充は勢いよく顔を上げた。ドアの向こうには、波打つロングヘアに純白のスーツを着こなし、氷のように冷ややかな瞳で充を見つめる蘭が立っていた。充は本能的に身がすくむのを感じたが、礼儀として声をかけた。「お義母さん……」「何がお義母さんよ、誰がいつあなたのお義母さんになったわけ?」「そんな呼び方しないでくれる?しかも、あなたの母親は翠なんだから、私とあなたの間に関係が生まれることはないよ」充は冷や汗を拭い、気まずそうに呟いた。「お義母さん、俺は奈緒とまだ離婚してない。それなのに……」蘭は鼻で笑い、含みを持たせて言った。「へえ、奈緒とまだ夫婦だっていう自覚があったんだね?それじゃあ聞くけど、奈緒が出産したとき、あなたはどこで何してたの?」言葉を詰まらせる充。「それは……」「奈緒が産後で大変な思いをしている時は?あなたはどこにいたんだろうね?」やはり充は無言で立ち尽くすしかなかった。蘭は腕を組み、ドアを指さす。「出産の時も産後もいなかったんだったら、この結婚生活を続ける意味がないと思わない?青木家が黎ちゃんを必要としていないことも、よく分かったし。だから、ここから出て行って。ここはあなたが来るところじゃない」蘭の言葉には一片の迷いもなかった。これまで、この男がどれほど気に入らなくても、どれほど彼の母親を憎んでいても、娘が嫁いだ相手である以上、奈緒が肩身の狭い思いをしないようにと、少なくとも表向きは充の顔を立ててきた。この5年間、娘が肩身の狭い思いをしてきたことは、誰よりも分かっていた。それでも、込み上げる怒りや文句をぐっと飲み込み、ひたすら胸の奥に押し込めてきたのだった。全ては、奈緒に幸せになってほしかったから。だが今は、怒りで充の顔をたてる余裕などない。自分たちの忍耐も犠牲も、結局は相手の傲慢と軽蔑を深めただけに過ぎなかった。ならば、もう容赦はしない。蘭の凍てつくような瞳には、強烈な拒絶の意志が宿っていた。充は顔を強張らせ、縋るように奈緒を見たが、彼女も冷たい表情のまま目を合わせようともしてくれなかった。「分かった……お義母さん、奈緒。また日を改めて黎に会いに来るから」充は溜息をつき、苛立ちを抱えたまま病室から出て行った。充がいなくなるとすぐに、蘭は病室のドアをしっかり
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