Lahat ng Kabanata ng 私を盾にする家なんか、こっちから願い下げよ!: Kabanata 11 - Kabanata 20

28 Kabanata

第11話

冬の能楽会が行われていた最中、別邸が火事だという知らせが能楽堂へと届いた。顔を青くした執事は朔の元へ歩み寄り、声を殺して告げる。「朔様、別邸が火事だそうです」朔の手に握られたグラスが、宙で静止した。隣に座っていた紗絵も動きを止め、反射的に朔の袖口を掴み、呼吸さえ乱した。「どうしてまた火事なんかに?」久美子が眉を顰めながら聞いた。「原因はまだ不明です。消防も向かっているんですが、火の回りがあまりに速く、東側の廊下と寝室はすでに燃え尽きてしまいました」朔は何も言わず立ち上がった。紗絵が急いで後に続き、震える声で尋ねる。「朔さん。遥さんはまだ病院にいますよね?無事ですよね?」しかし、朔は歩みを止めることなく、紗絵の手を無情に振り払った。別邸に戻ると、すでに消火活動は終わっていて、水浸しの中、焦げ臭い匂いに包まれていた。かつて荘厳で静かだった別邸は、今では焼け落ち、黒い骨組みのみになっている。焼けて折れた梁が雪の上に転がり、まるで何か真実を告げているような亡骸に見えた。雪の中に立ち尽くす朔の耳に、かつてないほどの静寂が押し寄せてくる。本来ならまず後始末をさせ、責任の所在を追及し、神宮寺家としての対応を考えるべきだった。だがこの瞬間、彼の脳裏をよぎっていたのは、遥がここで暮らした日々のささやかな記憶だけだった。眠れない夜、遥はあの古い蓄音機でレコードを聴いていた。神宮寺家が用意した地味な部屋着は拒み、タンスの中にはいつも遥が自分で選んだカラフルなものが仕舞われていた。お茶へのこだわりも強く、あの南の窓際の湯呑みや急須だけは、誰にも触らせなかった。遥の服、楽譜、茶器、そして窓辺で育てていた紅椿、すべてが灰に消えた。畳の横に彼女が置きたがったレコードプレーヤーでさえ、焼き焦げた金属の塊に成り果てている。洋介が足早に近づいてきて、朔に一通の封筒を朔に手渡した。「書斎の焼け残っていた金庫の中にありました」封筒の中身は二つだけ。一つ目は、すでに遥の署名と捺印が済んだ離婚届。二つ目は、炎で端がわずかに反り返った神宮寺家の家訓。最後の一行には、口紅でこう書かれていた――【朔。私はもう、あなたたちのために自分を押し殺したりなんかしない】その瞬間、朔の指先がぎゅっと握られた。洋介が横から
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第12話

翠嶺市の雪は、東都よりも軽く、そして静かだった。遥が飛行機を降りたのは、夜が明け始めた頃だった。ホテルへは向かわず、香織の友人が残した住所を頼りに、栖鳥山の麓にある隠れ家的な旅館を目指した。迎えてくれたのは着物姿の中年女性だった。遥の顔を見るなり一瞬唖然としていたが、すぐに涙で目を潤ませた。「本当に……若い頃の香織にそっくり」彼女は結城眞知子(ゆうき まちこ)といい、香織が一番信頼していた友人だった。東都では香織の話を聞くことがほとんどなかった。遥は、2秒ほど立ち尽くしてから、ようやく声を絞り出す。「突然すみません」眞知子は遥を奥の間へ招き入れ、熱いお茶と、厳重に封印された木箱を差し出した。「香織が亡くなる前にね、預かったものがあるの。あなたが本心からあの家を去ろうと思った時にだけ、開けてほしいって言ってたわ」中には手紙が一通と、鍵の束。手紙の内容は短かったが、それは香織の優しい文字だった。【遥、あなたが自分を縛り付けていた場所を去ることができたのなら、お母さんの分まで翠嶺市の雪を見て欲しいの。そして、私の大切な『紅椿』を取り戻して。私はね、この人生で何回も自分を押し殺してきてしまった。でも、あなたは負けちゃだめ。決して振り返ることなく、あなたの道を進んで】手紙を握りしめた遥の胸は、何かにそっと抉られたように痛んだ。眞知子が静かに説明してくれる。「『紅椿』っていうのは、香織が結婚前に経営していた仕立屋のこと。でも、彼女が亡くなった後、仕立屋と株式はずっと信託で保管されてて、その相続はあなたになってるの。でも、北条家がずっと情報を握りつぶしていたみたい。多分、あなたに知られたくなかったのね」「株ですか?」遥が顔を上げた。「ええ。翠嶺市文化会館と紅椿仕立屋の経営権、それに十分な運営資金が残されているの」眞知子は遥を見つめて言った。「遥ちゃん。あなたには選べる道があったのに、誰かがずっと、あなたは東都から出られないと思い込ませていた……」遥は黙り込んだ。しばらくして、静かに手紙を折りたたむと、瞳に溜まっていた最後の雫をすっと拭った。「まだ、その仕立屋はありますか?」「ええ」眞知子が優しく微笑む。「ずっと閉めてたけど、そこはあなたのものよ」窓の外では、雪がしんしんと降り積もる。ガラス
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第13話

火事のあった翌日、神宮寺家は東都中の笑い物になった。神宮寺家の長男の嫁がついに壊れたと言う人や、朔が妻の教育を怠ったせいで、燃やされたのだと嘲笑う者もいた。朔はその日、会社に出社しなかった。夕方、どうしても欠席できない商工会議所の集まりの時間になると、朔はようやく服を着替えた。いつものオーダーメイドスーツを着こなすその姿に乱れはない。しかし長年付き従ってきた洋介だけは、朔が昨日から何も口にしていないことを知っていた。パーティーの途中、神宮寺グループと犬猿の仲の男が、グラスを片手に近づいてきた。「神宮寺社長。奥さんに逃げられたって噂は本当かよ?」男はわざとらしく笑った。「惜しいことをしたな。俺はあの感じ、嫌いじゃなかったんだよ。もしお前がいらないなら、俺が――」男が最後まで言い終わる前に、朔の拳がその顔面を捉えた。砕けたグラスが床に散乱する。会場がシンと静まり返った。その男の胸ぐらを掴む朔瞳には、隠しきれない殺気が宿っていた。「あいつのことは口にするな」冷酷に、そしてはっきりと言い放つ。「お前のようなやつが相手にできる女じゃない」周囲の者は息をすることすら忘れた。誰も、朔がここまで激高するところなど見たことがなかったからだ。控え室に戻った朔は、すぐに遥名義の口座を全て調べさせた。結果は、想像以上に彼を突き放すようなものだった。3日前、遥は自分の口座にあった預金をすべて別のところへ移動させていた。朔が持たせていたクレジットカードは、一度も使われていない。3年の中で、彼が贈り物として届けた高価なジュエリー類は全て置かれたままで、香織の形見のみ持って消えていた。「奥様、とっくに準備していたみたいですね……」洋介が小さな声で呟く。送られてきたデータを見ていた朔の指先が固まった。衝動的な行動ではなかったなんて……彼女は探すための痕跡を全て断っている。自分が遥のために用意した、いつでも戻ってこれる安息の場所さえも、彼女は自分の手で終わらした。その時、控え室のドアがノックされた。現れたのは、神宮寺家の内務を取り仕切る古株の使用人、中村琴音(なかむら ことね)だった。彼女は朔の足元に跪き、顔を真っ青にしながら小刻みに震えだす。「朔様……あの日、仏間で起きたことについて、ずっ
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第14話

琴音は、古いUSBメモリを持ってきた。「仏間のメインの監視カメラの映像は、消されていましたが……裏庭側の通用口にも予備の防犯カメラがあったんです。だからあの日、配線を見直した時に、こっそりコピーしておいたものです」と彼女は震える声で言った。画質は悪く、遠すぎて細かいところまでは分からない。それでも、紗絵が御守りを奪い、仏間へ飛び込んで燭台を倒す様子ははっきりと映っていた。そして遥が後を追った時には、もう火の手が回っていた。最後のシーンはあまりに無慈悲だった。紗絵が仏間の香炉を手に取り、遥の後頭部に振り下ろしていたなんて。映像が終わっても、朔は長い間、微動だにしなかった。部屋にはプロジェクターの微かな駆動音だけが響いている。琴音はうつむいたまま、泣きそうな声で言った。「あの時は、大奥様に固く口止めをされていたので、どうしても言えませんでした。神宮寺家に、これ以上の不祥事は許されないって……」朔は、喉仏を大きく上下させた。目を閉じ、再び開いたその瞳は、凍てつくように冷めていた。「この映像、他に見たやつはいるか?」「いいえ、いらっしゃいません」「今すぐ神宮寺家を離れろ」朔は側近の洋介に命じた。「彼女を遠くへ避難させておけ」琴音が出ていくと、控え室は再び静まり返った。スクリーンには倒れている遥の姿。それを見つめる朔の手は、USBを砕かんばかりに震えている。遥は、嘘などついていなかったのだ。遥の話を遮り、信じようともせず、遠ざけていたのは、全部自分自身だった。あの日の遥の言葉が脳裏に浮かぶ――「朔、あなたが言う教訓って、私に嘘をついたことへの罰のこと?それとも、あなたと結婚したことがそもそも間違いだったということ?」その問いに、あの時の自分は答えなかった。しかし、今になってようやく答えが分かった。最初から、遥は何も悪くなかった。その時、洋介の電話が鳴った。「社長、翠嶺市から報告がありました。遥さんは昨日、栖鳥山旅館へ行かれたそうです。そして、今日の午前中には、長年休業していた『紅椿』という仕立屋を訪ねたみたいです」朔は顔を上げた。聞き覚えのない名だった。しかし洋介の次の言葉で、朔の瞳が揺れる。「さらに、弁護士から信託文書が届きました。紅椿と翠嶺市文化会館の株
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第15話

紅椿仕立屋は、翠嶺市の旧市街の静かな坂道に建っていた。看板は古び、軒下の風鈴にも埃が積もっている。遥が鍵を開けると、木の扉が小さく音を立てた。部屋の中も、かなり年季が入っていた。裁ち台、アイロン、未完成品がかかっている着物掛け。壁には、香織の若かりし頃の写真まで飾られていた。遥は入口でしばらく立ち尽くしていたが、ゆっくりと中に歩を進めた。実は、眞知子にもう一人ある人物を紹介されていた。「この人は翠嶺市文化会館の執行責任者、松浦修司(まつうら しゅうじ)。香織が東都を去ったあと、ずっと彼のお父さんが紅椿を守ってくれていたの」修司は30代前半。黒いコートを羽織り、研ぎ澄まされた刃のような鋭くも、落ち着いた雰囲気を持つ男性だった。修司は遥と向き合うと、短く手を差し出す。「はじめまして。ずっとこの日が来るのを待っていました」遥は眉を上げた。「東都の人より、お世辞が上手みたいです」修司は穏やかに笑った。「北条さんはあんな狭いところで燻っている人間じゃない。いつか必ず、外に出てくるからっておっしゃっていましたよ」その後の3日間、遥は休む暇もなく働いた。倉庫を片っ端から整理し、香織の未公開手稿をも年ごとに分類した。取引先リストの見直しから、外壁の古びた看板の塗り直しまで、全て自分で行った。さらには、帳簿を確認し、デザインノートを読み込み、会館の会議にも出席した。初めて知ったのだが、香織は名家の長女である以前に、非常に有名な着物デザイナーだったのだ。数年前の東都の主要なファッションショーでは、「紅椿」の名前は当たり前に聞かれていたらしい。しかし北条家に嫁いでからというもの、その存在は少しずつ消されてしまった。紅椿は、趣味などではなかった。香織が命がけで守りたかったものなのだ。4日目の夜、翠嶺市文化会館が公式に発表を行った――【紅椿仕立屋は来月、再始動します。新代表には北条遥氏が就任いたします】発表と同時に、東都が騒然となった。狂って失踪したと思われていた神宮寺家の嫁が、影を潜めるどころか自分で事業を再開させるとは誰も思っていなかったのだ。しかも、取材を受けている時の遥は、黒のシンプルなタートルとコートに身を包み、控えめな出立ちだったが、以前どの社交場で見たよりも輝いて見えた。
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第16話

その晩、紗絵は屋敷の書斎へと向かった。ノックもせず、書類の束を抱えて部屋に入ると、朔は窓際に立ち、スマホで例のインタビュー記事を見ていた。紗絵は苦笑いを浮かべる。「朔さん。おばあさんからの茶会の明細書です」朔はスマホを閉じ、淡々と答えた。「そこに置いといてくれ」紗絵はその場から動かず、静かに口を開いた。「最近、ずっと遥さんのことばかり気にかけていますね」朔はようやく紗絵に目を向けた。しかし、その視線は、紗絵の心臓を凍りつかせる。「何が言いたい?」紗絵はなんとかか弱い演技を保ちつつ、一歩前に進み出た。「遥さんがいなくなってから、朔さんは変わってしまいました。前は守るって言ってくれたのに、今では私の顔すら見てくれない……」朔は紗絵を見据え、突然切り出した。「階段の油は、誰がやったんだ?」紗絵の顔から血の気が一気に引く。間髪入れず、朔はUSBメモリを紗絵の足元に投げつけた。朔のパソコンの画面には、真実がはっきりと映し出されている。紗絵はそれを見た瞬間、膝から崩れ落ちた。慌てて顔を上げ、朔の袖を掴みすがる。「朔さん。あなたを失うのが、怖かっただけなんです」しかし、朔は紗絵の顎を強く掴み、低い声で言った。「仏間の火事、香炉での遥の怪我、週刊誌のリーク。全部、お前がやったんだろ?」顎を掴まれた紗絵の目から、大粒の涙が零れた。隠し通せないと悟ったのか、彼女は泣きながら乾いた笑みを漏らす。「ええ、私がやりました。でも、だからなんだって言うんですか?あの女が憎いんです。北条家という家柄も、あなたの妻という立場も……何より、あなたに守られているのは明らかに私なのに、誰もがあの女のことばかり!」「黙れ」朔は怒りで震えた。しかし、紗絵の狂気は止まらない。紗絵は恨みのこもった目で朔を見つめ、高笑いする。「警察に通報してあの女を追い出し、追い詰めたのはあなたじゃないんですか?あなたがあの時、最初からあの女を選んでいれば、私がこんなことをすることなんてなかったんですから。なのに、今更私を責めるんですか?」その言葉が、鋭いナイフのように朔の胸をえぐった。紗絵の首を掴んでいた手に、それ以上力を込めることはできなかった。紗絵は床に倒れ込みながらも、不気味な笑みを浮かべ続け
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第17話

紗絵が屋敷から追い出されたことは、久美子の耳にも入っていた。久美子は杖をついて書斎に押し入り、怒りで顔を強張らせる。「朔、一体どういうつもりなんだ?紗絵は少し間違えただけじゃないか。なのに、もういなくなった女のために、北条家の面子を潰すのかい?」朔はデスクに座り、冷淡な表情を崩さなかった。「少し間違えただけ?放火、冤罪、故意的傷害。これが少しの間違い?」久美子は言葉を詰まらせたが、すぐに言い返す。「遥が死んだってわけじゃないんだ!第一、あの女が問題ばかり起こすから紗絵も追い詰められたんじゃないのかい?」朔は顔を上げ、自分を当主になるよう育て上げたこの女性に対し、初めて陌々たる疲労を感じた。「遥が受けてきた理不尽な扱いは、大したことではないっていうのか?」久美子は鼻で笑った。「神宮寺家に嫁いだ以上、うちのやり方に従うのは当然のこと。皆そうやって耐えてきたんだ。遥は忍耐力がなかっただけ。あの子なら耐えられたはずなのにさ」そして、久美子は静かに続けた。「あんただって、私にそう言ってたじゃないか。違うかい?」書斎に静寂が訪れる。朔の手の甲に青筋が、浮かび上がった。自分を納得させるために使っていたその理由も、久美子の口から聞くと耳障りでしかない。久美子は朔を見つめ、何かを察したのか声を低くした。「朔。まさかあの女のこと本気で好きになったのかい?」朔は何も答えなかった。だがその沈黙が、すべての答えだった。久美子は鋭い視線で朔を見つめる。「なんて愚かなんだい、あんたは。遥は既に離婚届を出したし、別邸にだって火をつけた。今あんたがすべきことは、事態を収め、紗絵の口止めをすることだよ」朔はようやく口を開いた。「もう事態を収めることなんてできない。なぜなら、誰の肩を持つつもりもないから」そう言って朔は立ち上がり、外へ歩き出す。背後で久美子が冷たく告げる。「あんたが警察に被害届を出すって言うなら、神宮寺家としては遥の精神鑑定を要請するからね?あの子には放火の疑いもあり、離婚のショックもある。精神病院へ送るのが一番だと思わないかい?」朔の足が止まった。数秒置いてから、振り返る。その瞳には、微塵の温度も存在していなかった。「やれるものなら、やってみろ」その瞬間、久美
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第18話

久美子の動きは早かった。翌日には、翠嶺市に内容証明が届いた。理由はもっともらしいもので、情緒不安定の遥に放火の疑いがあるため、離婚手続きと財産分与を中断し、医療診断を受けるようにと、神宮寺家が要求してきたのだ。書類を読み終えた遥は、それを静かにデスクに置く。怒りさえ湧かなかった。神宮寺家には3年間もいた。ああいう人たちが得意とすることは、知り尽くしている――彼らは自分の非を絶対に認めない。反抗する者を「病気だ」と決めつけるのが常套句なのだ。眞知子は怒りで顔を赤くした。「何なの?この人達!」修司は向かい側に座り、落ち着いた声で言った。「彼らの常套手段です。従わない女を病気扱いし、『あなたのために言っている』という言葉で支配しようとする……」遥はふっと笑う。「でも、残念なことに、彼らが今回相手にするのは私なんですよね」遥は弁護士に3つの証拠を準備させた。1つ目は、久美子が口封じを命じた時の録音データ。2つ目は、勲が自分に両家の体裁を保つよう説得した時の電話記録。3つ目は、クリニックや拘留室、そして神宮寺家の屋敷で、自分が受けた全ての診療記録。「私を情緒不安定と呼びたいなら……」遥は書類を整理しながら言った。「世間の皆様に見てもらいましょう。私がどうやって『情緒不安定』になるまで追い詰められたのかを。仏間に閉じ込められ、強引に病院へ連れて行かれ、雪の中で罰を受けたうえに、濡れ衣まで着せられた……それでも笑っていなければいけない。これで正気でいられる方が、おかしいですもの」夜、修司と共に雪祭りの灯籠を見に行った。川の両岸に灯る灯籠は、静かな星空のように輝いている。橋の上に立ち、遥はそれをしばらく眺めていた。やがて、彼女は呟く。「前は、東都から出ることをただの逃げだと思っていました。でも今ならわかる気がします。別の場所に行くことは、負けではないって」修司が遥を見つめた。「火を放ったその瞬間から、君は半分勝利したようなものです」遥は修司を振り返った。「じゃあ、残りの半分は?」修司は川の向こうを指す。「君が帰った時に、奴ら全員の目の前で、君から奪ったものを全てを吐き出させたときですよ」遥はその指先を見た。灯籠の光の中に、見慣れたシルエットが佇んでいる。どうやら朔は、
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第19話

翌日、朔が遥の前に立ちはだかった。場所は、会館の裏にある小さなカフェだった。遥が到着した時、朔はすでにそこにいた。テーブルの上には書類一式、USBメモリー、そして事件の捜査記録が置かれていた。それらから、朔がすべてを調べ上げたことが分かった。「で、何?やっと私の言うことを信じる気になったって言いに来たの?」遥は座り、冷めた口調で尋ねた。朔は言葉を詰まらせた。「悪かった」朔が遥に対しての初めての謝罪だった。しかし、遥はただ朔を見つめるだけで、その表情は全く揺らがない。「朔、謝るだけで済むと思ってるの?私は、あなたが信じてくれるだけで良かったの。なのに、あなたはいつも私のことを信じようともせず、何度も私を暗闇に突き落とした」朔は低く呟いた。「分かっている」「分かってないよ」遥は彼の言葉を遮った。「本当に分かっているら、こんなことになるまで黙っていなかったはずだもの」遥は捜査記録を朔の方へと押し返した。「紗絵がどうなろうと私には関係ない。私が知りたいのは結果だけ。朔、あなたっていつもそう。全部手遅れになってから、『結果』だけ持って私の前に現れる。それと、神宮寺のおばあ様が私に精神鑑定を受けさせようと企んでいたことも、全部知ってるから」朔の瞳の色が変わる。「そんなこと、絶対にさせ――」「あなたが止めようが止めまいが、そんなことはどうだっていい」遥は朔の言葉を遮った。「私、来週には東都に戻るから。弁護士と証拠を持って、私に着せられた濡れ衣を……みんなの前で晴らしてやる」朔は長く沈黙した後、ふと尋ねた。「お前は、俺になんてもう会いたくないのか?」遥はふっと笑う。「ううん、会いたいよ?みんな揃った席で、私が一つ一つ真実をぶちまけるのを……どういう表情で見届けるのか、見たいからね。それに、分からせてやりたいの。私は見捨てられたんじゃない。あなたたちの家の方が私という人間には全く見合ってなかったってね。みんながどんな顔をするか、今から楽しみ」遥の声は静かだったが、その言葉には刃のような鋭さがあった。朔はテーブルに置いていた手を、ゆっくりと握りしめる。ようやく理解した。遥が今こうして自分に会っているのは、情けがあるからではない。彼女には、もう恐れるものがなくなった
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第20話

勲は確かに焦っていた。旅館に戻った遥は、勲からの2度目の着信を受けた。「お前は何を考えてるんだ!」勲は何とか怒りを抑えつけて続ける。「神宮寺家のことは大事にするなって言っただろ?こんなことして、北条家に何のメリットがある?」遥は窓際に寄りかかり、いつも通りの身勝手な言い分を聞いていた。「それで?世間体を気にして電話をかけてきたの?それとも、外の女の身が心配?」勲は言葉に詰まった。しかし、すぐに声を荒らげる。「お前は北条家の娘だ!少しは家のことを考えろ。香織の残したわずかな遺産はもう手に入れたんだろ?じゃあ、それで十分じゃないか。これ以上神宮寺家に噛みついて、東都中の笑い者にでもなるつもりか?」遥は静かに録音を保存し、淡々と言い放った。「安心して。神宮寺家だけを笑い者にするような、そんな甘い終わり方はしないから」電話越しに、沈黙が流れる。勲は何か違和感に気づき、聞き返そうとしたが、遥はすでに電話を切っていた。ドアのそばでは、修司が一部始終を聞いていた。「君のお父さんですか?」「ええ」と遥は微笑む。「ずっとあんな感じの人なんです」修司が、手元に届いたばかりの書類を遥に渡した。「これは使えると思いますよ?」それは北条家の内部会計レポートだった。そこには、勲が香織の遺産運用益を長年にわたり着服し、愛人との住宅や私生児の生活費に充てていた事実が明記されていた。資料に目を通し終えても、遥の表情は落ち着いていた。「ありがとうございます。もともとは神宮寺家を片付けるつもりでしたが、これなら北条家もまとめてできそうですね」一方東都でも、波乱は治っていない。神宮寺家から全ての一族に招集がかかったため、蓮は深夜の飛行機で翠嶺市から帰ってきた。屋敷に踏み込むと、蓮はすぐに朔を探した。「兄さん、正気か?遥さんとはもう離婚したのに、彼女のために紗絵を警察に突き出すって?」朔は冷徹な眼差しを蓮に向け、淡々と答える。「彼女のしたことは、刑務所に入っても仕方がない」蓮は息を呑み、奥歯を噛み締めて言った。「たとえ紗絵がしたことが悪くても、先に紗絵を勘違いをさせたのは兄さんだろ?今まで、あんなに庇い続けてきたくせに、急に手のひらを返すのかよ?」朔は蓮を見ていると、何だか虚しくなってきた
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