彼女がスーツケースを持って空港を出ると、そこには両親と兄の姿があった。一番先に紬に気づいた兄の菊地涼介(きくち りょうすけ)が、嬉しそうに彼女に駆け寄って力強く抱きしめた。「やっと、俺たちに会いに来てくれる気になったんだな!」菊地家は5年ほど前に、ビジネスの拠点を少しずつ盛沢市へと移していた。紬はその当時すでに正人と結婚し、葵も生まれていた。そのため、涼介たちが遠い土地に引っ越すのを涙で見送るしかなかった。潤んだ瞳でこちらを見る両親と、心配そうな表情の涼介。この1ヶ月、心の奥底で抑え込んできた屈辱と、我が子を亡くした悲しみが一気に溢れ出し、紬は声をあげて泣き崩れた。「お父さん、お母さん、お兄ちゃん……私、もういやなの」突然泣き出した紬を見て、3人は慌てて彼女を慰める。母の菊地夏美(きくち なつみ)は紬を抱きしめ、優しくその涙を拭った。「紬、一体何があったの?」先に状況を察した涼介が、声を低くして尋ねた。「教えてくれ。正人にひどいことをされたのか?」紬はただ涙を流し続け、うまく話すことができなかった。渡航前、両親の年齢を考えて、電話で全てを話すとショックを受けるかもしれないと思った紬は、正人が隠し子を連れ帰ったことや、葵が亡くなったという事実を伏せていた。「盛沢市へ行く」とだけ伝えていたのだ。事態を悟った父の菊地慎也(きくち しんや)は、まず車で家に帰ってから、詳しく聞くことにした。帰宅すると、紬の気持ちもようやく少し落ち着いた。家族3人が紬を囲む。その瞳には言葉にできないほどの心配が浮かんでいたが、急かすのを我慢していた。紬は水を一口飲み、悲しさを落ち着かせて、静かに切り出した。「正人と離婚したわ。彼は……他に子供がいたの」「なんだと!?」涼介が勢いよく立ち上がった。「あいつ、俺の前で紬と一生添い遂げると誓ったくせに!浮気した挙句に、隠し子まで作りやがって!」紬の心に、また苦しみが広がっていく。そう、正人は永遠の愛を誓ってくれたはずだった。その「永遠」は、たった数年で終わってしまったなんて。慎也が低く唸り、机を強く叩いた。彼は怒りを隠さずに言った。「なんてことだ!我々がここへ移る前、あいつは紬を必ず大切にすると約束した。これが、そのやり方か!」夏美は悲しみにくれ、涙を
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