末期の腎不全に苦しむ隠し子の山口啓太(やまぐち けいた)を救うため、宮崎正人(みやざき まさと)は妻である宮崎紬(みやざき つむぎ)に黙って、まだ5歳になったばかりの娘・宮崎葵(みやざき あおい)の腎臓を啓太に移植することを勝手に決めた。そのことを聞いた紬は、ひどく取り乱して車を飛ばして病院へと向かった。病院に到着したときには、既に手術室のランプが赤く点灯していた。紬は泣き叫び、狂ったように手術室の扉を叩いた。「止めて!この子の母親よ!腎臓移植なんて認めないわ!」すると、正人が紬の背後から泣き崩れた彼女を強く抱きしめ、悲しげな声で言った。「紬、悪かった。啓太の身体はもう限界なんだ。葵から腎臓をもらうしか、生き延びるチャンスがなかったんだ」紬は信じられないというように目を大きく見開き、長年愛し続けてきた夫を見つめた。これまでずっと愛おしく感じていたその横顔が、今では知らない人のようにしか見えなかった。隠し子の命のことしか頭にない正人は、葵が早産でずっと体が弱かったことを忘れたのか?腎臓を一つ失えば、幼い葵の体はどうなってしまうの?手術室に灯る赤色のランプが、紬にとって葵の命をいつでも奪える爆弾のように視えた。紬は震えながら言った。「正人、啓太くんはあなたの血を引く子供かもしれないけれど、彼のためなら葵を犠牲にしていいっていうの!?お願いよ。手術をすぐに止めてちょうだい」堪えきれなくなった涙が、紬の頬を伝った。正人はいとも悲しそうな表情で紬の涙を拭ったけれど、紬を背後から拘束するように抱きしめたその腕の力をまったく緩めなかった。「大丈夫だ、紬。腎臓が一つなくなるだけだ。葵の命に別状はない」完全に絶望した紬は、必死にもがきながら正人の腕に噛みついた。皮膚が噛み千切られても、正人は決してその腕を離そうとはしなかった。それからどれほど経ったのか、ようやく手術室の扉が開けられた。主治医が出てきて、一つの容器を大事そうに手に抱えて慌ただしく上階へと駆け上がっていった。正人は安堵した表情を浮かべると、紬の体を離してさっさと階段を上った。紬はよろめきながら、手術室へと駆け込んだ。そこには手術台の上に横たわっている顔面蒼白の葵の姿が目に入り、悲しさと申し訳なさで胸が締め付けられた。「葵、ごめんね
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