Todos los capítulos de 我が子より他人の子?産後ワンオペ妻の離婚: Capítulo 141 - Capítulo 150

254 Capítulos

第141話

充は勢いよく顔を上げた。ドアの向こうには、波打つロングヘアに純白のスーツを着こなし、氷のように冷ややかな瞳で充を見つめる蘭が立っていた。充は本能的に身がすくむのを感じたが、礼儀として声をかけた。「お義母さん……」「何がお義母さんよ、誰がいつあなたのお義母さんになったわけ?」「そんな呼び方しないでくれる?しかも、あなたの母親は翠なんだから、私とあなたの間に関係が生まれることはないよ」充は冷や汗を拭い、気まずそうに呟いた。「お義母さん、俺は奈緒とまだ離婚してない。それなのに……」蘭は鼻で笑い、含みを持たせて言った。「へえ、奈緒とまだ夫婦だっていう自覚があったんだね?それじゃあ聞くけど、奈緒が出産したとき、あなたはどこで何してたの?」言葉を詰まらせる充。「それは……」「奈緒が産後で大変な思いをしている時は?あなたはどこにいたんだろうね?」やはり充は無言で立ち尽くすしかなかった。蘭は腕を組み、ドアを指さす。「出産の時も産後もいなかったんだったら、この結婚生活を続ける意味がないと思わない?青木家が黎ちゃんを必要としていないことも、よく分かったし。だから、ここから出て行って。ここはあなたが来るところじゃない」蘭の言葉には一片の迷いもなかった。これまで、この男がどれほど気に入らなくても、どれほど彼の母親を憎んでいても、娘が嫁いだ相手である以上、奈緒が肩身の狭い思いをしないようにと、少なくとも表向きは充の顔を立ててきた。この5年間、娘が肩身の狭い思いをしてきたことは、誰よりも分かっていた。それでも、込み上げる怒りや文句をぐっと飲み込み、ひたすら胸の奥に押し込めてきたのだった。全ては、奈緒に幸せになってほしかったから。だが今は、怒りで充の顔をたてる余裕などない。自分たちの忍耐も犠牲も、結局は相手の傲慢と軽蔑を深めただけに過ぎなかった。ならば、もう容赦はしない。蘭の凍てつくような瞳には、強烈な拒絶の意志が宿っていた。充は顔を強張らせ、縋るように奈緒を見たが、彼女も冷たい表情のまま目を合わせようともしてくれなかった。「分かった……お義母さん、奈緒。また日を改めて黎に会いに来るから」充は溜息をつき、苛立ちを抱えたまま病室から出て行った。充がいなくなるとすぐに、蘭は病室のドアをしっかり
Leer más

第142話

しかし、翠は怒りですっかり理性を失っていた。「深津市で、この青木家に解決できないことなんてないんだから!クラブ・ノクターンなんて、燃えてしまえばただの灰。蘭が店を失った後、蘭と奈緒がどんな顔をするか楽しみね。深津市で一番の有名店だかなんだか知らないけど、跡形もなく消し去ってやるわ!親子共々徹底的に地獄へ落とすのよ!」翠は携帯に向かって一方的に怒鳴り散らすと、乱暴に電話を切った。その一方で、静香は満足そうに録音終了ボタンを押した。データをしっかりと保存し、美紀に向かってにやりと笑う。美紀は言った。「お母さん、翠さんとの電話を録音するなんて、ちょっと意地が悪いんじゃない?」「これだけ大きなことなんだから、証拠を残しておかないと。何かあったとき、全部私たちのせいにされたらたまらないでしょ?念のためよ」美紀は笑ってうなずき、何も言わなかった。代わりに携帯を取り出すと、前もって連絡しておいた相手に電話をかけた。……深夜。奈緒は、蘭のために心を込めて手料理を振る舞った。久しぶりに、二人で囲む夕食だった。しかも今は、その傍らに小さな家族がもう一人いる。食事を終えた蘭が、ティッシュで口元を拭った。「ここ数年、充さんによく作ってあげていたのね。なかなかの味よ」奈緒は少し気まずそうに微笑んだ。「まあね」そんな奈緒を見て、蘭はもどかしそうにため息をつく。「あんなに尽くしたのに、結局はこうなっちゃったのね。あれほど青木家の人たちとは距離を置きなさいって言ったのに、聞きもしないで。これで目が覚めた?」以前の奈緒なら、何か言われればすぐに蘭と口論になっていただろう。しかし子供が生まれた今、親のありがたみがよくわかる。蘭の口が悪くても本当は心配してくれているのだと理解し、ただ静かに話を聞くことにした。蘭が続ける。「でも、今のうちに気づけて良かったわ。男の甘い言葉に騙されて、また許したりしちゃ駄目だからね。女が優しすぎるのは身を滅ぼすもとよ」奈緒は黙って頷いた。静かな部屋の中で蘭を見つめていると、不意に目頭が熱くなった。「お母さん、もう絶対にお母さんを怒らせるようなことはしないから。だから、これからは体に気をつけて、元気に過ごしてほしいの。こんなに大きなことは、もう隠さないで」「ちょっと、湿っぽ
Leer más

第143話

天を衝くような炎が、クラブ・ノクターンから勢いよく吹き出しているのだ。火の手は瞬く間に夜空を赤く染め上げ、中で楽しんでいた客たちもパニックになって外へなだれ出す。ニュースの中継には騒然とした現場が映し出されていた。消防車で駆けつけた消防隊が消火と救助活動に奔走し、警察も慌ただしく避難誘導を行っている。奈緒は動揺のあまり立ち尽くしていたが、すぐ我に返り部屋のドアを開けた。それとほぼ同時に、蘭も髪を振り乱して部屋から飛び出してきた。せわしなく服を羽織っている。「奈緒、クラブ・ノクターンで火災だって!すぐに行かないと!」連絡を受けたらしい蘭が、一目散に階段を駆け下りていった。「お母さん!待って!私も一緒に行く!」奈緒もパジャマのまま、蘭を追う。「あなたはここで留守番してて。黎ちゃんを一人にできないでしょ?私が状況を見てくるから」蘭が振り向いて怒鳴った。しかし、奈緒は頑として譲らず、蘭の手首を掴んだ。「お母さん、私も行く。お母さんは手術したばかりなんだから、何かあったら取り返しがつかないじゃない!黎のことは黒崎さんに頼むよ。私は絶対にお母さんと一緒に行くからね!お願い、今は……無理しないで。何があっても私と黎のために、絶対に生き抜くって約束して。お願い……お母さん」奈緒の冷たくも確かな決意に、蘭は一瞬息をのんだ。蘭の返事も待たずに奈緒は香織を呼び起こし、黎のことを託す。そして、駐車場へ走って車を出し、蘭に向かって早く乗るよう手で合図した。その手際の良さと母親を守り抜くという強固な意志に、蘭は数秒間呆気にとられてしまった。娘は子どもを産んでから、見違えるほど変わった。強く、たくましく、何があっても揺るがない。どんな壁にも臆することなく立ち向かうその姿は、以前とはまるで別人のようだった。これが母親になるということか、と蘭は少し誇らしく思う。しかし、これ以上感慨に浸る余裕もなく、蘭は助手席に飛び乗って、奈緒と共に火災現場へと向かった。30分後、クラブ・ノクターンに到着した二人。かつて宮殿のように豪華だった店が真っ黒になり、焦げ臭い煙が立ち込めている。その光景を前に、蘭の顔からみるみる血の気が引いていった。よろけそうになった蘭を見て、奈緒は慌てて彼女を支え、近くにあった椅子に座らせた。
Leer más

第144話

現場に駆けつけた奈緒と蘭は、すぐにその男が誰だか気づいた。その男は、蘭が少し前に解雇したマネージャーの神崎泰司(かんざき たいじ)だった。奈緒の瞳から感情が消え、冷たい光が宿る。「坂本さん、どういうこと?この人が犯人なの?」「ええ。すべてを認めましたので、火をつけたのは間違いなくこの男かと。自供の録音データもあります」蘭は信じられない思いで歩み寄り、泰司の髪を掴み上げた。「神崎さん、どうしてこんなことを?10年間も一緒にやってきたよね?末期癌だったあんたの母親の治療ができたのだって、私があんたに1000万円貸してやったからだよね?!それなのに、よくもまあ恩を仇で返すようなことを!」真司がどう追い詰めたのかは定かではないが、今の泰司はまるで怯えた小鳥のように震えている。激しい詰問に、泰司が全てを話し始めた。放火の理由は私怨だけではなく、「栗原」という女が、泰司に1億円を払うと持ちかけたのだという……栗原……美紀。その瞬間、奈緒の怒りが爆発した。栗原なんて名字の女……美紀以外に誰がいるというのだ。まさか、あの女がここまで冷酷で大胆だとは思わなかった。人を雇って放火させ、クラブ・ノクターンを灰にしようなんて。もし、蘭が改装時に最高級の防火材や最新のスプリンクラーを備えておらず、消火活動も遅れていれば、今夜、ここは地獄のような大惨事になっていただろう。奈緒は、美紀が本気で狂っていると感じた。私怨のためなら、クラブ・ノクターンにいた多くの命すら犠牲にするというのか?そんなことをしたら、殺人と変わらない。相手がそこまで救いようのない怪物なら、証拠を握るこっちが直々に、地獄を見せてやるまでだ。奈緒は真司にすべての録音データをまとめさせ、泰司を厳重に拘束した。今や、「身内」の絶大な能力を得た奈緒にとって、これらの事など造作もないのだ。奈緒は真司に情報を伏せるよう命じ、今はこのことを漏らさないようにと指示を出す。それから、車で蘭を木蓮邸まで送り届けることにした。木蓮邸までの道中、片手で軽やかにハンドルを切る奈緒。その所作は大胆で流れるように美しく、鋭い瞳には獲物を射抜くような強さがあり、凛とした美しさと近寄りがたい冷酷さをまとっていた。そしてその目元には、強い意志が滲んでいるのだった。
Leer más

第145話

「あははは……クラブ・ノクターン燃えちゃったんでしょ?あんたの母親の唯一の財産だったのにね。これであんたたちが誇れるものなんて、何一つなくなったんじゃない?!でもねぇ、死人が出なかったのは残念ね。誰か死んでた方がもっと面白かったのに……あんたの母親、ショックで言葉を失ってたって聞いたわよ。その姿を想像するだけで笑いが止まらないね……最高、最高すぎる!」相手はまたしてもボイスチェンジャー越しの声で話し始めた。使われたのは、悪意に満ちた不気味な男の声。その声は歪んでいて狂気に満ち、ひどく加工されている。まるで奈緒の鼓膜を突き破ろうとするかのような、不快でおぞましい響きだった。これもまた美紀の仕業だと、奈緒はすぐに理解した。本当に愚かで浅はかな女だ。こっちが怒りでどうにかなりそうになる度に、わざわざこうして不快な真似をしてくる。もういい。今回は我慢する必要なんてない。奈緒は冷え切った声で、受話器越しに言い放った。「美紀、そんな工作なんかしなくていいから。あなたがやったことくらい分かってる。気分は最高なんでしょ?でも、覚えておいて。今から、もっと最高なことを見せてあげるから」奈緒はそれだけ言うと、暗く冷酷な表情で電話を切った。電話の向こうで、さっきまで得意げに騒いでいた美紀は一瞬で凍りつき、持っていた携帯を床に落としてしまった。奈緒の冷え切った声を地獄からの冷風のように感じ、美紀の体が震える。本能的な怯えを感じて、静香に視線を向けた。「お母さん、今の聞いた?なんだか奈緒さん、やけに落ち着いてたんだけど……」静香も一瞬固まったが、すぐに首を横に振った。「ありえない。さっき確認したけど、警察は事故として処理してるみたいだし、証拠なんて残るわけないんだから。向こうは強がって脅してるだけよ。気にすることはないわ」美紀は少しほっとした。「うん。クラブ・ノクターンが燃えた今、あの二人に残るものなんて何もないもんね。お母さん。あんな人たちのことは忘れて、飲み直そう」今、美紀と静香は深津市にある高級会員制ラウンジで、最高級のブランデーを開けて騒いでいたのだ。ここ数日、裕弥の世話で疲れ果てていた二人。幸い、栗原家は孫の顔を見て怒りが収まったらしく、今日裕弥を引き取りに来た。しかも高額なベビーシ
Leer más

第146話

さらに静香は慈善活動にも熱心で、さまざまな公益イベントにたびたび顔を出していた。世間からの評判も非常によく、上流階級の夫人たちの間では、誰もが認める「善人」として知られていたのだった。この会員制ラウンジはプライベートが守られ、クラブ・ノクターンに次ぐほど、顧客の情報は徹底して守られている。もし奈緒に、どんなことでも叶えてくれる頼もしい「身内」がいなければ、ここへ入る資格も得られなかっただろうし、美紀たちが裏で繰り広げている、あられもない姿を見ることだってできなかったはずだ。今、個室の中の光景を目の当たりにし、奈緒は言葉にならない滑稽さを感じた。急いで中に入ることはせず、少し離れると、充へと電話をかける。水鏡ヶ丘が焼けてから、充は星影荘で暮らしていた。入浴を済ませたばかりの充は、クラブ・ノクターン火災の報せを受けたところだった。そこで、奈緒に状況を聞くため電話をかけようとした矢先、逆に奈緒から着信があったのだ。画面に浮かぶ「奈緒」の文字。充は胸がぎゅっと締め付けられ、急いで電話に出た。「奈緒、クラブ・ノクターンは大丈夫?それに、お義母さんも。何か俺にできることは……」奈緒はその問いに答えず、突然話題を変えた。「充、あなたにとって美紀ってどんな女?」面食らった充は、言葉を詰まらせる。「急にそんなこと聞くなんて、どうしたんだ?」数秒黙り込んだ充は、奈緒が何かに刺激されて、そんな考えに至ったのだと思った。「まさか、美紀が放火を命じたなんて疑ってるのか?そんなはずはないよ。あいつの性格で、そんな狂った真似はできないから」その言葉を聞いた奈緒は、思わず鼻で笑った。「じゃあ充の目には、美紀はどう映ってるわけ?」奈緒の真意を測りかねた充は、少し考えた末、慎重に答えを口にした。「美紀は小さい頃から臆病で単純だ。昔は魚をさばくのすら見られないような子だったんだから、火をつけるなんて絶対にありえない」奈緒は眉をくっと上げ、冷ややかな笑みを浮かべる。「そう?じゃあ聞くけど、そんな性格の美紀が、旦那さんのいない隙に会員制ラウンジへ行って、若い男を漁るなんてことは考えられる?」驚愕した充の呼吸が乱れた。奈緒が冗談を言っているのだと思い、反射的に否定した。「奈緒、どうしちゃったんだよ?そんな変なことを聞くなんて…
Leer más

第147話

充は衝撃ではっと息を呑んだ。携帯の画面越しに飛び込んできた信じがたい光景。広々とした個室の中。赤い大型ソファには、頬を上気させ、露出の多い服をまとった二人の女がいた。それぞれが上半身裸の若い男に寄りかかり、甘えたような姿をさらしている。その媚びた様子と見るに堪えない有様は、あまりにも目を覆いたくなるものだった。個室内は薄暗い照明に包まれていて、充には女たちの顔までははっきり見えない。ただ、ぼんやりとした輪郭だけが浮かんでいた。まさか……充は歩みを止め、大きく見開いた目で画面を見つめる。冷ややかな表情のまま、奈緒は携帯を高く掲げ、個室の中で酔いつぶれている美紀と静香へ向けた。そして、奈緒の背後には、まるで壁のように大柄な真司が、守護神のように無表情で控える。奈緒が現れ、自分たちにレンズが向けられていることに気づいた時、美紀は一瞬呆然としたが、次の瞬間、すぐに事態を理解し、甲高い叫び声を上げた。「ど……どうしてここにいるのよ?それに、ここは最高級のVIPルーム……どうやって入ってきたの?それに、なんで携帯を私に向けてるわけ!撮影なんて許さないから!携帯を今すぐしまって!」美紀は絶叫し、酔いも一気に冷めたのか、奈緒に襲いかかろうと暴れ出す。しかし、すぐに反応した真司が力任せに突き飛ばすと、美紀はよろめき、そのまま後ろに倒れ込んだ。静香も酔いが半分ほど冷めたのか、カメラを向けられた事に対して、本能的に手で顔を必死に隠した。いい歳をして、この状況でも自分の体裁を気にする余裕だけはあったらしい。静香は何も言わず、クッションで頭を覆った。「美紀、早く!追い出しなさいよ!何が何でも携帯を奪い取って!動画なんて撮られたら、二人とも今夜でおしまいよ!」そう叫ぶ静香の声は掠れている。美紀はテーブルを激しく叩いた。「スタッフは?警備員は?みんなどこにいるのよ!「プライバシー保護が売りじゃないの?どうしてこの女が勝手に入ってこられるのよ!早く何とかしてよね!」美紀の叫び声が部屋中に響き渡る。騒ぎに興じていた若い男たちは、一列に並んでこの状況に戸惑っているようだった。しかし、開け放たれている個室のドアの外に、人影は全くない。奈緒と真司は冷徹な視線でその様子を見つめ、まるで狂った二人を相手
Leer más

第148話

充の反応がないのを見かねて、奈緒は皮肉っぽく言った。「あまりの光景に、言葉も出ない感じ?美紀が今日しでかしたことは、これだけじゃないんだけどね。ああ、そうだ。あなた、さっき何て言った?美紀は魚をさばくのすら見られないような子だったんだから、火をつけるなんて絶対にありえないんだっけか?」充は低く声を絞り出した。けれど、その声音は自分でも気づかないうちに弱々しくなっていて、今では足が痺れたように力を失い、立っていることさえ心もとない。「奈緒……何か勘違いがあるんじゃないのか?」充はまだ、自分の見ている光景が信じられなかった。今、目の当たりにした事実は、充が抱いていた美紀と静香への印象を根底から覆すものだったため、この現実を受け入れるのに、少し時間が必要なのだ。これほどの証拠があってもなお美紀をかばおうとする充の態度に、奈緒は愛想が尽き、冷ややかな笑みを浮かべた。「勘違い?充、美紀に対するフィルターが相当分厚いみたいね。まあ、いいよ。今夜クラブ・ノクターンで起きた火事の証拠は、全部手元にあるから。警察に提出すれば、これが誤解なのか、誰かが計画していたことなのかはっきり分かると思うよ」奈緒の確信に満ちた言葉に、充は事の重大さを悟り、慌てて声を上げる。「奈緒、待て。少し落ち着いてくれ。今すぐそっちへ行くから」充は電話を切ると、なりふり構わず階下へと駆け下りた。先ほど充が電話をしていた場所は、部屋の外の廊下だった。翠はその時すでに、ドアの隙間越しに、彼と奈緒のやり取りを一部始終聞いていた。今夜クラブ・ノクターンが火事になったという知らせに、翠は興奮を隠せず、一睡もできていなかったのだ。しかし、奈緒の言葉を聞いて事態があまりよくないことを悟り、慌てて部屋を飛び出す。「充、こんな夜中にどこへ行くの?」翠は充がどこに行くか知っていたがわざと問いかけ、上着を羽織ると、充を追って自分も階段を駆け下りた。充が振り返りもせずに答える。「母さん、ちょっと急用ができたから出かけてくるよ」翠は何も言わずに充についていく。「私も行くから。今、奈緒から電話があったんでしょ?また美紀ちゃんのことを責めているのね。本当になんて女なのかしら!」充が車に乗り込むと同時に、翠も助手席へ滑り込んだ。驚いた充が横を見ると
Leer más

第149話

「奈緒、本当にそうなのか?」充の眉間にはしわが寄り、その口からは本能的に奈緒への疑いが放たれたのだ。奈緒の体の中で、何かが音を立てて崩れた。彼女は充を鋭く睨みつけ、歯を食いしばる。「ええ!その通りよ!酒は私が無理やり飲ませて、若い男たちと抱き合えって強要したの。ここへ連れ込んだのだって、私が縛って引っ張ってきたんだから。彼女たちは世界で一番清らかで無実で可憐な女性。汚れきって卑しいのは、必死に彼女たちを陥れようとする私だけ。充、私がこう言えば満足?」奈緒の言葉の一つひとつが、まるで鋭いナイフとなって充の心を突き刺した。充は、自分が今口にした言葉こそ、この世で最も愚かな過ちだったのだと気づいた。その瞬間、頭が真っ白になり、もう何も言い返せなくなる。その様子を見ていた翠の表情は、怒りで暗く染まっていた。翠は眉をひそめ、抑えきれない怒りをあらわにする。「静香、美紀ちゃん……あまりにもみっともないわ!こんなことして、利明さんや仁哉に知られたら……」翠は腹を立てて地団駄を踏み、目も当てられないというふうに、手で目を覆った。「さっさと服を着て、今すぐ帰るわよ!」翠は目を忙しなく動かしながら、この場をなんとか誤魔化そうと必死に静香たちへ視線で合図を送る。そんな翠を見て、奈緒は鼻で笑った。「帰る?そう簡単にこの場から帰れるとでも――」翠は瞬時に表情を険しくさせ、奈緒を鋭く睨みつけた。「奈緒、今度は何をする気?ただ美紀ちゃんたちが内緒で気晴らしに飲んだだけのことでしょ?何をそんなに騒ぎ立てることがあるわけ?身内なんだから少しは大目に見なさいよ。まさか写真をSNSに流して、恥をかかせるつもりじゃないでしょうね?」翠の目に獣のように冷酷な光が宿る。「いい?今日の写真を一枚でも世に出してみなさい……私が生きている限り、あなたには二度と青木家の敷居をまたがせないから!信じられないっていうのなら、やってみなさい!」妹と姪の評判を守るため、翠は脅しをかけた。しかし、奈緒はまるで世界一滑稽な冗談を聞いたかのように笑い声を上げた。「なんだか、私がとっても青木家に入りたいみたいな言い方ですね。私は一日も早く青木家から出たいのに、充が私にしがみついて、私と離婚してくれないんですけど?ちゃんと状況を
Leer más

第150話

声を荒らげて泣きわめく美紀。奈緒は自分の足にまとわりつく美紀を見て、言いようのない不快感を覚えた。さっきまで電話であれだけ強気だったのに、今はただの腰抜けみたいに、自分に縋り付いてくるなんて。本当に情けない女だ。こんな女が、いったいどうして長年にわたって充の愛情を受け、仁哉にまで庇われてきたのか、奈緒には到底理解できなかった。奈緒は時折、男という生き物に対して、どうしようもないほど困惑することがある。いったい何を考えているのか、さっぱり分からないのだ。奈緒は冷ややかな目で美紀を見下ろすと、力任せに足を抜き取り、十分な距離を取った。床に振り払われた美紀は、胸を押さえながらさらに泣き喚く。「充さん、お願い!私とお母さんのために何とかして!私と裕弥との関係も、お母さんとお父さんの関係もよくないっていうのに、こんな写真が流出したら、私たちはもうおしまい……本当に、何もかも終わりになっちゃうよ」そして、静香はというとその場に立ち尽くしたまま、視線をきょろきょろさせ、落ち着かない様子だった。今の彼女の頭の中は完全に混乱し、考えはとうに遠くへ飛んでしまっていて、もう言葉すら発せなくなっていたのだ。静香は美紀よりも、背負っているものが多かった。夫である利明の反応、そして利明が囲っている愛人たちに、陰で笑われるのではないかという恐怖。それにこれから先、さまざまな慈善活動の場にどうやって顔を出せばいいのか?どうすれば失った評判と体面を取り戻せるのか……今の静香の心を占めているのは、ただ後悔だけだった。自分は、なぜ美紀と一緒にここへ来てしまったのだろう。なぜ調子に乗って、こんな愚かな真似をしてしまったのか……なぜ酒に酔った勢いで、長い間押さえ込んできた心の奥の狂気を曝け出してしまったのか……すでに手遅れだと思いながらも、静香は救いを求めて翠の方を見た。しかし翠は、まるで火の粉が自分に降りかかるのを恐れるように、何も言わずそっとその場から距離を取る。そんな彼女たちを、奈緒は冷めた目つきで見つめていた。もうそろそろ潮時だと判断した奈緒は、軽く咳払いをすると、優雅にソファへと腰を下ろし、小鼻を撫でた。「世間に晒されたくないんですよね?だったら、条件が3つあります」すぐさま美紀が顔を上げた。「条件って何ですか?私たちがで
Leer más
ANTERIOR
1
...
1314151617
...
26
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status