人パワーなのか。密かに戦いてると、先輩は険しい顔で前に屈んだ。「ないな」「え?」「絶対ない。仮に過労だったとしても……それを子どものせ
last updateLast Updated : 2026-04-15
Read more

#4

とは言え、これだけ完璧な男の人だ。指輪はしてないけど、絶対綺麗な恋人がいるに違いない。鞄を肩に掛け直し、三人で一階まで下りた。昇降口のドアは閉めてしまってる為、靴を持って職員室から通じる玄関に来るよう言われた。普段は保護者や外部の人が通る為の出入り口だ。非常に気まずかったけど、靴を履いて振り返る。「それじゃ、矢代先生……ありがとうございました」「あぁ。気をつけて帰るんだぞ」先生は腕を組み、爽やかに手を振った。が、「あぁそうそう……悪いと思ってるなら、明日の昼休みに図書室の整理手伝ってくれると嬉しいなぁ」「や、やります! やらせていただきます!」結局罰があった。どんよりしながらドアを抜ける。朋空先輩も続いてやってきたけど、先生は先輩にも声を掛けていた。「辰野。ウチの入川をよろしくな」「……はぁ」校門を抜け、隣り合って歩く。烏龍茶を頬に当てながら、俺は朋空先輩を見た。「先輩、何か先生と親しそうでしたね」「あぁ……去年担任だったから」「そうなんだ!」それなら何か納得だ。矢代先生は、朋空先輩の扱いに慣れてそうだった。それにしても、部屋に来たのが矢代先生で本当に良かった。他の先生だったらもっと説教されてたかもしれない。最悪、親にも連絡……はないか。「あれ」ポケットに入れてたスマホがチカチカと光ってる。取り出して見ると、母からメッセージが来ていた。「どうした、雅月」「母さんから……帰り遅いけど大丈夫か、って」部活をやってれば、帰りに誰かとご飯食べたりして遅くなるのは当然だ。でも俺はそうじゃない。『今から帰る』と打って、返信する。するとすぐに『気をつけてね』と返ってきた。何だかんだ言って、母も心配性だ。思わず笑いそうになると、朋空先輩は俺の肩に寄りかかり、頬をつついてきた。「お母さんを安心させる為に、早く帰らないとな」「だ、大丈夫ですよっ。徒歩圏内だし、過保護なんです」スマホを仕舞い、少しだけ歩くペースを上げる。車の眩しいライトに目を細めながら、夜の家路を急いだ。今は唯一の家族。……だから、俺も力になりたいと思ってる。でもそれを直接言うのは気恥ずかしくて、態度で分かってほしいと思う時がある。それ自体がとてもガキっぽくて、後々反省したりもする。我ながら本当に困った性質だ。母はそんな俺のことを全部分かってる。一番の理解者
last updateLast Updated : 2026-04-16
Read more

#5

鞄を持って教室から出ると、ちょうど赤城先輩に出会した。彼は以前と違う恰好の俺を見て、露骨に驚いた。「全然感じ違うじゃ〜ん。噂通りだ」「噂? って何です?」「入ちゃんが午前中の間にグレた、って学校中で噂になってるよ」何かそれ、ちょっとカッコ悪いな。どうせなら登校時から始めれば良かった。「あ、でもちょうど良かった。辰野は今日先生から呼び出されてて、研究室に行くの遅れるって。入ちゃんに伝えといてって言われてたんだ」「そうなんですね。わざわざすみません、ありがとうございます」丁寧にお辞儀し、笑顔を浮かべると、赤城先輩はますます怪訝そうに身体を屈めた。「入ちゃんはどんなに見た目を変えても、笑うと良い子オーラが滲み出るな」「えぇ。じゃ、笑うのやめます」「いやいや、ガラスのハートの俺にはスマイル必須だよ。それよか何でそんなイメチェン果たしたの? あんまり襟緩めない方がいいよ。変態が寄ってきちゃう」赤城先輩は腕を組み、俺の襟元に手をかけた。確かに彼の言う通り、逆に変な人を寄せ付けてしまうこともあるか。「その……俺のファンクラブみたいなのができたらしいんです。危ないから、友達がパッと見近寄りがたい風にしなってコーディネートしてくれたんですよね」「あぁ、それは聞いた。だから前に言ったろ? 入ちゃんはウチの獣達を誑かしちゃうビジュアルなんだって」「誑かすって……」いくらなんでも過大評価だ。「本当にそうなら、もっと告られてもいいと思うんですよね」「何! 告られたいの?」「いえっそういうわけじゃないです」俺には朋空先輩がいるから、告白されても断るしかない。でももし本当にモテ始めてるなら、中々悪くないと思ってしまうのだ。しようもない矛盾である。ファンクラブも、俺の知らない水面下で事態が進んでるのも怖いし。はぁ……。「でも、先輩……。真面目な話、今の俺ってかっこいいです?」「あらら……入ちゃんが調子に乗り始めちゃったな」最終的に、知らないひとについていかないよう釘をさされた。でも、そこは本当に心配ないと思う。朋空先輩と会う前から俺は結構警戒心が強い方だったし。「ねぇ、二年の入川君だよね? ちょっと話があるんだけど……」「はいっ。何でしょう?」研究室に向かおうとすると、また知らない男子生徒に声を掛けられた。上履きの色からして三年生だ。しか
last updateLast Updated : 2026-04-17
Read more

知りたい、知りたくない

「入川君はもっと自分の可愛さに気付いた方がいいよ! 君を狙ってる子がたくさんいるから、危機感もしっかり持って」以前俺が朋空先輩に言ったことそのまんまだ。まさかここでこんなブーメランを受けるとは。とにもかくにも、そんなベタ褒めされるような人間じゃないということはハッキリ言わないと。「俺男だし、可愛いって言われる理由が自分じゃ全然分からないんです。それに一年のときなんて、誰からも声掛けられませんでしたよ」「それは、君が大人しく過ごしていたからだろ?」「……!?」今も大人しくしてます。周りがワイワイしてるだけで。心の中だけでツッコみ、縮こまってると、進堂先輩は腑に落ちない様子で首を傾げた。「ほんと、何でこんな可愛い子に気付かなかったんだろ? 変だなあ」彼は不思議そうに言うけど、俺は断言できる。どう考えても朋空先輩効果だ。彼の周りに超強力な美白フィルターがかかるんだ。しかしそれを言っても笑われるだけだと思い、口を噤んだ。「それで、先輩……俺に今日会いに来た目的は」「あ、そうそう! それが一番大事だった……お願い、入川君! 連絡先教えて!」だからそれ、がっつり個人情報……!俺の全細胞が教えちゃ駄目だ、と言っている。でも彼が他のメンバーには絶対教えないという謎の契約書を出してきたから、諦めて彼にだけは教えることにした。進堂先輩は、俺のSNSのプロフィールを見ると感動して壁にもたれかかっていた。「ありがとう……もう、一年は元気に生きられる」「そ……そんなに?」俺なんかのどこがそんなに良いんだ……。終始困惑したけど、進堂先輩は感激した様子で帰っていった。困ったことがあったら遠慮なく連絡して、と言われたけど、まずそんな時は来ないだろう。「すごいなぁ……」そういえば赤城先輩に知らないひとについていくなと言われてた。ついてはいかなかったけど、連絡先を教えてしまった。バレたら怒られそうだから、赤城先輩には申し訳ないけど隠しとこう。うんうんと頷き、歩き出す。しっかし、進堂先輩ってすごいかっこよかった。いかにも可愛い女の子がいそうなのに、同性愛者だなんて意外だ。人は見た目で判断しちゃいけない。朋空先輩だってそうだ。皆が抱いてる先輩の印象は、実際は全然違う。「雅月。おいで」「先輩……」本当の朋空先輩は、すご────く甘い。優しい笑
last updateLast Updated : 2026-04-18
Read more

#1

それはつまり……対象にハマってるというより、推すことが目的になってるってやつか。推し活とかでよく聞く。「集団でわーわー騒ぐのって楽しいんだよ。俺は違うけど」「あはは。先輩はひとりで楽しめるタイプですもんね」「そ。ま、俺のことはともかく。お前を追っかけてる奴らが暴走しないよう、進堂に見張らせとく」朋空先輩はスマホを少しいじった後、俺を抱き寄せて頬をぐりぐり押した。「俺はお前とのんびりしてたいだけなのに、周りはいつも騒がしいな」「すみません……」「だからお前は悪くないって」先輩はそう言ってくれるけど、どうしても考えてしまう。先輩みたいに本当に美人だったらいいけど、俺って超地味顔だし……そういうところでも、先輩のファンから恨みを買ってそうだ。朋空先輩、今まで本当に大変だったんだな。注目の的になるって、嬉しより怖いこと、苦しいことの方が多いって分かった。好意も、行き過ぎると鋭利な刃物になる。笑顔で近付いてくる人が、服の下に刃を隠してることはままあるし……神経が尖って仕方ない。( 笑顔で近付いてくる…… )そう思ったとき、ふと遠い昔の記憶が流れ込んできた。まだ小学生の頃。朋空先輩としょっちゅう遊んでいた頃に、すごく帰りが遅くなったことがある。大人がたくさん来て、色々訊かれた。迎えに来た母の顔はひどく強張っていたが、俺を見ると安堵し、力いっぱい抱き締めた。あの時、朋空先輩も一緒にいた。でも、どうしてあんな夜まで一緒にいたんだっけ─────。前屈みになり、瞼を伏せる。考えても考えても重要な部分が思い出せず、何だか苦しくなった。「で、雅月」「は、はい」「お前、本当にこのカッコで過ごすの?」朋空先輩はベッドに頬杖をつき、俺の髪を手櫛で梳いた。「これはこれで可愛いから、別に良いんだけど。……お前が疲れないのかな、って思ってさ」別に見た目に力入れたいわけじゃなかったんだろ? と尋ねられる。そこは全力で頷いた。「寝癖そのまんまで学校に来ちゃうこともありました。でもいつもと違うカッコするのは楽しかったかな……」とはいえ、毎日ちゃんとできる保証はない。カフスは館原のものだし、明日返さないと。「友達が俺の為に考えてくれたことなんで。余力があるときはします!」「そ。お前が良いなら良いよ」先輩は微笑み、俺の前髪を少し持ち上げた。「雅月は
last updateLast Updated : 2026-04-19
Read more
PREV
123
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status