咲良が口を開きかけたその瞬間を見逃さず、辰はキャンディを彼女の口に押し込んだ。オレンジの皮の香りと、甘酸っぱい味が瞬時に口の中いっぱいに広がる。咲良は眉をひそめたが、胸の奥の動揺はさらに深くなった。実は、彼女は昔からオレンジ味のキャンディが大好きだったのだ……キャンディを少し舐めていると、めまいは次第に治まってきた。ふと目を伏せると、辰の小さな手が、自分の手をしっかりと握り続けていることに気がついた。咲良はハッとして眉を険しく寄せ、咄嗟にその手を振り払うように引き抜いて立ち上がった。辰も慌てて立ち上がり、咲良を見上げて、子鹿のように澄んだ無垢な瞳で見つめた。「おばちゃん、顔がまだ真っ白だよ。先生呼んできて、病院に連れてってもらおうか?」「……結構よ」咲良は冷たく顔を背けた。口の中にはまだキャンディの甘酸っぱさが残っているが、先ほど芽生えかけた心の揺らぎは、すでに冷たく消え去っていた。この子は、圭吾と紬の子供だ。圭吾が自分と、そして亡くなった双子を裏切って生み出した「不義の子」なのだ。どうしてこの子に情けをかけることができるだろうか。咲良は辰を見下ろし、再び冷徹な声で尋ねた。「もう一度聞くわ。今日より前に、私に会ったことはある?」辰は、なぜこの「おばちゃん」が急に怖い顔になったのか分からなかった。でも、彼女が悪い人だとは思えなかったし、パパから教えられた「嘘をついてはいけない」という言葉も覚えていた。だから、辰は素直にコクンと頷いた。「ぼく、パパのスマホで、おばちゃんの写真見たことあるよ。写真の時のおばちゃんは、今よりもう少しぽっちゃりしててね、お腹がまんまるだったの!お腹にね、かわいい赤ちゃんの顔が二つ、描いてあったんだよ。それから、髪の毛もこんなに……こんなに長くてね!くるくる巻いてて、絵本のお姫様みたいにすっごく綺麗だったんだよ!」辰はそう言いながら、自分の腰のあたりまで一生懸命に手を伸ばしてジェスチャーをした。咲良は息を呑んだ。間違いない。それは、彼女が双子を妊娠していた時に撮ったマタニティフォトだ。圭吾のスマホに、まだあの写真が保存されている?一体何のつもりだ?外で愛人や隠し子と家族団欒を楽しんでおきながら、裏では死んだ子供たちの写真を見て、悲劇の父親でも
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