裁判の翌朝。 俺は、だんだんと理解していた。 ――自分が「ただの令嬢」ではなくなってしまったことを。 俺は、王都庁舎へ向かう支度をしていた。 本来なら、馬車を出すところだ。 侯爵家の娘が歩いて街に出るなんて、普通なら止められる。 けれど。 「……今日は、歩いて行こう」 そう言ったのは、ユリウスだった。 俺は、思わず瞬きをした。 「歩いて……?」 「ああ」 彼は、いつものように淡々と続ける。 「君の名は、もう街に出ている。 なら……君自身の目で、この街がどうなっているのかを見ておいた方がいい」 一瞬、胸の奥が、ひくりと鳴った。 怖くないと言えば、嘘になる。 でも。 俺は、小さく頷いた。 「私も……見たい。 自分が、何をしたのか」 ユリウスは、それ以上何も言わなかった。 ただ、わずかに目を細めた。 それで十分だった。 こうして俺は、馬車を断り、ユリウスと並んで、屋敷の門をくぐった。 そして――門を出た瞬間だった。 ――見られている。 通りを歩く人々の視線が、ちらり、ちらりとこちらに向く。 「……あの人じゃない?」 「昨日の裁判の……」 「グラーフェン家の令嬢だろ?」 ひそひそとした声が、風に乗って耳に届く。 悪意ではない。 でも、好意とも言い切れない。 俺は、無意識に背筋を伸ばしていた。 (こんな変化が) (もう、俺だけの話じゃないんだ……) 昨日まで、俺はただの令嬢だった。 多少の噂はあっても、それ以上でも以下でもない存在。 でも今は違う。 名前が、意味を持ってしまった。 リーゼロッテ・フォン・グラーフェン。 告発し、証言し、裁判を動かした女。 良くも、悪くも。 「……怖いか?」 隣を歩くユリウスが、低く問いかけてきた。 俺は少しだけ考えてから、首を振る。 「怖い、というより……変な感じ」 「変?」 「昨日までは必死すぎて、何も考えられなかったから。 今になって……実感する」 ユリウスは、ほんのわずかに視線を細めた。 「……自分が、どこに立ってしまったのか、か」 「……うん」 王都中央広場に差しかかると、人の流れがさらに増えていた。 掲示板の前に、人だかりができている。 「ほら
Last Updated : 2026-04-27 Read more