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私を盾にする家なんか、こっちから願い下げよ!

私を盾にする家なんか、こっちから願い下げよ!

Oleh:  雨模様Tamat
Bahasa: Japanese
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神宮寺遥(じんぐうじ はるか)は3年間、神宮寺朔(じんぐうじ さく)を愛してきた。 朔のために自分を押し殺し、何でも受け入れることを学び、神宮寺家の古い掟や理不尽な扱いをすべて我慢してきた。 しかし、遥は知ってしまったのだ。 他の女の身代わりにするために、朔が自分を娶ったことを…… 朔は義理の妹を守るために、一族が自分を侮辱するのだって黙認した。 遥のプライドと未来は、すべて朔の手で奪い去られたのだった。 だから、遥は朔に見切りをつけた。 離婚届を出し、屋敷を出た遥が、二度と振り返ることはなかった。 初めの頃、遥が家から出ていたことを朔は全く気にしていなかった。 いつものように機嫌を損ねているだけで、自分が少し甘やかしてやれば、遥はまたいつも通り戻ってくると思っていた。 しかし、しばらくすると、遥は生き生きと生活し、自分ではない他の男に微笑み、仲睦まじそうにしているのだった。自分を見てくれない遥を前に、朔はとうとう正気を失ってしまう。 朔はプライドを捨て、何がなんでも遥を取り戻そうとした。 しかし、遥にとってそれは滑稽極まりなかった。 今さら向けられる愛情など何の価値もない。朔には、報いを受けることだけが相応しいのだから。

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Bab 1

第1話

神宮寺遥(じんぐうじ はるか)と神宮寺朔(じんぐうじ さく)の結婚は、東都の上流社会でずっと笑いものにされていた。

北条家の一人娘の遥。バレエを嗜みながらも、バンドではギターをかき鳴らし、スポーツカーのハンドルを握れば、海岸線を猛スピードで走ることが好きな女性だった。

美しくもありながら、自由さを感じさせる瞳。それはまるで雪の中に咲く紅椿のように、遥の芯の強さがはっきりと見て取れる。

一方の朔は、旧家神宮寺家の次期当主で、かなり硬い性格な上に完璧主義だった。

糸くず一つ許さない身なりに、話し方さえも正確な時計のように淡々としていた。

そんな正反対の二人が、3年間も夫婦という関係でいた。

結婚してすぐ、神宮寺家から辞書ほど分厚い家訓の書が遥の元に届いた。挨拶に来る前に、全て暗記してこいと言うのだ。

神宮寺家に挨拶へ向かった日、神宮寺家の重鎮たちが集まる中、遥はページを2枚めくっただけで、その家訓をビリビリに破り捨てた。

「こんな家訓を覚えさせるなんて、いつの時代を生きてるんですか?」

破れた紙が雪のように散らばる。

この日を境に、遥は朔の祖母・神宮寺久美子(じんぐうじ くみこ)に「礼儀を知らない嫁」と疎まれるようになったことは言うまでもないだろう。

結婚2年目、神宮寺家から一人で出歩くことを禁止された。

遥はそのことに対して、何も言わなかった。ただ、愛車のアストンマーティンに乗り込み、神宮寺家の「規律」を象徴するような黒塗りの重厚な門を、そのまま突き破ったのだ。

庭中に衝撃音が響き渡る。

車を降りた遥は、冷静に一言だけ吐き捨てた。

「私をここに閉じ込めたいなら、足を折るしかありませんよ?」

そして結婚3年目にもなると、神宮寺家からの跡継ぎを望む声が強まった。

久美子自ら手続きを行い、東都の産婦人科での検査から不妊治療まで、全て完璧な準備を整えてきたのだ。

担当する医師や診察日時すら、遥の都合は完全に無視されていた。

遥は埃ひとつない無機質な診察室に座ると、漂う消毒液の臭いに吐き気を覚えた。

看護師が薬のトレイを遥に差し出した瞬間、彼女はそれを叩き落とした。

金属製の器具が床に叩きつけられ、耳障りな音が響く。

「私は神宮寺家の子供を産むために、朔と結婚したわけじゃありません」

遥はボディーガードを振り払い、病院を飛び出すと、そのまま神宮寺グループのオフィスへと向かった。

この3年間、全てに反抗していたわけではない。

茶道や花道などの教養を身につけ、親族の集まりでは朔を立て、波風立たぬようにと、必死に自分を押し殺してきた。

朔はただ無口なだけで、自分の努力はわかってくれていると思っていた。

あと少しだけ我慢して、あと少しだけ自分を殺せば、朔だって自分のことを庇ってくれると信じていたのに。

しかし、どうなった?

遥が自分を殺せば殺すほど、彼らはさらに調子に乗っただけだった。

今日こそ、朔に直接問いたださなければ気が済まない。

彼がこの神宮寺家からの理不尽な扱いを止めてくれないのなら、この結婚には何の意味もないのだから。

役員用のエレベーターで、最上階へと向かう。

遥の姿を見て秘書の渡辺洋介(わたなべ ようすけ)が顔を青くしたが、遥の聞き迫る様子に、止めることはできなかった。

「奥様、社長は今会議中で……」

しかし、遥は洋介の制止を無視し、ドアを大きく蹴り開けようとした時、部屋の中からは朔の声ではなく、他の男たちの下品な笑い声が聞こえてきた。

「朔、お前の奥さんまた病院で騒いだんだって?神宮寺家の人たち、今回こそは相当頭にきてるんじゃないのか?

まあ、それも無理もないよな。だってお前の奥さん、そもそも神宮寺家の嫁には向いてないんだから。見た目も派手だし、何より気が強すぎる。従順なんて言葉とは無縁だろ」

別の男も、嫌な笑みを浮かべながら続けた。

「そもそも、お前だってあんな女はタイプじゃなかっただろ?それなのになんでまた、わざわざ事故を演出してまで助けに行ったんだ?見てみろ、今のあいつ。お前に心底惚れ込んじまってるじゃないか」

廊下に立っていた遥の手が、震える。

あの事故……

3年前、雪の日の夜。山道を下っていた遥の車のブレーキが突如故障した。

その時、窓を割り、彼女を救い出してくれたのが朔だった。

朔の呼吸を耳のそばで感じ、彼の肩に積もった雪を見た瞬間、遥は恋に落ちた。

初めて、心許せる人に巡り会えたと思ったのだ。

それから、遥は朔に猛アタックした。

遥の朔に対するアプローチは、世間でも噂になるぐらいだった。

朔に好かれようと必死に趣味を調べ、予定を合わせ、嫌いだった茶道さえ完璧にした。

ずっと、これこそが運命だったと信じていたのに。

まさか、全て仕組まれていたことだったなんて……

扉の向こうの部屋の中が一瞬沈黙に包まれる。

そして、最後の事実が、ある男によって残酷に語られた。

「なんでだって?そんなの、紗絵さんのために決まってるだろ?」

神宮寺紗絵(じんぐうじ さえ)。

朔の弟・神宮寺蓮(じんぐうじ れん)の妻の名前だった。

「朔は最初から紗絵さんのことしか頭になかったんだから。でも、紗絵さんの実家の白川家って、神宮寺家と比べると……あれだろ?だから、もし紗絵さんを嫁に迎えちまったら、神宮寺家では恰好の餌食になる。そこで、紗絵さんの盾として目をつけたのが、トラブルメーカーの遥さんってわけだ。

遥さんが問題を起こせば、親族の批判はすべて遥さんに向けられる。そうすれば、紗絵さんが平和に過ごせるからな。

それどころか、最初から子どもなんかいらなかった朔は、遥さんに内緒でパイプカットまで受けてるんだぞ?神宮寺家は、遥さんが原因でずっと後継ができないって思ってるけど、そもそも彼女が妊娠することなんて不可能なんだよ」

その場に凍りついてしまったように、遥は体が動かなかった。

パイプカット?

別の女を守るための盾にされ、不妊の濡れ衣まで最初から計画されていたものだったなんて……

唇を強く噛み締めた口の中に、血の味が広がる。

しかし、まだ心には「もしかしたら否定してくれるかもしれない」そんな一筋の望みが残っていた。

一言でいいのだ。そんな事実はないと言ってほしかった……

長い沈黙の後、ようやく朔の声が聞こえてきた。

それは氷のように冷静で、感情なんて微塵も感じられない。

彼から発せられた言葉が、遥の幻想を完全に打ち砕く。

「紗絵は傷つきやすいんだ。遥は……大丈夫だから」

遥は目を閉じた。

自分が経験してきた苦しみや理不尽な思いを、朔は知っていた。

しかし、何も言ってくれなかったのは、自分なら耐えられると思っていたかららしい。

自分はただ、道具に過ぎなかったのだ。

朔の愛する紗絵を守るための盾。

扉に手をかけようとしたとき、朔のスマホが鳴った。
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第1話
神宮寺遥(じんぐうじ はるか)と神宮寺朔(じんぐうじ さく)の結婚は、東都の上流社会でずっと笑いものにされていた。北条家の一人娘の遥。バレエを嗜みながらも、バンドではギターをかき鳴らし、スポーツカーのハンドルを握れば、海岸線を猛スピードで走ることが好きな女性だった。美しくもありながら、自由さを感じさせる瞳。それはまるで雪の中に咲く紅椿のように、遥の芯の強さがはっきりと見て取れる。一方の朔は、旧家神宮寺家の次期当主で、かなり硬い性格な上に完璧主義だった。糸くず一つ許さない身なりに、話し方さえも正確な時計のように淡々としていた。そんな正反対の二人が、3年間も夫婦という関係でいた。結婚してすぐ、神宮寺家から辞書ほど分厚い家訓の書が遥の元に届いた。挨拶に来る前に、全て暗記してこいと言うのだ。神宮寺家に挨拶へ向かった日、神宮寺家の重鎮たちが集まる中、遥はページを2枚めくっただけで、その家訓をビリビリに破り捨てた。「こんな家訓を覚えさせるなんて、いつの時代を生きてるんですか?」破れた紙が雪のように散らばる。この日を境に、遥は朔の祖母・神宮寺久美子(じんぐうじ くみこ)に「礼儀を知らない嫁」と疎まれるようになったことは言うまでもないだろう。結婚2年目、神宮寺家から一人で出歩くことを禁止された。遥はそのことに対して、何も言わなかった。ただ、愛車のアストンマーティンに乗り込み、神宮寺家の「規律」を象徴するような黒塗りの重厚な門を、そのまま突き破ったのだ。庭中に衝撃音が響き渡る。車を降りた遥は、冷静に一言だけ吐き捨てた。「私をここに閉じ込めたいなら、足を折るしかありませんよ?」そして結婚3年目にもなると、神宮寺家からの跡継ぎを望む声が強まった。久美子自ら手続きを行い、東都の産婦人科での検査から不妊治療まで、全て完璧な準備を整えてきたのだ。担当する医師や診察日時すら、遥の都合は完全に無視されていた。遥は埃ひとつない無機質な診察室に座ると、漂う消毒液の臭いに吐き気を覚えた。看護師が薬のトレイを遥に差し出した瞬間、彼女はそれを叩き落とした。金属製の器具が床に叩きつけられ、耳障りな音が響く。「私は神宮寺家の子供を産むために、朔と結婚したわけじゃありません」遥はボディーガードを振り払い、病院を飛び出すと、
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第2話
朔が電話を取ると、すぐ向こう側から蓮の気の抜けた声が聞こえてきた。「兄さん、やばいことになった。今日、おばあちゃんのための茶会を準備してる時に、紗絵が初代当主の形見の茶碗を割っちまったらしくてさ。うちの家にとって命の次に大事なものなのに……これがバレたら、おばあちゃんに何されるか……けど、俺、今はモデルの女の子と海にいるから、今夜は絶対に帰れないと思うんだよね。だからさ、何とかしておいて欲しいんだけど、いいかな?」朔の声が、冷ややかなものになる。「お前の嫁なんだから、お前がなんとかしろ。俺がお前の嫁の尻拭いをする筋合いなんかない」しかし、電話の向こうでは、蓮が相変わらずふざけた笑い声を漏らしていた。「兄さんだって、分かってるでしょ?最初は純粋そうだし、なんでも言うことも聞くと思って結婚したのにさ。でも、女なんて遊べば結局は同じ。しくしく泣きべそかいてるのはいいけど、紗絵みたいな女、ずっと一緒にいるには退屈すぎるんだよ。それに比べれて遥さんはいいよな。あのルックスに、あの気の強さ。東都中の男が放っておかないだろ?もし兄さんの嫁さんじゃなかったら、俺だって――」朔が話を遮る。「黙れ」電話の向こうが、一瞬静まり返った。蓮も朔の怒りを感じ取ったのか、少し真面目な態度を取る。「とにかく、茶碗の件は何とかしてくれよ、兄さん。紗絵がずっと泣きながら電話してくるから、鬱陶しいんだ」「分かった。なんとかしておく」そう言って電話を切ると、朔は立ち上がって歩き出した。影の中に佇む遥の顔色に、血の気はもう無かった。朔が歩きながら秘書の洋介に命じている声が聞こえてくる。「遥はどこにいる?」洋介がすぐに答えた。「奥様はすでに病院を出ました。病院の人の話では、病院内でひどく荒れて、診察室を荒らしたそうです」足を止めることなく、朔は淡々と言い放つ。「その件を本家に流せ」洋介が困惑した様子で聞き返す。「それは……本日の病院の騒ぎを本家に報告し、怒りの矛先を茶碗の事件から逸らせるというわけですね?」「ああ」朔は平然と頷いた。「騒ぎは大きければ大きいほどいいからな」その瞬間、遥の中で何かが崩れていった。朔が自分を探していたのは、心配からでもなく、私が傷つくことを恐れているからでもなかった。ただ、自分を紗絵の身
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第3話
電話を切った遥は、廊下でしばらく動けずにいた。真実を知った瞬間は、暴れたり、物を投げたり、朔のもとに駆け込んで心中してやろうかとまで考えていた。しかし、今の彼女の心は非常に静まり返っている。離婚を決めた以上、この場所を去る前に、この3年間で奪われた自由を取り戻さなくてはならない。遥は仲のいい友人に連絡を入れた。午後はウィンドウショッピングをして、夜は美容室で髪を整え、そのままバーを回る。友人たちは開口一番、「遥、今日はなんか人が変わったみたいだね」と言った。遥はバーカウンターに座り、真っ赤なネイルを施した指先で、グラスをゆっくりと回す。「もうすぐ離婚するからね」友人たちはグラスを落としそうになりながら固まった。「え!あんなに朔さんのことが大好きだったじゃん!朔さんと結婚するために、お茶まで習ったのに。それもまた、なんで……」遥は一気にグラスの中身を飲み干す。液体が喉を通り、焼けるような痛みが胸に広がった。「もう好きじゃない」遥は呟いた。「これからも、一生好きになることなんかない」遥がそう言うや否や、爆音で流れていた音楽が突然止まった。照明が一気に明るくなり、あやうげな雰囲気が一瞬にして吹き飛ぶ。黒いスーツを着た大勢の警備員がなだれ込んできて、店内から次々と客を追い出し始めた。店長も顔を青ざめさせながら、何度も頭を下げて謝り続けている。不満げに店を追い出される客たち。遥の友人たちも、例に漏れず店の外へ連れ出された。店内が、あっという間に静寂に包まれる。神宮寺家の執事が、遥の前に立ち、深々と頭を下げた。「遥様。大奥様が家でお待ちです」遥はソファに座ったまま、面倒そうに視線を向けた。「私は行かないよ。それと、おばあ様に伝えてくれる?私はもうすぐ朔とは他人になるから、神宮寺家の古いしきたりなんて私に関係ないって」しかし、執事は表情一つ変えず、ただ軽く手を上げる。すると次の瞬間、遥は背後から両腕を抑えつけられた。遥もすぐさま反応し、手に持っていたグラスを投げつける。グラスは地面で粉々に砕け、酒がそこら中に飛び散った。しかし、今日はピンヒールの靴を履いていた上に、バーの床は滑りやすく、多勢に無勢だ。薬品の匂いがするハンカチを鼻に当てられ、目の前が真っ暗になって
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第4話
遥が目を覚ますと、薬と白檀が混じったような独特の匂いが鼻をついた。そこは屋敷ではなく、神宮寺家が経営する個人クリニックだった。膝は長時間正座していたせいで感覚がなく、手首もまるで一度分解されて組み直されたかのように痛む。ドアが少しだけ開いていて、廊下の話し声が聞こえてきた。「遥さん、私のせいだって思うでしょうか?」紗絵が泣きそうな声で言っている。「でも、わざとじゃないんです。それに、彼女の体が弱ってるって聞いたから、栄養をつけてほしくて……」朔が低い声で答えた。「気にするな」その直後、勢いよくドアが開いた。先に朔が入ってきた。いつも通りの隙のないスーツ姿で、ネクタイの結び目一つ乱れていない。後ろには、保温ジャーを手にした紗絵がいる。目は赤く腫れ、いかにも悲劇のヒロインという佇まいだ。「遥さん。無事で良かったです」と言いながら、紗絵は恐る恐るジャーを置く。「お腹空いてるかなって思って、鯉のスープを作ってきたんですけど……」遥は紗絵の顔すら見たくないと思っていた。しかし、漂ってきた匂いに、一瞬で遥の顔色が変わる。「今、なんのスープって?」紗絵はきょとんとして答えた。「鯉ですよ?裏庭の池に白い錦鯉が泳いでたじゃないですか。誰も世話してないみたいでしたし、ただの観賞用かと思って、調理してもらったんです」その瞬間、遥の頭の中で何かが爆発した。あれは、ただの鯉ではない。その白い錦鯉「雪丸」は、母親の北条香織(ほうじょう かおり)が亡くなる前に遺してくれた、唯一の生きた形見だった。神宮寺家に嫁ぐ時、身の回りのものをほとんど捨てた中で、雪丸だけは連れてきて、庭の池で大切に育てていたのだ。どんなに蔑まれ、離婚を考えた日々でも、雪丸だけは見捨てたことはなかった。それなのに、紗絵は雪丸を……遥は弾かれたようにベッドから跳ね起きた。「紗絵!もう一度言って!」紗絵は脅えたように半歩退がり、目をさらに潤ませる。「は……遥さんのものだなんて知らなくて……私はただ、あなたの体が心配で……」「いい加減にしろ」朔が眉をひそめ、紗絵を背後に庇う。「鯉一匹ごときで。紗絵は好意でやったことなんだから、そんな言い方をするな」鯉一匹ごとき、か。紗絵を庇う朔の姿を見つめ、遥は胸が張り裂けそうだった。朔はいつ
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第5話
遥が目を覚ますと、外はもうすっかり明るくなっていた。しかし、部屋の中は異様なほど静まり返っている。天井をぼんやりと見つめながら、数秒経ってようやく昨夜の出来事が夢ではなかったと悟った。雪丸はいなくなった。そして、香織が遺してくれた着物も、無くなってしまった。ノックの音と共に、朔の秘書である洋介が入ってきた。手にはいくつもの箱を持っており、その態度はいつも通り礼儀正しい。「奥様。社長は今朝から急な案件の対応で盛沢市へと向かわれました。これは社長からの贈り物です。あと、昨夜の件ですが……あまり自分勝手に事を荒立てないでほしいと、社長から伝言を預かっております」自分勝手に事を荒立てるな、だと?目の前に置かれたいくつもの贈り物を見て、皮肉な笑みがこみ上げてくる。朔の手によって母の形見が奪われ、その着物は別の女のために使われた。そして自分を宥めるために、ジュエリーを送るとは。高価なものさえ渡せば、自分がおとなしく黙っているとでも思っているのだろうか。洋介に言葉を返すこともせず、遥は無言でテーブルの上の箱を全て床に叩きつけた。箱からジュエリーが転がり出し、床に無造作に散らばる。「出て行って」静かな声だったが、氷のような冷たさを帯びていた。「これ全部持って、今すぐ消えて」洋介はしばし立ち尽くしたが、最後は床に散らばった品を一つ一つ拾い上げ、その場を後にした。その日、遥が部屋から出ることはなかった。窓辺で屋敷を行き来する車を眺め、遠くから聞こえてくる宴の音楽と人々の楽しげな声を耳にするだけだった。冬の夜の茶会は、滞りなく行われていた。紗絵は母の形見であるあの着物を纏い、本来なら自分の席である場所に座っているのだろう。その事実を想うと、かえって涙は出てこなかった。泣き果ててしまえば、感情などただの虚無となる。夕暮れ時、紗絵からメッセージが届いた。【遥さん。今夜は私の誕生日会なんです。おばあさんから特別にお許しをいただいたので、別館で小さな茶会を開くことになりました。遥さんも是非いらしてください。大勢で楽しんでいるし、朔さんも『いつまでも部屋に引きこもっているのは良くない』って言っていましたよ】遥はメッセージを読み終えると、そのまま削除ボタンを押した。しかし、まるで無視されることを予
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第6話
遥は自分の耳を疑った。「今、何て?」朔は部屋の真ん中に立ち、淡々とした声で言う。「お前に頼まれて抹茶に異物を混入したと、厨房の人間がすべて白状したんだ。お前の名前で、連絡が来たってな」「私の名前で?」遥はあきれて鼻で笑った。「朔、たとえ私の名前で指示があったと言っても、私が直接やったわけじゃないのに。何で、そこまで私だと決めつけられるの?」「動機があったからだ」朔は冷静な目で遥を見つめる。「昨日のあの一件があった以上、お前が紗絵に復讐を考える可能性が一番高かった」「それで?」遥は一歩ずつ階段を降りながら、問い詰める。「紗絵に何かあるたび、私は犯人扱いされるわけ?朔、あっちの言い分は信じるのに、私の言うことは信じてくれないんだね」朔は何も答えなかった。その沈黙が、どんな言葉よりも深く突き刺さる。遥は自分の境遇をただ滑稽に思った。「私のこと、あなたの妻だって思ってくれてる?」朔はわずかに眉をひそめ、一瞬だけ言葉を詰まらせた。だが、次の瞬間には警察に向かってどうぞと言わんばかりの手振りをする。「連れてってください」遥の胸の内にあった最後の気持ちは、その瞬間に跡形もなく消え失せた。遥は抵抗することもなく、はたまた自分の潔白を訴えることもしない。ただ静かに顎を上げ、氷のように冷めきった瞳で朔を見つめる。「今夜のこと……一生忘れないで」遥は連行された。神宮寺家の権力は絶大で、微塵も挽回の余地など残されていなかった。警察で取り調べを受け、一時勾留されるまでの数時間の間に、ネット上にはいつ撮られたかわからない動画が流れ始める。記事のタイトルはどれも嫌なものばかり。【#神宮寺家の嫁、毒殺未遂の疑惑浮上。夫婦の不仲説を裏付ける決定打か?】【#旧家の長男に嫁いだ嫁、義妹への暴挙か?】【#上流階級の妻の本性が明るみに】一夜にして、遥は人々の嘲笑の的となった。勾留所の中は、彼女が想像していた以上に冷え切っていた。四方を囲む灰色の壁が、まるで時間を凍らせているようだった。ボディーガードも使用人もおらず、眉をひそめるだけで熱いお茶が出てくるような生活はそこにはない。面会が許可されると、紗絵がやってきた。面会の窓越しに立つ紗絵は、完璧にメイクをほどこし、大きめのカーディガンで
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第7話
朔はすぐ遥に追いついた。「まずは車に乗れ。今夜はお前の実家に帰るのも、ホテルに泊まるのも駄目だ。屋敷で宴の準備をしているから、俺と一緒に来るんだ」と、朔は遥の手首を掴んで言う。遥は朔の方を向いた。「何のこと?」朔は少し黙り込む。「結婚3年目の記念日だ」遥はふっと笑った。その笑みは氷が溶けていくように儚く、冷ややかだった。朔自身が自分を警察に突き出し、世間には自分を徹底的に叩かせた。それなのに今、結婚記念日の宴に出席しろと?「行くわけないでしょ」遥はきっぱりと言い放つ。しかし、朔は聞こえないふりをして、強引に遥を車に押し込んだ。道中、車内の空気はとても重かった。屋敷に着くと、庭には明かりが灯り、華やかな雰囲気が漂っていた。今夜招かれていたのも、神宮寺グループと取引のある旧家の人々ばかりだった。招待客は皆質の良い着物や袴をまとい、旧家らしく品のある挨拶を交わす。遥が宴会場へ一歩足を踏み入れると、無数の視線が突き刺さった。探るような目、見下すような目、好奇の目。視線が集まる中、朔は長細い箱を遥に差し出した。箱を開けると、中には深みのある光沢を放つ黒真珠の首飾りが入っていた。ひと目見るだけで、高価なものだとわかる。「記念日のプレゼントだ」と彼は言った。周囲からどよめきが漏れる。「さすが神宮寺家。あんな騒動があっても、ちゃんと嫁の顔は立てるんだな」「神宮寺社長は奥さんを甘やかしすぎだよ」「あの真珠、てっきり次期当主の奥さんの証だと思ってた……」周囲の声が聞こえてくるが、遥は何も感じなかった。こんなの、朔にとっては都合のパフォーマンスに過ぎない。自分を地獄に突き落としておきながら、大勢の前で宝石を捧げてみせることで、周りに自分があたかも誠実で完璧な夫だと思わせるのは、彼の常套手段だった。遥はその首飾りを受け取らなかった。朔も無理強いはせず、使用人に片付けさせた。宴も半ばにさしかかった頃、給仕が不注意で酒を遥の服にこぼしてしまった。遥は特に気にすることもなく、着替えのためにその場を去る。2階の部屋で着替え終わった遥は、廊下を歩いていた。この屋敷の2階廊下は、いつもかなり静かだった。一回に降りようと、階段に足をかけたその時、遥は瞬時に足を止めた。階段に
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第8話
遥のその態度を見て、朔の表情が完全に凍りついた。「仏間へ連れて行け」朔がボディーガードに命じる。「今夜は一歩も屋敷から出すな」遥は咄嗟に反論した。「行かないから」その一言で、その場の空気は一気に張り詰めた。ボディーガードたちが近づいてきた瞬間、遥は踵を返して走り出す。しかし回廊を抜けた先で、シャンパンタワーを運んでいた給仕とぶつかってしまった。派手な音を立ててグラスと銀のトレーが床に散乱し、割れた破片も辺りへ飛び散る。遥も勢いで足が滑り、そのまま勢いよく倒れ込んだ。とっさについた手のひらにガラスが刺さり、膝を打った激痛で、目の前も真っ暗になる。宴会場には悲鳴が響いた。朔が駆けつけた時には、遥が割れたガラスの上に跪き、手のひらからは真っ赤な血を流していた。彼の眉間に皺が寄る。しかしそんな朔を見上げる遥の瞳は、まるで赤の他人を見るように冷めていた。朔の伸ばしかけた手も、そのまま空中で止まってしまった。次に目を覚ました時、遥は既に病院にいた。手のひらも縫われ、膝の手当も終わっている。致命傷ではなかったが、あちこち痛みでズキズキとうずいていた。翌日、洋介がやってきた。「社長からの伝言です。昨夜のことは、奥様も紗絵さんも負傷したので、これで終わりにするように、と」ベッドに寝ていた遥は、呆れて笑ってしまった。「これで終わり?あの女は私の顔を傷つけようとした。でも、私は手を切っただけ。なのに、これで終わらせろって?」洋介は沈黙し、俯いた。彼が黙り込むほど、答えは明白だった。遥はもう何も聞きたくなかった。退院した晩、屋敷では身内だけの宴会が行われていた。久美子は紗絵が池に落ちた件をすっかり忘れたかのように、再び「跡継ぎ」の話を遥に持ち出してきた。「朔と結婚して3年も経つのに、いまだ何の気配もないなんて」そう言いながら、久美子は金色の糸で刺繍がほどこされた出産祈願の御守りを、遥の目の前に突き出す。「わざわざ盛沢市から送ってもらったんだよ。今夜から仏間にお供えして、毎日手を合わせな。神宮寺家の妻としての責任を忘れるんじゃないよ」遥は、御守りを見つめるだけで、決して触れようとはしなかった。子供など産むつもりなどない。ましてや、神宮寺家のためになど、絶対に産まない
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第9話
遥の鼓動が、激しくなる。「紗絵、一体何を考えて――」言葉を言い終える前に、紗絵が仏間へと駆け込んだ。仏壇には一年中蝋燭が灯されており、その周辺に置かれている仏具も、ほとんどが紙製や木製なので、火の粉が飛べばすぐに燃え上がるはずだ。遥が追いた時には、すでに紗絵が供え物の燭台を倒したところだった。周辺の仏具に火が移り、木枠のドアや障子もすぐさまに炎に包まれた。炎が紗絵の顔を照らし、その温和に見えた素顔をゆがませる。「狂ってる!」遥は消火しようと駆け寄ったが、濃い煙に咳き込んだ。紗絵はただ笑っていた。「ええ、もう狂ってるのかもしれません。だって、あなたがいるせいで、みんなは私をあなたと比べるんですもの。なぜなんですか?朔さんがずっと守ってるのは、明らかに私なのに……みんな、あなたを神宮寺家の嫁って言うんですから……」そう言うと、紗絵は側にあった重たい銅の香炉を持ち上げ、遥の後頭部を目がけて叩きつけた。突き抜けるような激痛が走る。遥の意識はそこで途切れ、そのまま崩れ落ちた。再び目を覚ますと、そこは屋敷の広間だった。両手は縛られ、額の辺りがジンジンと痛む。あたりにはまだ焦げた臭いが残っていた。正面には、顔色は青ざめさせた久美子が座っている。「仏間に火をつけたのは誰だい!」紗絵がここぞとばかりに泣き出した。「遥さんです!彼女は神宮寺家から後継ぎのプレッシャーを受けるのが耐えられない……仏間も家訓も全部目障りだって言って……私は止めようとしたんです。でも、止められなくて……」そんな紗絵を見ても、遥は不思議と怒りすら感じなかった。遥は顔を上げ、煙を吸い込んだせいで枯れた声で告げる。「仏間には監視カメラがありますよね?それを確認すれば、誰が火をつけたか、すぐに分かると思いますが」久美子がすぐに執事を振り返る。「監視カメラの映像を確認して」紗絵の顔から血の気が一気に引いた。紗絵は本能的に、そばにいた朔を見つめる。遥も朔を見た。もはや期待などしていなかった。それでも、胸の奥で、小さな希望が顔を出す――今度こそ、もしかしたら彼は真実を語ってくれるのでは?朔は少し黙り込み、そして口を開いた。「確認する必要はない」その場の全員の視線が彼に集まる。灯りの下に立つ朔の
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第10話
遥は長い間、朔を見つめていた。そして、小さくふっと笑いを漏らす。「忘れるなって何を?あなたを信じてしまったこと?それとも、あなたと結婚したことがそもそも間違いだったということ?」朔は眉間にわずかに皺を寄せ、何か言いたげな表情を見せた。しかし、結局は何も言わず、朔は立ち上がった。「しっかり休め」ドアが静かに閉まると、部屋には再び静寂が訪れた。窓の外を眺めていた遥は、ふと、自分の心がとても静かなことに気づいた。だが、全てを受けれたわけではない。ただ何度も傷つけられれば、そこは麻痺して痛みすら感じにくくなるということなのだろう。その後、遥はしばらく病院で静養することにした。泣きわめくこともなく、騒ぐこともない。朔が見舞いに何度か訪れたが、遥は常に目を閉じ、相手にはしなかった。一方で紗絵は、飽きもせずに何度もメッセージを送りつけてくる。ある時は写真。またある時は動画を。紗絵は朔と一緒に観光地へ行ったり、温泉旅館に宿泊したりしていた。写真に写る朔の表情は相変わらず無表情なものだったが、紗絵の隣にいる彼の姿は明らかにリラックスしていた。さらに、添えられたメッセージが一層心を抉ってくる。【最近、私が落ち込んでるからって、朔さんが気分転換に連れ出してくれたんです】【遥さんも療養に専念してくださいね。神宮寺家のことは気にしなくて大丈夫ですから】【そういえば朔さんが言っていました。温泉旅館からの雪景色はとっても綺麗なのに、遥さんに見せられないのは残念だって】遥は一切、返信をしなかった。まるでゴミを掃除するように、淡々とメッセージを削除するだけ。ある日の夕方、勲から電話がかかってきた。「手続きは進めている」と彼は言った。「お前側の離婚届は提出させたし、別居の事実も作った。あとは神宮寺家がサインせざるを得ない状況に追い込むだけだ。実質的に、もうお前と朔は他人同然だ」遥は窓際に立ったまま、スマホを握りしめた。自由という二文字。あれほど求めていたはずのものが、いざ手に入ると、妙に軽く感じられる。「分かった」彼女はただそう答えた。勲が問いかける。「これからどこへ行くんだ?」「どこだろうね」遠くの雪に覆われた屋敷の屋根を眺め、遥は淡々と言った。「とにかく、もう二度とここには戻
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