「充、今日で赤ちゃんが産まれてから1ヶ月経つの。私たちを迎えに来てくれない?」青木奈緒(あおき なお)は、おくるみに包まれた娘を抱きながら、期待を押し殺した落ち着いた声で言った。しかし電話の向こう、夫の青木充(あおき みつる)は感情の起伏がなく、平坦な声で言った。「すまない、急に予定が入った。運転手にお前たちを迎えに行かせるよ」出産も、産後の大事な時期も、充はずっと仕事で忙しいと言ってそばにいなかった。今日は赤ちゃんと一緒に産後ケアの施設から帰る、記念すべき日なのに、やっぱり彼は来てくれない。奈緒は切なくなったが、それでもこぼれ落ちそうになる涙を必死にこらえた。「……そう、わかったわ」「奈緒、お前はいつもしっかりしているから、出産くらい、お前なら一人でも大丈夫なはずだろう。しっかりしろ、お前は最高の母親だ」そう言うと、充は電話を切った。そのまるで部下を励ますような口調に、奈緒の心はチクッと痛んだ。そんな時、充の友人である中山拓也(なかやま たくや)から電話がかかってきた。「あのう、すみません!今夜、急に用事ができちゃって、華月ホテルでの出産祝いのお披露目パーティーに行けなくなっちゃいました。息子さんのご誕生、本当におめでとうございます!」出産祝いのお披露目パーティー?息子?奈緒がわけもわからず問い返そうとしたが、拓也はもう電話を切ってしまっていた。そして続いてピポンとPayPayの受け取り通知が鳴った。拓也からお祝いとして20万円が送金されてきた。しかし、その送金のメッセージは1分も経たずにすぐに取り消された。「すみません、奈緒さん!俺の勘違いでした。出産祝いはあなたのことじゃなかったみたいです」すぐに拓也から謝罪のボイスメッセージが届き、立て続けに謝るスタンプがいくつも送られてきた。でも、そのやけに低姿勢なスタンプの数々に、奈緒は何か引っかかるものを感じた。その瞬間、嫌な予感が彼女の胸をよぎった。それから昼の11時。奈緒は黒のダウンジャケットを着て、帽子とマスクで顔を隠し、深津市にある華月ホテルの最高級パーティー会場の入り口に立っていた。パーティー会場の入り口は、大勢の人でごった返していて、とても華やかだった。入り口には大きく、【祝・栗原裕弥(くりはら ゆうや)くんお披露目
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