เข้าสู่ระบบ社畜のまま過労死した俺が目を覚ますと、そこは持参金と醜聞に追い詰められた侯爵令嬢の身体だった。元婚約者に搾取され、毒まで盛られ、家ごと沈みかけた俺に手を差し伸べたのは、“冷血宰相”ユリウス。 「持参金は要らない。俺と契約結婚しろ」 それは生き残るための取引のはずだった。だが二人で暴いたのは、令嬢を値札付きの商品として売り買いする貴族社会と教会の闇。心は男のままなのに、俺は次第にこの冷たい男と惹かれ合っていく。契約結婚から始まる、制度改革と執着愛。 ※TS(性別転換)転生/精神的BL要素を含みます。 主人公は前世男性で、女性の身体に転生します。
ดูเพิ่มเติม「……よろしくお願いします」 セインは肩をすくめ、元の冷たい微笑みに戻る。 「……仕方ありません」 その夜から、俺たちの「潜入」は、本格的に始まった。 *** 深夜の廊下は、音がない。 祈りの時間が終わってから一刻以上が経っている。 蝋燭の火が、わずかに揺れる。 俺はセインと並んで、管理室の扉の前に立っていた。 「……鍵は?」 小声で尋ねると、セインは肩をすくめた。 「祈るより簡単ですよ」 細い針金が、鍵穴に滑り込む。 かすかな音。 ほんの数秒。 ――かちり。 俺は思わず息を止めたまま、扉を押す。 中には、棚。棚。棚。 床から天井まで、帳簿の山だった。 「……うわ」 思わず本音が漏れる。 セインが低く笑った。 「でしょうね。 俺がいくら鍵を開けられても、これじゃ探しようがない」 数百冊はある。 革表紙、紙表紙、色も厚さもばらばら。 普通なら、ここで詰む。 ――でも。 俺は、棚の前に立ったまま、目だけを動かす。 背表紙の色。 紙の焼け方。 角の擦れ具合。 綴じ糸の緩み。 インクの染み。 ……見覚えがある。 前世で、毎日見ていた。 誰も読まない資料の束。 締切前夜に積まれた、意味のない報告書。 「重要そうに見せる」ためだけの装丁。 (……似てる) 俺は、左から三段目の棚に手を伸ばした。 一冊、抜き取る。 薄い。 新しい。 でも、端だけが不自然に擦れている。 ――頻繁に開かれている。 ページをめくる。 「……あった」 声が、思ったよりも静かだった。 そこには、整いすぎた文字が並んでいた。 受け入れた日付。 番号。 名前。 年齢。 出身家名。 そして、その横に淡々と記された移送先と、謝礼金額。 最後に押された、教会の受領印。 言い訳の余地もない。 「……これ」 俺が帳簿を差し出すと、セインは眉をひそめたまま覗き込み、次の瞬間、わずかに目を見開いた。 「……本気かよ」 ぽつり、と呟く。 いつもの皮肉でも、軽口でもない。 「金額まで書いてある……」 「……ええ」 俺はページをめくり続ける。 日付。 印章。 受領確認の署名。 そこ
保護院の門をくぐった瞬間、空気が変わった。 昼間の荘厳さとは違う、重く、湿った静けさ。 シスターが、俺を小さな部屋まで案内する。 「ここが、あなたのお部屋です。 明朝から、祈りと手伝いを始めていただきますわ」 部屋は簡素だった。 ベッド、机、二重円環の聖紋がひとつ。 扉が閉まったあと、俺は深く息を吐いた。 (……入った) これで、内側から見られる。 でも、すぐに動くわけにはいかない。 まずは、様子見だ。 夜の祈りの時間。 保護院の娘たちが、礼拝堂に集められる。 白いドレスを着た少女たち。 膝を揃え、目を伏せ、祈りの言葉を繰り返す。 ……整いすぎている。 その中に、エルミーネの姿があった。 列の端。 俯いたまま、肩がわずかに震えている。 俺は、遠くから見つめるしかなかった。 (……エルミーネ) 目が合わないよう、視線を逸らす。 それでも、胸が痛む。 祈りが終わると、シスターが穏やかに言った。 「皆さん、神の御意志に従い、 明日も穏やかな一日を」 少女たちは、無言のまま部屋へ戻っていく。 俺は自分の部屋に戻り、ベッドに腰を下ろした。 (……まだ、何も掴めていない) だが、やることは決まっている。 (証拠を探す) (教会が、仲介料を受け取っているという証拠を) 噂や感情では足りない。 帳簿でも、記録でも、金の流れでもいい。 否定できない「形」が必要だ。 (……どこかに、あるはずだ) この建物の中に。 この教会の、どこかに。 俺は、静かに息を整えた。 (まずは、様子を見るところから) 扉が、かすかにノックされた。 俺は、反射的に息を止めた。 こんな時間に、誰が—— ゆっくりと扉が開く。 そこに立っていたのは、白い修道女服を着た若い女性だった。 ……美人。 一瞬で、そう思った。 長い黒髪を後ろで束ね、伏せた睫毛は異様に長い。 鼻筋は通り、唇は淡く紅を差したように赤い。 (ユリウスが言ってた、セイン・クローディア) (……本当に、男なのか?) 女装だと分かっているのに、そう疑いたくなるほど、仕草のすべてが洗練されていた。 歩き方、立ち姿、視線の落とし方。 すべてが女性として完璧すぎる
振り返る前から、分かってしまう。 振り返った瞬間、そこにいたのは——ユリウスだった。 一瞬、息が止まる。 「……どうして、ここに?」 問いかけると、彼は視線を逸らしたまま答えた。 「……夫人から、連絡を受けた」 「……止めに来たんですか?」 わずかに間があった。 「……止めたかった」 低い声だった。 「……でも、君を止められそうにない」 胸の奥が、わずかに揺れる。 「この間は、すまなかった」 俺は、思わず瞬いた。 「……君の言っていることは、正しい」 「……本気で、そう思ってるんですか?」 問い返すと、ユリウスはわずかに眉を寄せた。 「教会のやり方は歪んでいる。 だが俺が動けば、あの連中は必ず改革派ごと潰しに来る」 「……やっぱり、立場の話ですか」 そう言うと、ユリウスの目がわずかに揺れた。 「……それだけじゃない」 声が、少し低くなる。 「教会を見るたび、思い出す。……姉のことを」 俺は、息を呑んだ。 彼が止めていた理由に、姉のことが絡んでいるなんて、想像もしなかった。 「泣きながら、俺の袖を掴んでいた。 行きたくない、と……言い続けていた」 指先が、わずかに強く握られている。 「だが俺は、何もできなかった」 静かな告白だった。 「……だから、また同じことが起きるのが怖かった」 しばらく、言葉が出なかった。 「……それで、私を止めたんですか」 「……ああ」 肯定だった。 「……でも」 俺は、小さく息を吸った。 「私は、あなたに守られている側でいるだけじゃ……嫌なんです」 ユリウスの視線が、はっきりと俺を捉えた。 「……君は、強いな」 「強いわけじゃないです。ただ……もう、逃げたくないだけで」 沈黙が落ちる。 やがて、ユリウスが静かに言った。 「……それでも、君を危険にさらしたくない」 「……分かっています」 「失うことに、耐えられない」 胸が、はっきりと鳴った。 「……それでも、行きます」 しばらく、何も言わなかった。 やがて、ユリウスは小さく息を吐いた。 「……だろうな」 そして、低く続ける。 「……だから、一人では行かせない」 顔を上げる。 「俺の側近をつける。名はセイン・クローディア」 「…
ヴァルデン伯爵夫人は、紅茶をひとくち飲んでから、しばらく何も言わなかった。 ただ、俺をじっと見ている。 値踏みではない。 同情でもない。 ——決断を測っている目だった。 「……あなた、本気なのね」 静かな声だった。 「ええ」 俺が頷くと、夫人はわずかに口角を上げた。 「困った令嬢ですこと。 持参金制度の次は、教会とか」 責める調子ではない。 むしろ、呆れと、ほんの少しの感心が混じっていた。 夫人は、しばらく俺を見つめてから、ふと、何気ない調子で尋ねた。 「……宰相閣下は、ご存じなの?」 その一言で、胸の奥が、きしりと鳴った。 ——閉まる扉の音が、はっきりと思い出される。 『……今は、この話を続けるべきじゃない』 あの、冷えた声。 俺は、ほんの一瞬、息を止めた。 「……いいえ」 そう答えるまでに、わずかな間があった。 夫人は、すぐには何も言わなかった。 ただ、俺の表情を見て、すべてを察したようだった。 「……そう」 それだけ言って、視線を紅茶に落とす。 責めるでもなく、詮索するでもなく。 ただ、静かな理解だけがあった。 それが、余計に痛かった。 俺は、膝の上で指を強く組み直す。 (……それでも) あの人に否定されたから、やめるのか。 ——違う。 むしろ、あの扉が閉まった瞬間から、 俺は、もう戻れなくなっていた。 「教会に踏み込めば、あなたはもう客人ではいられなくなります」 「……分かっています」 「表から抗議しても、扉は閉ざされるだけ。 内部に入れば、今度は簡単には抜けられない」 紅茶の表面が、わずかに揺れる。 「それでも?」 俺は、一瞬だけ言葉に詰まった。 正直に言えば、怖い。 俺には何一つ身を守るすべはない。 教会という「聖域」に、自分から踏み込むなど、正気の沙汰ではない。 ……でも。 「それでもです」 声は、思ったより静かだった。 「見なかったことには、できません」 夫人は、ふう、と小さく息を吐いた。 「……やれやれ」 そして、ついに言った。 「方法が、ひとつだけありますわ」 胸が、かすかに強く打った。 「教会に預けられる側になれば、あなたは守られるだけの存在になります」 「…
数日後。 夜も深いのに、ノックが響いた。 コン、コン。 心臓が、跳ねた。 (……こんな時間に?) 扉が開き、ユリウスが入ってくる。 執務帰りの外套姿。疲れを隠しきれていない影。 なのに、視線だけは真っ直ぐ、俺を捉える。 「……遅くなった」 たったそれだけの言葉なのに、 胸の奥が、甘く締めつけられた。 (……ほっとしている) (……彼が来てくれたことに) 気づいた瞬間、背中がひやりとする。 ——ああ。 もう、自分の感情をごまかせなくなってきている。 「……あ」 ふと、自分の格好を思い出して、言い訳が先に出た。 「あの……こんな格好
正直に言えば、もう、抱かれたいほどに熱くなっていた。 なのに、彼は――触れようともしなかった。 彼の瞳は、氷のように冷たいままだ。 けれど、その奥で、何かが揺れたように見えた。 微かに、息が乱れているのがわかる。 「……リーゼロッテ」 低く、抑えた声で呼ばれる。 俺はベッドに上体を起こし、外套を握りしめたまま、視線を合わせた。 身体はまだ熱い。 媚薬の残滓が、肌の下を這うように疼く。 息が、浅く、速い。 ユリウスは一歩近づき―― しかし、決して触れようとはしない。 彼の指先が、わずかに震えているのが見えた。 「今、君に触れたら…… 俺は
婚約者。 その一言が、頭の中で嫌なくらいはっきり反響した。「……冗談だろ」「冗談で済む段階ならよかったのですが。あなたは今、王都で最も噂になっている令嬢の一人です。元婚約者の子爵令息ハインリヒ・フォン・ローゼンベルクとの破談騒ぎ、持参金を巡る家同士の対立、感情的な振る舞い、ついでに服毒」 ついでにで済ませるな。 元婚約者。持参金。令嬢。 どれも俺の人生と無縁だった単語なのに、今はそれが俺を潰しかけている。「……記憶が曖昧で」 とっさにそう言ってから、自分の声がちゃんと令嬢っぽく聞こえたことに気分が悪くなる。「目覚めたばかりで、頭が混乱していて……」 ユリウスの目が細くな
午前三時。 玄関の鍵を閉めた瞬間、胸の奥に電流が走った。 激痛。 息が詰まり、視界が歪む。(……あ、これ) 膝から崩れ落ち、床に手をついた。 心臓が、変な打ち方をしている。(……過労死、ってやつか) 俺は、死ぬほど価値のある仕事をしていたのか。 答えはたぶん、違う。 社内政治にじわじわ押し潰されながら、流される方が楽だと黙っていた。 だから――「……もう二度と、流されない」 それだけ呟いた。 心臓の音が、遠ざかる。 天井が滲み、世界がほどけていく。 ――そして、俺は死んだ。*** 目を開けると、天井が高かった。 凝った模様が、やけにくっきり見える。(