午前三時。 玄関の鍵を閉めた瞬間、胸の奥に電流が走った。 激痛。 息が詰まり、視界が歪む。(……あ、これ) 膝から崩れ落ち、床に手をついた。 心臓が、変な打ち方をしている。(……過労死、ってやつか) 俺は、死ぬほど価値のある仕事をしていたのか。 答えはたぶん、違う。 社内政治にじわじわ押し潰されながら、流される方が楽だと黙っていた。 だから――「……もう二度と、流されない」 それだけ呟いた。 心臓の音が、遠ざかる。 天井が滲み、世界がほどけていく。 ――そして、俺は死んだ。*** 目を開けると、天井が高かった。 凝った模様が、やけにくっきり見える。(……豪華だな) そう思った次の瞬間、違和感が襲った。 胸が……重い。 柔らかい。 嫌な予感に、視線だけを下へ落とす。「……は?」 心臓が、爆音を立てた。 頭が真っ白になる。(待て待て待て待て待て) 思わず、上体を起こす。 薄いシーツが胸の上で、不自然に盛り上がった。 反射的に触れた瞬間、ぞっとした。 柔らかい。 俺の身体じゃない。 嫌な汗が背中を伝う。 呼吸が浅くなる。 まさか、と思いながら、震える手でシーツの下をごそごそ探る。「……うそだろ」 ない。 あるべきものが、どこにもなかった。「なんだよ……これ」 声が高い。 喉の奥から出た音が、自分のものに聞こえなくて鳥肌が立つ。 手も細い。指も白い。 長い髪が肩に落ちている。(嘘だろ。俺、女になってる?) 意味が分からない。 でも身体は、容赦なく現実を押しつけてくる。 胸の重さも、高い声も、何もかもが男だった俺を勝手に塗り替えていく。 そのとき。 コン、コン。 控えめなノック。 返事をする前に、扉が開いた。「あら……生き返られたんですね、お嬢様」 溜息まじりだ。 若い女。 ドラマやアニメで見るようなメイドの服を着ている。 お嬢様。 誰のことだ? この部屋には俺しかいない。 じゃ、俺のことなのか?「……誰だよ、お前」 メイドが怪訝そうに眉を寄せる。「本気で仰っているんですか?」 廊下から、足音が近づいてくる。 ゆっくり、迷いなく。「――ユリウス・フォン・アイゼン宰相閣下がお見えです」 メイドが小さく鼻で笑った。「冷血宰相とお騒がせ令嬢だな
최신 업데이트 : 2026-04-03 더 보기